水と鼓動(9)
実菜穂はすぐに鏡を見た。
【行きはよいよい 帰りはこわい こわいながらも
とおりゃんせ とおりゃんせ
ひとのこはどこにいった】
(ひとはみなかみのこ、ひとのこはどこにいった・・・・・・人の子はどこに行った・・・・・・いなくなった。神の子から人の子になった。御札はどこにおさめた)
頭の中に言葉が並べられていく。
実菜穂は再び飛び出すと今度は会議室に入った。ホワイトボードに言葉を並べていく。
(ひとはみなかみのこかみのこ。ひとは10のこと?みなは3と7だとしたら
10=3+7にはならないか)
数字を書き入れていく。
「10は人の子だ。3と7はなんだ?【この子の七つのお祝いに】三歳と七歳でお祝いするのは女の子だよね。人の子は・・・・・・女の子。なんだ?女の子はどこに行ったってこと・・・・・・わからん。私が知りたいくらいだ」
文字を睨みながら悩む実菜穂がボードに映る影に気がつき振り向くと、女が襲いかかってきていた。
身体を後ろに反らしボードの脚に躓いて転んだことで、幸いにも女の一撃からは逃れた。すぐさま起き上がり、ドアへと走る。机で作られた細道をすり抜けたとき、ふと頭に歌詞が浮かんだ。
【ご用のない者とおしゃせぬ】
実菜穂は、手に鉄の弓を引き寄せると細道の先端に立ちふさがり弓を構えた。それはまさに随身門の神の姿だった。
女の動きが止まった。
「ご用のない者とおしゃせぬ」
実菜穂が声を上げる。瞳を光らせ、毅然とした気を放っていた。女は静かに実菜穂を見つめている。このとき、実菜穂は初めて女の姿をまともに見た。長く伸びた髪で隠れた瞳は切れがあり、顎は締まっている。少しきつめな顔つきだが、それは芯の強さを感じさせるもので、けして他の者を傷つけるような尖った雰囲気ではなかった。何より驚いたのは、年齢が自分と同じくらいに見えることだ。まだ若い容姿。だが、その身体はあまりにも細く、栄養が不足しているのではないかと思えるほどである。最後に実菜穂の注意を引いたのは、首と右足首にある痛々しい痣であった。
女が細い顎を動かしていく。実菜穂は必死でその口の動きをまねた。
「このこの ななつの おいわいに おふだをおさめに・・・・・・」
(やっぱり!この女性は、「とおりゃんせ」と同じ境遇の人。そして、御札をもっていない。御札はどこかにある。女の子がいる。それが分かれば)
「その御札はどこにおさめた」
確証を得たとばかりに実菜穂は番人になりきり質問をした。女は言葉に詰まり身体を強ばらせた。
(くる!)
実菜穂は弓を構えたままゆっくりと後ずさりをして距離をとると、五歩離れたところで向きを変えて階段の方へと駆けていった。実菜穂に反応して女もその後を追っていった。
(女の子、御札。それが鍵だ。私が知らない3階か2階に行けば何か見つかるかもしれない)
実菜穂は3階へと階段を下りていった。




