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水と鼓動(6)

 振り向く間もなく、実菜穂は出入口の方向へと身体避けた。振り下ろされた包丁が実菜穂の肩をかすめていった。


「つっ!」


 驚きと恐怖で頭が混乱しているのに、身体は冷静にお手洗いを飛び出していく。

 包丁がかすめた服は小さく破れ、うっすらと血が滲んでいた。


(なになに?)


 うまく走れずにドタっと廊下に転んだ実菜穂は、素早く這いながら転がるように目の前の部屋に飛び込んだ。


(ここは倉庫だ)


 実菜穂はすばやくロッカーの中に身を隠した。何か動いているのが見えた。実菜穂を襲った正体不明のものが部屋に入ってきたのだ。人なのか物の怪なのか分からない。見た目は人である。伸びた髪が腰まであり、前髪でほとんど顔が隠れている。ただ、瞳の光はハッキリと見えた。白い薄い着物の姿。いまの時代ではお目にかかることはあまりない格好だ。


 実菜穂は息を殺して、隙間から部屋の中の様子を見ていた。

 白い着物の女がウロウロと部屋を歩いている。実菜穂は早く女が出て行ってくれることを祈った。


(あれは何?人なの?物の怪なの?凄まじい怨念を感じた。恨み、でもそれだけじゃない。悲しみ、怒りのようなもの。何だったんだろう。それよりもどうして私が隠れなければならないの。私が見つける役なのに)


 女は部屋を一周回るとそのままドアを開けて出て行った。


(ロッカーを開けたりしなかったな。どうしてだろう)


 女が戻ってこないことを確認してから、静かにロッカーから出ていく。ドッと一気に緊張が解き放たれ、大きく息を吐いた。

 用心しながらドアに近づき、辺りの様子を窺う実菜穂は、足下に落ちているノートを見つけた。


(前に見たノートだ)


 ノートを拾い上げ、ページをめくっていった。


【ごようのないものとおしゃせぬ このこのななつのおいわいに


 おふだをおさめにまいります


 

 ひとはみなかみのこかみのこ】


 実菜穂は何度も文字を読んでいく。


(なーんか、引っかかるんだよな。これが青の神様の仕業なら、どうして「とおりゃんせ」の歌なんだろう。やっぱり、意味というか伝えたいことがあるのかな。あーっ、と言っても、さっきの人はなんなんだあ。とにかく、いまは青の神様を探さないと)


「よし、いない」


 ノートを丸めて握りしめると、警戒しながら部屋を出て行った実菜穂であるが、廊下に立った瞬間、再び凍りついた。一番奥の階段の場に女が立っていたのだ。階段付近を探していたのか、ドアから女の姿は確認できなかったので飛び出してしまった。

 

「まず!」


 実菜穂が意識したのと同時に女も実菜穂に気がつき、瞳を光らせて襲いかかってきた。


 実菜穂はまたもや訳が分からぬまま、今度は男性用お手洗いに逃げ込んだ。

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