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神と巫女(2)

 入口の前に実菜穂は立っている。ドアを開ける前にいろいろと考えを巡らせていた。


(私が拒まれたのはなぜだろう。うん、みなもは、相手も怖がっているってことを言っていたような。それならば、この弓は必要ない)


 弓を入口とは反対側の壁に立て掛けた。さらに実菜穂は考えていく。


(相手は御霊のない神様。だけど、本来は力があり、この世界で人も助けてくれていた神様。理由は分からないけど、その力を失った。傷つき悲しんでいるはずじゃないか。それなのに誰も気がつかないなんて。人は助けられていたのに、人がそのことに気づかないなんて。そう・・・・・・みなもと同じだ。人から忘れられ、それでこの世界から消える運命。人は忘れてはいけない)


 実菜穂の眼が澄んでいく。


「簡単なことだ。『礼を持って、礼を伝える』だけ。私は、みなもの巫女なんだ」


 扉の前に立つと姿勢を正し二礼して正面を見つめた。これが正解かどうかは分からない。ただ礼を伝えるために集中する。恐れを振り払い、ドアノブを握りゆっくりと開けていく。今度はいきなり吹き飛ばされる事はなかった。


(恐れることはないんだ。相手は神様。そして私はみなもの巫女。私は、みなもの写しなんだ。みなもに恥はかかせられない)


 実菜穂はフロアに潜んでいる神に心に敬意を込めて入っていく。暗く静かなフロアに廊下からの光が筋を描いた。実菜穂はその光りを遮るように立つと、ドアを閉めた。再びフロアは光りを静めた。


 声をかけることなく、片膝をつき頭を下げる。この姿勢は、以前にみなも、日御乃光乃神、死神がユウナミの神の前で示した姿勢だ。実菜穂はそれを思い出して真似をした。これには潜んでいた放浪神たちも驚き、ユラユラしながら実菜穂を見つめた。放浪神が驚くのも無理はない。実菜穂がとっているこの姿勢は、神命を受けるときのものである。となればこの姿勢はこの場では相応しくないのは明らかだ。だけどそのようなことを大きく挽回するほどの厚い感謝と尊敬を実菜穂は、心から表していた。


(いまさら作法など分からない。でも、それを表す型はある。礼を込めればその思いは伝わる)


  実菜穂は姿勢を崩すことなく思いを一つにしていた。


(ここにいるのは人を助け、支えてくれた神様。人に仇をなすことなく留まっている。忘れてはならない。ここに神様がいることを)


 水色の優しい光が実菜穂の身体を包んでいく。暗く静まり、カラカラに乾いた気が漂うフロアのなかを実菜穂の光が潤していく。水色の光に包まれた実菜穂は、美しく、清らかな姿を映していた。光、空気が安らぎを与えていく。光に導かれ、潜んでいた放浪神がゾロゾロと出てきた。白い影となり、細々と揺らめき、力のない歩みを進め実菜穂を取り囲んでいった。それはまるで夜の海で行き先を見失った船が、一つの光を見つけ救いを求めているかのような光景であった。実菜穂は美しく、静かに礼の光を心に灯していた。


 光の届かないフロアの奥には、大きな影がジッと実菜穂を見つめている。実菜穂もその影の存在に光を届けることで応えていた。





 遠くのビルの屋上に立つ者がいる。手首からは鈍く銀色に光る鎖が伸び、獲物に狙いをさだめていた。鎖が狙う先には実菜穂がいるフロアがあった。

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