水と鼓動(14)
実菜穂は立ち尽くし、目に見えている光景に引き付けられていた。実菜穂の前では、陽向が子供の巫女を次々に切り祓っていた。まだ幼い巫女を切る陽向の顔は、悲しみと苦しさを押し込めた厳しい表情をしていた。
(これは、ここで起こっていたこと。どうして私に見えるのだろう。
これも巫女の力なのかな。だとしたら、私以外でも見ることが出来るものなのかな)
陽向が素早く一太刀、一太刀、丁寧に切り払っていく。悲しみと哀れみを纏う陽向の姿に実菜穂は見とれていた。悲しみ、苦しみ、それらを一身に受けながらも美しい光を放ち、揺らぐことのない意志のもとに切っていく姿はまさに穢れを祓い清めていく巫女であった。
(美しい・・・・・・。これほどの悲しみを背負いながら、陽向が小さな巫女を清めていく。祓われた後の巫女は、美しい光を戻して笑顔でいる。本当に陽向は火と光の神の巫女なんだ。でも、この光景は陽向のものではない。それなら、これは誰の意志なのだろう)
実菜穂の前から陽向の姿が消えた。再びフロアは光を消していった。
「それは、私の思念です」
音がないはずの空間で、実菜穂は確かな声を聞いた。
「だれ?」
実菜穂が振り向くとそこには小さな巫女が立っていた。長い黒髪に幼いながらも陽向のように温かい優しい瞳をしていた。
「あなたは巫女なの」
実菜穂の言葉に返事をすることはなかったが、優しい笑みを浮かべていた。幼い巫女の笑みは、実菜穂の気持ちを温かくしてくれた。
巫女が実菜穂に言葉をかけた。
「私はキナといいます。ここで私の姿が見えたのであれば、卯の神が託したということでしょう。どうかサナを救ってください。私では叶わなかった村人の受け継ぎし罪を晴らしてくれたなら」
キナの言葉に実菜穂は戸惑った。
「サナというのは、白い着物の女性ですか」
実菜穂の言葉にキナは頷いた。
「サナもまた巫女でした。そしてサナを切ったのは私です。それが私の巫女としての初めての勤めでした」
「えっ!」
衝撃的な言葉に実菜穂は凍りついた。まだ幼い巫女が人を切ったと言うのだ。それも同じ巫女をだ。
「サナは村の罪と己の穢れを纏ったまま御霊となりました。それを憐れみ匿った神がいました。その神までにも呪をかけた神がいます。どうかサナを救い、村の罪を晴らしてもらえたら。私には叶わなかった願いです」
「えっ、ちょっ、どういうことですか」
キナは深く頭を下げると姿を消した。
実菜穂がキナという巫女の言葉に衝撃を受けて呆然としていた。
(なんだあ。いかん、ここにきて私の情報処理が追いつかない。まずいぞ。落ち着け実菜穂。私はみなもの巫女だ。こういうときは、情報整理して)
実菜穂が今までの状況から目的を整理した。
・優里を探すこと。
・陽向、霞を救うこと。
・卯の神を見つけること。
・サナという女性を救うこと。
・キナという巫女の願いを叶えること。
(この中で第一は陽向、霞ちゃんを助けること。それには卯の神を見つけて音を与える。それにはサナを救う必要がある。ここまでだ。とにかく、残りはその後だ。ここを切り抜けなければ、後がないのだから)
頭の混乱から解放された実菜穂は、キナが消えた先に木箱と壁に文字が書かれていることに気がついた。
「なんだろう」
実菜穂は近づき木箱を拾い上げた。蒲鉾板の大きさで、これも年月が経っていそうな風合いをかもし出していた。
「これは開くぞ」
中を開けると円柱の物体が三つあり、それぞれ丸い部分には文字が入っていた。ちょうど短く小さな判子のような感じである。
(これは、もしかして)
実菜穂は持っていた木箱の穴と見比べた。
「これは木箱の鍵だよ。だけど、三つあるぞ。正解が一つということか。この文字は何だろう」
鍵に彫られている文字を見ていく。
一つ目は「神」、二つ目は「鬼」、三つ目は「人」である。
「う~ん。鍵を入れたら、神成、鬼成、人成かあ・・・・・・どれも正解のような気がする。あっ、壁に何か書いてあったな」
実菜穂が壁に書かれている文字を目で追っていく。
【火と光が背を照らし
風が後を支え追う
水は闇を見つけ穢れを祓おう
願うはナナガシラの罪が晴れること】
「どういうことだろう。火と光、これは日御乃光乃神のこと。風は級長乃神のこと。水はみなも。それなら答えは「神」なのかな」
実菜穂が「神」の鍵を取り出して眺めていた。
『実菜穂の姉ちゃん、もっと子供になりなよ』
実菜穂の頭に水闍喜の声がこだました。
「そうだ、これは遊びなんだ。なら、これだな」
実菜穂は神の鍵を戻すと別の鍵に手を伸ばした。




