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水と鼓動(17)

 みなもの瞳が水色に輝く。シーナはみなもから感じるオーラを受け、フワリとした緑色の髪をなびかせていた。


「サナは人目に触れることなく、閉じこめられた。巫女としても、人としても扱われぬ穢れ者として恥辱を受けながらも生きた。子が産まれると、顔を見る間もなくサナと子は引き離された。村では七つの歳までは子は神の子であるから、粗末には扱えぬ。サナから引き離され、孤独な牢の中で母の顔も知らず子は育っていった。

 月日が流れ。子が七つの歳を迎えたとき、サナは牢を出ることが許された。ある役目をおってな」


「役目だと」


「そうじゃ。その役目を果たせば、穢れを祓われたとして、牢から出され、人として扱うというのじゃ。サナはその役目のために牢を出されると、七つとなった子と会った。初めて見る子と母。互いの心はすぐに解け合った。

 サナは役目のために、氏神を祀る社へと子と参った。手には七つの歳を祝う札を持ち、懐にはやいばを忍ばせてな」


「刃・・・・・・!?どういうことだ」


「この村の巫女はの、十の歳になると氏神に捧げられるのじゃ。まさに人柱じゃ。本当ならサナもそうなるはずであった。じゃが、穢れ者として人としても受け入れられなかった。子が七つになり神の子でなくなったことで、その子を神に捧げよというのじゃ。サナは札を納め、子の七つの祝いをすると同時に神に捧げることを命じられたのじゃ」


「なにをバカなことを。人がそのような愚行をするのであれば、それを正すのが神の役目ではないか。第一、人柱など神謀かむはかりで神々に知られることになろう。いったいそこの氏神は何をしておるのだ」

「その氏神がそうさせておるのじゃ。神謀りなんぞに上がるわけもなかろうが。話はまだ途中じゃ」


 いきどおる火の神をみなもが一言で黙らせた。


「サナは社の前で子に刃を振り上げた。サナが受けたこれまでの苦しみ、恥辱が刃を振り下ろすことで解放される。その思いはあったであろう。辺りでは神だけでなくおこぼれをあずかろうと魑魅魍魎まで集まる始末じゃ。その中でお互い見つめ合い、子は悟り、覚悟を決めて微笑んだ。どのような思いで子を見つめたことか。

 子に振り下ろすはずの刃は、魑魅魍魎へと向けられた。札を納めることなく、サナは子を連れ逃げた。襲い来る物の怪を切り払い子を護った。じゃが、抗う力もいずれは尽きるものじゃ。逃げ切れぬと悟ったサナは、子を洞穴ほらあなに隠し、己の身一つで襲い来る敵に挑んだ。じゃがな、その襲い来るものの中には新たに選ばれた巫女もおった。三つになる幼い巫女じゃ。その巫女がサナの前に現れた。かつての己と同じ幼い巫女を前に、サナは切ることを躊躇ためらった。僅かであるが、後れをとったのじゃ。そして巫女に討たれた。巫女は、サナが散りゆく間際に己の勤めの罪が深いことを知った。幼い巫女はサナの意を汲むことで、巫女としての業を背負おうとしたのじゃ。」


 みなもは言葉を続けた。火の神は、微動だせず、みのもの語るサナの姿をオーラの中で描いていた。


「サナが持っていた札が見つかれば、村人はサナが子を氏神に捧げなかった事を知り、探して殺すであろう。そう思った巫女は、サナより札を預かり、己の封印により閉じた。子を見つけ、その札を持たせた。じゃがな、不思議なことにサナを匿う神もおった。言わずもがな、巫女に協力したのじゃ」


「卯の神と放浪神か」


「そうじゃな。それだけではないがのう。それに、その地はまだ呪われたままじゃがの。その地の人はいったい何の罪を背負うておるのか」


「ここに来た経緯は分からぬが、とにかくこの建物に集まっていたのは、サナを匿うものたちということか」


「そうじゃ。人の目にも神の目にも触れられたくはなかったのじゃ。本当なら、とうに刈られておるはずの邪鬼の御霊を受け継いだ子がいるのじゃからのう。死神しがみには知られたくなかろう」


「じゃあ、優里がこの場から消えたのは」


「おそらく、村にかけられた罪と呪いを受けたのじゃ。その地に向かうようにな。助けようとしたが、呪いをかけた者に見つかってしまうため卯の神も動けなかったのじゃろう。じゃが、儂らが来たことで、隠れていたものに触れてしまったのじゃ。死神はその事を知っておって、目をつぶっておったのじゃ。おまけに鉄鎖の神の巫女もどきまでもが嗅ぎつけてきた。そして、風、お主も知っておったのであろう」


 みなもの髪が風に揺らめいた。シーナは黙ったまま空を見上げていた。


「よいか、風。これから先、儂が必要と思うたら、あの建物に入るぞ。お主の縛りは受けぬ。あとで何とでも申すがよい」


 みなもの眼は青く光を放ち、サナを見つめた。

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