水と鼓動(16)
みなもの言葉が物語を紡ぐ。その言の音を火の神とシーナは聞いていた。
「・・・・・・村があった。そこでは三つになる女子を巫女とする慣わしがあった。巫女として選ばれた子は、村を護るために物の怪を祓い、氏神を清める勤めをもつという。サナも巫女として選ばれた者じゃった。サナは、勤めを果たし、巫女として成長した。じゃが、歳が十になったとき、サナにとっても村にとっても大事が起こった。
大きな群の邪鬼が村を襲った。その群はとてつもない数と強い力を持っておった。サナは巫女の勤めとして邪鬼に立ち向かい、勇敢に戦い、ついに頭領を追いつめていった。じゃが、サナは激闘のために既に力を使い果たしておった。強力な群を作る頭領じゃ、その力もさぞ強かろう。サナは懸命に闘うが深手を負い、命を消す寸前であった。そのとき、ある者がサナを助けた。それが、小さな群の頭領じゃった。サナも村もこの小さな群の頭領に救われた」
「邪鬼が巫女を救っただと。だが、それならばよい話でなはないか」
火の神が言葉を挟んだ。みなもが頷く。
「確かにここまでなら、めでたいことじゃ。じゃがな、サナにとっては運命を変える出来事じゃった。深手を負ったサナは邪鬼の元で介抱されておった。じゃが、頭領も同じく深手を負ってのう。お互い深く傷を負い命の灯火がいつ絶えてもおかしくない日々を過ごした。そのような中でおれば、巫女と邪鬼とはいえ、心を通わすこともあろう。
知ってのとおり、神の決断によって邪鬼の御霊は増えることはない。人の御霊を新しき邪鬼の御霊に変えることで数を保っておる。
ついに邪鬼の頭領の命は尽きようとした。そのときサナは、己の御霊を与えることを決めた」
「それは己の身を捧げるということか」
「そうじゃ。驚くであろう。ありえんことじゃろ。神に仕える巫女が氏神のためでなく邪鬼のためにその身を捧げる。当然、村の仕来たりを破ることになる。そのようなこと承知のうえじゃ。サナにはもうそれしか考えられなかった。
じゃが、邪鬼の頭領はサナの申し出を断った。そうではなく、逆に己の御霊をサナに託すことにしたのじゃ」
「いや、まて。それはなぜだ。いや、そうなればどうなる。それは」
火の神の顔が険しくなる。いつもは幼い光を放つシーナの瞳が鋭くみなもを刺す。みなもは、静かに眼を閉じた。
「サナの中に邪鬼の御霊が迎えられた。巫女の身体にその御霊は取り込まれ、清められ、新たな御霊となった。その結果、サナは子を身ごもった。十になる巫女が子を身ごもったのじゃ」
火の神は信じられないという顔でみなもを見ていた。今度はシーナが静かに眼を閉じていた。
「サナは子を身ごもり、村へと戻った。行方知れずとなっていたサナが戻ったのじゃ。じゃが、村では無事を喜ぶどころか、サナは穢れを持った者として人目につくことなくその身を隠された。冷たい仕打ちとともにな」
「幽閉されたということか。いくら村の仕来たりとはいえ、仮にもその地と氏神に尽くした者だぞ」
「火の神よ、まだ暑苦しい声を上げるには早すぎるぞ。サナへの過酷な仕打ちはこれからじゃ」
みなもの声が、月の光が消えかけた静かな夜に溶け込んでいった。




