風と言葉(9)
琴美がビルに入るのを見届け、シーナはみなものところに引き返して行った。
(オスマシ死神、借りを作っちゃったよ)
みなもの横にシーナは何事もなかったかのように澄まして立った。みなもは、何も言わずにビルを眺めている。
「霞殿は、無事だったようだな」
火の神はみなもの意図を受け取り、余計なことを言わずにシーナを迎え、ビルの方に視線を移した。
琴美がフロアに霞を運び込み、陽向の横に丁寧に横たえた。赤の神と背を合わせている陽向、緑の神を後ろから抱きしめている霞が並び、どちらも安らいだ表情で休んでいるように見える。だが、このまま放っておけば命が危ない状態であるのは変わりないこと。二人を助けるには早く遊びを終わらせる必要があった。
その緊迫した状態のフロアに新手とも言える琴美が現れた。実菜穂が目を丸くして見たのは言うまでもない。ただでさえ大人しく可愛い少女の琴美が、いま目の前に蝶の羽を纏い立っているのだ。それだけでも眼を奪うには十分だが、さらに惹きつけたたのはその出で立ちである。淡い紫色で彩られたアリス風編み上げのドレスワンピース姿。コルセットが琴美の華奢な腰を飾っており、髪は大きな紫のリボンで束ねられている。ゴシックドレスに美しい蝶の羽の姿。アニメの世界からそのまま飛び出したという表現しかない。しかもそれが本当に似合って可愛いのだから、言葉の出しようがなかった。
「琴美ちゃんだよね。うわーっ、可愛い・・・・・・」
(ほんとに可愛い。いまさらながら、真奈美さんが自慢するのも頷ける。だけど巫女の衣装と言うよりは、洋風だよね。魔法系とか。死神の好みなのかな?あ~、ダメだ。みなもや陽向ならまだしも私は絶対似合わない)
マジマジと見る実菜穂の視線に琴美は顔を赤くしながらも、表情は崩していなかった。それが余計に可愛く見えた。
「実菜穂さん、この度のお礼は改めて致します」
「お礼?あーっ、そんなのいいよー。琴美ちゃんが帰ってきて、真奈美さんが元気になったんだから。それが一番だよ。何も言うことないよ」
手を突きだして「いらない」というジェスチャーをする実菜穂に琴美は首を振った。
「実菜穂さん、そのことは後ほどお話ししたいです。いまは、陽向さんと霞さんのことが肝心です。霞さんの呼吸は戻りましたが、首巻は絞まったままです。早くこの呪いを解かねば、命を失います」
琴美の訴えに実菜穂は「しまった!」とばかりに青の神の方を向いた。
「最後は私です。青の神様、何して遊びますか」
「そうですね。遊ぶ前に一人多くては困ります」
青の神が琴美を困った顔で見るが、琴美は退くことなく留まっていた。
「琴美ちゃん、霞ちゃんを助けてくれてありがとう。ここからは、私が相手をします」
実菜穂が笑顔で頷くと、琴美はどうするか躊躇っていたが最後には素直にフロアから出ていった。
「最後の遊びです」
琴美を見送ると、青の神は実菜穂に歩み寄りながら笑みを浮かべていた。




