水と鼓動(2)
実菜穂と青の神が手を握りあっている。
「実菜穂が音を失う前に、遊びのこと伝えておきます。実菜穂が私に音を与えてくれたら、この遊びはお終いです。柱を隔てていた壁は解かれ、陽向と霞も助けることが出来るでしょう。もちろん、それには実菜穂が私を見つける必要があります。何か知りたいことはありますか」
「私が青の神様を見つけるのに許される時間は、どの程度ありますか」
「はい。夜が明けるまでです。日の出がこの遊びの終わりを告げることになります。ただ、日の出まで遊べば、陽向と霞は保たないでしょう。では、遊びましょう」
青の神が手を強く握るのと同時に、実菜穂の耳からは音が全て消えてしまった。無の状態になる。周りの景色は見える。口も開く。でも、全ての音が消えた。得体の知れない違和感が実菜穂に覆い被さる。
辺りをキョロキョロと見渡す実菜穂を見ながら、青の神は明るく笑っている。だが、実菜穂にはその笑い声、いや、空気の流れすら音として感じることができず、青の神が視界に入っていることで、笑っていることが分かった。
(音が消えるって、こんなに不安定なことなの。視界に入るもの以外何も情報がないことが、これほど怖いとは思わなかった)
そう、これは雑音や音楽で耳を塞いでいるわけではない。完全に耳の機能を失っているのだ。聞こえるはずのものが聞こえない。無窮の空白にいるように、自分の存在さえ感じることができなくなっていた。
音を無くした自分に驚く実菜穂に、青の神は手を広げて十数えるように合図をした。実菜穂が声に出して数えていく。その間に青の神は奥の部屋へと姿を消した。
十を数え終わった実菜穂が一歩踏み出したとき、思わぬ身体の異変に襲われた。バランスを崩しその場に倒れてしまったのだ。
「あっ、あれ、どうしたんだ。うまく歩けないぞ」
床にへたり込み、再び立ち上がるとヨタヨタと右に傾いて歩いていた。真っ直ぐ歩いているつもりだったが、うまくバランスをとることができなかった。
(あっ、これは確か本で読んだことある。耳は重力を感じる機能もあるって。バランスをとる重要な器官でもあるって。音だけじゃない、私は耳の機能を全て塞がれたんだ)
グルグルと景色の歪みを感じながら、実菜穂は青の神を探しにフロアを駆けだしていった。
「早く探さないと」
実菜穂の呟きと共に陽向と霞の御霊を懸けたかくれんぼが始まった。




