水と鼓動(11)
実菜穂のお願いする姿に水闍喜は、幽閉の状態の不満をひとまず端にどけておいて頷いていた。
「しょうがないなあ。実菜穂の姉ちゃんに頭を下げられたら断れねえや。知らないのかい?穢れ者ってんのは、物の怪に憑かれたり、仕来たりや禁忌を破って不浄を受けた者だよ。これは、金持ちでも貧乏でも関係なく、家や集落の恥だ。他の人や神に知られたくないから隠すのさ。ちょうどこんな具合に座敷牢に閉じこめるのさ」
水闍喜は白色に輝く格子を揺さぶって見せた。もちろん格子は揺るぐことなく、水闍喜がゼイゼイと息をして無駄な足掻きであることを示していた。
「それで閉じこめられたらどうなるの?」
「そりゃあ、死ぬまで出ることはないよ。その家や地元の恥として知られたくないのだからね。死んだって葬式なんてありゃしないよ。まあ、その前に家系が絶えてしまうとか、穢れが清められれば、出られないこともないけど。そんなこと希だね。おいらはアチコチといくつも見てきたけど、街中よりも案外、村とかのほうが人目を気にしていたみたいだけどね」
「そんな・・・・・・ねえ、閉じこめられたら水闍喜のように首とかつながれるの?」
実菜穂は水闍喜の首に巻かれている蔦を触りながら、絞まり具合を確認していた。
「ちょっ、くすぐったいよ」
「あっ、ごめん。苦しくないかなと気になって」
「そりゃあ、いろいろ事情によりけりだよ。大人しくしてあまり手が掛からないのなら、閉じこめておくだけで済むよ。まあ、暴れたり、すごい力のある者は拘束することもあるけどね」
水闍喜が首と足に巻かれた蔦をグイッと引っ張り、頑丈であることを実菜穂に示した。
「あれっ、実菜穂の姉ちゃんが触ってくれた首が楽になったよ。さっきまで絞まっていたのに、苦しくなくなった。法術が解けたんだ。さすが水面の神の巫女だ」
「へっ、そうなの?私にそんな力あるのかな」
感心している水闍喜を見ながら、実菜穂はここぞとばかりに次の疑問を投げかけた。
「水闍喜、もう一つ知恵を借して欲しいの」
「なんだい?おいらも用事を済ませたいんだけど・・・・・・まあ、実菜穂の姉ちゃんの頼みなら聞くよ。その代わり、水面の神にはおいらのこと格好良く伝えてくれよな」
実菜穂はウンウンと何度も頷いてから、ノートを水闍喜に見せた。
「なんだい?【ごようのないものとおしゃせぬ このこのななつのおいわいにおふだをおさめにまいります ひとはみなかみのこかみのこ】・・・・・・なんだ子供が遊びに歌うやつじゃないか。実菜穂の姉ちゃん、この歌知らないのかい」
「もちろん歌は知ってるよ。その後にある言葉。これは、歌にはないよね」
指で言葉を示しながら、実菜穂は自分の解釈を説明した。水闍喜は
「ふ~ん」と聞いていたが、考えることもなくすぐに答えた。
「実菜穂の姉ちゃんの答えで半分はあってると思うよ」
「半分?と言いますと・・・・・・」
水闍喜は実菜穂を「ほんとに分からないの?」という顔で見ながら、ノートの言葉を示した。
「ひとのこが女の子って考えができたなら、「かみのこ」の意味も分かると思うんだけど。これはね、子供の言葉遊びなんだよ。昔の子供をバカにしちゃいけないよ。数も知っていれば文字だって読めるんだよ。それで、言葉で遊んでいたりもしたんだ」
「言葉で遊ぶ・・・・・・なぞなぞとか暗号みたいなもの?」
「まあ、そんなものかな。そのまま読んでも意味があるから見落とすけど、分かればなんてことないよ」
「それで「かみのこ」にはどんな意味があるの?」
「実菜穂の姉ちゃんが、「ひとのこはみな」の考え方と同じだよ。「かみのこ」つまり、「か」って加えることだろ。何かに3を加えると5になるってこと」
「3を加えると5になるものは、2だ!2と2・・・・・・あれ、余計に混乱してきたぞ」
実菜穂が頭を抱えると水闍喜は軽くため息をついた。
「実菜穂の姉ちゃん、もっと子供になりなよ。難しく考えるから混乱するんだぜ。「かみのこ」は神様の元に帰る。だから、両方から2と2を取ればどうなる?」
水闍喜がポコポコと水のお手玉を作り出した。実菜穂が玉を並べて手を動かしていく。
「あっ、真ん中の玉が残る!」
「そうだよ。3番目の玉のことを言ってるんだ。何を示しているのかわかんないけど、他に何か言葉があるんじゃないかい」
「あるある・・・・・・ひとのこはどこにいった」
(えーっと、「ひとのこはどこにいった」だ。単純に考えたら、女の子で5はどこにいった。女の子で5が関係するものはどこだ・・・・・・あっ、トイレだ。女子トイレ!たしか個室が5だ。2と2を取って、3番目の個室。そうだ、そこに秘密がある)
実菜穂が目を輝かせた。
「水闍喜ありがとう。すごいよ水闍喜。謎解けたあ。格好いい」
実菜穂が水闍喜の手をこれでもかというくらい上下に振って喜ぶ。
さすがの水闍喜も実菜穂の喜ぶ勢いに圧倒されて振り回されていた。
「ちょっ、ちょっとお。分かったから、そんな馬鹿力で振り回さないでくれ。巫女の力でぶん回されたら手が千切れるぜ」
喜びと感謝のの笑顔を見せる実菜穂に満更でもない水闍喜であったが、さすがに腕が飛びそうになり叫んだ。
「ごめんなさい」
実菜穂がパッと手を離すと、水闍喜は投げ飛ばされるように後ろにすっ飛んでしまった。
「いてーよ!イワナガヒメより扱いが酷えなあ。そうだ、そろそろおいらの用事を済ませてもいいかい?」
水闍喜は床にぶつけた背中を撫でながら実菜穂に近づいてきた。




