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神と巫女(4)

 フロアに白い影が集まってきた。静かに感謝を伝える実菜穂に神々が色を取り戻していく。力こそ無くしてはいるが、かつての神としての色はその身体に戻っている。やがて、奥に潜んでいる影が動き始めた。細々とした他の影と違い、その影はフロアの天井に着くほどの巨体で力強く歩み実菜穂に近づいていく。


(来る。ここにいるどの神様よりも力が強い神様。本当に放浪神なのだろうか。力が残っている神様だ)


 実菜穂の身体は強く光を放つと、光に照らされ巨体が姿を現していく。髪は濃く、両耳の辺りから延びた髭にも似た髪が別格に長く張りがあった。顔は眼が細く頬が痩けている。見た感じは人で言えば二十代後半の男である。


 男は膝をつき頭を下げている実菜穂を見下ろした。


「巫女を見るのは久しいことだ。しかも水の神の巫女とは驚いた。その光を私にも分けてはくれぬか」


 男の言葉に他の白い影は道を開けていった。男が実菜穂の側に来ると手をかざし、光を帯びていく。それはまるで、寒さ厳しい夜に凍える手を一つの焚き火で暖をとる姿であった。


(なんということだ。人からこれほどの安らぎを感じるとは。もうないと思っていた。混じりのない感謝の光。この巫女はどうしてこれほどの光を放てるのか)


「水の神の巫女よ。なぜ、我らにこれほどの光を与えるのだ。ここにいる神たちはいずれも御霊を失い力のない神だ。人は我を忘れ、消えうる定めだ」

「私は水面野菜乃女神みなものなのめかみの巫女」

「水面野菜乃女神、水の神であろう。聞かぬ名よ」

「姉は水波野菜乃女神みずはのなのめかみ。母はアサナミの神」


 実菜穂は顔を上げることなく答えた。周りにいるすべての放浪神がサワサワとする音が聞こえた。アサナミの神の名を知らぬ神などいないとならば、無理もないことである。


「御霊をなくしたゆえ、長く神謀りには参上していないのでその名は知らぬ。水波野菜乃女神の妹。そう言えば、妹に気高く賢い柱がいたことは憶えている。もしかしたら、雪神を救ったあの妹か」


 実菜穂は黙ったまま頭を下げた。


「あの柱。忘れることなどできない。そう、あのときは私も神謀りに参上していた。責めを受けている雪神に、どの地上神も天上神を恐れるあまりに声一つ上げることができなかった。私も動けずにいた柱だ。情けないことだ。だけど、その縛りのなか、天上神にむかい声を上げた柱がいた。それが小さな水の神。その声にどれほどの地上神が勇気を与えられ、奮い立ったことか。どれほどの柱が誇りを取り戻したことか。感謝をせねばならぬのは私だ。巫女よその顔をよく見せてはくれぬか」


 巨体の男が実菜穂の前に屈み込むと、実菜穂もゆっくりと顔を上げていった。男が実菜穂の顔に手を当てたそのとき、鎖が男の身体を突き抜け、実菜穂の頬をかすめていった。


『実菜穂、大丈夫か』


 みなもの声に意識を集中させて周りを見ていく。鎖はぐるりと伸びていくと次々に白い影を突き破っていった。白い影は消えていった。


「みなも、これはどうしたの?」


 目の前の異様な惨劇に実菜穂の眼は、激しい光を放っていた。

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