風と言葉(4)
霞が右に左に揺さぶりをかけて追いかけると、緑の神は左に右へと反対方向に逃げていく。
(こりゃ、やっぱり読まれているよ。それならこれはどう?)
霞が姿を消す。緑の神は耳をピクピクと動かして気配を探していた。霞が姿を現すのと同時に動きを察知したが、霞は緑の神の正面に立ち腕を掴んでいた。瞬間移動で緑の神を捕らえたのだ。
「やったー!」
喜び飛び上がる霞は、着地したとたん息苦しさから顔は床を見つめていた。
(あれ、おかしいぞ。苦しさが消えない)
首を撫でていくと、スルリとした絹の感触があった。首巻がしっかりと残っているのだ。しかも、明らかに絞めつけがきつくなっており、一拍、一拍の脈が頭に伝わってくる。追いかけるのと瞬間移動で体力を使って鼓動も速くなっていることから、なおさら大きく頭に響き、頭痛が襲ってきた。
(えっ、鬼が交代しない?)
「霞ちゃん!」
息苦しさから混乱している霞に実菜穂が押さえつけジェスチャーをする。殴る真似をしないないところが、実菜穂の性格を表していた。
霞が「あっ」と言わんばかりの顔で実菜穂を見た。
(そうかあ。私、緑の神様に一発お見舞いされて鬼になったんだ。触っただけではダメなんだ)
すぐさま緑の神を捕まえようとしたが、もたついている間に逃げられてしまった。
「よし、もう一回、瞬間に、っ!!」
ゴホッ、コンコン・・・・・・
瞬間移動で緑の神を捕まえようと狙いをつけたとき、霞は咳込み涙目になった。
(あれ、息が荒いまま止まらない。唾も飲み込めないくらい絞まっている)
咳が落ち着き、涙を拭うと視界に緑の神を捉えた。
(いまだ!)
霞が姿を消すと緑の神は後ろへと飛び跳ねた。霞はイメージした場所よりズレた位置に現れ、逃げらてしまった。これが三度続いた。その間も、霞に憑いている首巻が徐々に首を絞めていった。
(動く度に苦しくなる。集中もできなくなっている。うまく緑の神様にたどり着けないよ)
首巻に指を無理矢理にでも入れようとしたが、隙間なくきつく絞められて指先すら入らなかった。
(このままではわたし、保たないよ。苦しいよ。少しでも鬼を交代しないと)
ゼエゼエ息の苦しみが霞を襲っていく。咳込み、視界はボヤケ、脈打つたびに頭痛がする。徐々に考える力も失われ、苦しみから逃れたいと意識がもがいていく。そこからなんとかたどり着いた考えは、鬼を交代すること。そうすれば、この苦しさから逃れられる。その思いだけが霞を動かした。
激しい呼吸を無理やり止めて、瞬間移動に意識を集中した。緑の神も霞の気迫を察知して、遊ぶ気配もなく霞の動きを探っていた。
霞が姿を消すと、緑の神は戸惑った。感じるはずの気配が全くなくないのだ。次にその気配を感じたときは、霞に右腕を捕まれていた。
「捕まえたあ!」
霞は緑の神を床に押しつけると、拳を突き上げた。苦しさが増すなかで、何も考えられないまま自分が受けた痛みを与えるために拳を振り下ろしていく。
(やっと、苦しさから解放される)
「これで交代だよ」
乾いた声で霞が叫んだ。




