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いままでとこれから(15)

 ホテルのレストランでは、男子、女子が相席グループでワイワイやっていた。バイキング形式の朝食は、さしずめ合コンとでも言った感じだ。


 実菜穂みなほの隣には、子供用の器に五目ご飯やパンが少量添えられている。その器の前では、みなもがチョコチップが入ったパンをモリモリと食べていた。満面の笑みを浮かべて食べる着物姿の少女を、秋人あきと隼斗はやとはコーヒーカップを持って眺めていた。異様ともいえる光景であるはずなのに、受け入れられるのが不思議だった。そこに感じるのは、ありえない美しさであった。


 かすみの隣では、緑の髪の少女が味噌汁を口にしている。シーナだ。白色のワンピース姿は、西洋の女神という方が正しいように思えた。


 和のみなもに対して西洋のシーナ。その二柱が、パンと味噌汁を口にしているのだから、秋人と隼斗が呆気に取られたのも無理はなかった。


 お互いに食事を楽しんでいる姿であるが、二柱は眼を合わせることなく、どこか壁があるように見える。


 それを一番感じているのは、陽向ひなたの隣にいる火の神と琴美ことみの隣にいる死神しがみである。こちらの二柱は、艶やかで白いご飯を前にして、みなもとシーナをチラチラと交互に見るばかりであった。


「どうした火の神。ここのパンと米は美味じゃぞ」

「いや、頂いている。まだ昨夜の余韻が残っているからな」


 フルーツの盛り合わせを食べているみなもに火の神が答えると、お茶を啜りながら死神に目配せをした。


 死神はヨーグルトを一口味わいながら、シーナに眼を向けた。


「フワフワがそんなに御御御付おみおつけが好きだとは……よほど気に入ってるのね」

「うっ……わたしは……この味が好きなのよ」


 みなもをまともに見ることができず、視線を遮るために味噌汁を飲んでいたのだが、死神に悟られていることを知ってシーナは動揺した。


「実菜穂、お主らはユウナミの神の社に参るのじゃろう」


 フルーツを平らげて満足な顔をしながら、みなもは姿勢を正した。実菜穂の隣にいる水色の長い髪の少女が、日の光を浴びて笑っている。隣にいる実菜穂とは違った美しさを持ちながらも、その姿を重ね合わせることは簡単にできた。実菜穂と似て異なり神秘的そのものの輝きを放っていた。


「そだよ」


 実菜穂が自分のオレンジジュースを、みなもに勧めた。みなもは、笑って受け取った。


「儂らは昨夜のうちに、ユウナミの神と対面しておる。これ以上、火の神も社を空けるわけにもいくまい。それに準備もあるでな。先に帰るぞ」

「準備?」

「そうじゃ、神議かむはかりがあるからのう。今回ばかりは、参上せねばなるまい」

「そうかあ。みなも、出世したもんね」


 実菜穂の冗談に、みなもは苦笑いで応えていた。


「ユウナミの神には、お主らが参ることを伝えておるでな」

「分かった。ありがとう」


 グラスを受け取った実菜穂が、みなもを見送った。


 みなもが姿を消すと、シーナ、火の神、死神もその場から消えた。


 その後しばらくは、実菜穂たちの笑い声で場は和んでいた。



 

 海辺に死神とシーナがいる。大きな松の木が二柱に傘をさしているように枝を伸ばしていた。

 

「わたし、みなもに言っちゃった……」


 シーナがばつが悪そうに視線を逸らして、後ろに手を回している。小さな子が悪戯いたずらをして叱られる前にする仕草である。


 言ったところで解決する術がないことは、自分でも分かっていた。それでも、みなもには教えたかった。いや、知らねばならないと思った。それは、霞を巫女として取ったことで、人が自分を崇拝すうはいするということが、かけがえのない大切な想いであることを初めて知ったからである。霞がそうであるように、巴瑞季はずきもまた、みなもを心より崇拝していたのだ。


(そうだよ。命が惜しかったら、巫女を辞めることもできた。だけど巴瑞季は、スサノオウと戦うことを選んだ。だから、みなもにはそれを知って欲しかった)


 シーナは奥歯を噛み締めたまま、うつむいていた。


「そういうことだと思いました。でも、それも想像していたことです。いずれは、みなもが知るときが来る。それが少し早かっただけ。今さらクヨクヨするなんて、フワフワらしくない……」

「なによ。分かってるんなら、さっきもフォローしなさいよ」


 無表情のまま自分を見ている死神に、シーナは唇を尖らせた。


「言葉ではどうにもならない。フワフワが、これからどう動くかの覚悟がいるだけ。私もそう。全てはこれから……」


 死神がフワリと浮かぶと、シーナを見下ろした。


「神議り……そこで全てが動き始めるから」


 死神はそう言い残して姿を消した。


「最後まですましてるんだから。分かってるわよ。わたしにも覚悟はあるよ。これから……来るよ……とてつもない嵐が」


 シーナが高く飛び上がり、青空の中に溶け込むと、潮風と共に姿を消した。



 火の神が社の拝殿はいでんの前に座り込んでいる。みなもは、自分のほこらの中に閉じこもったきりであった。


(何があったと言うのだ。死神も風の神も何か知っているようだった。知らないのは、俺だけか)


 昼が過ぎ夕方になって日が徐々に傾いてきたころ、みなもが祠から出てきた。火の神は立ちあがり、みなもを見て瞳を大きくしていた。


 普段なら一枚の白い着物姿であるが、祠から出たみなもは、幾重にも重ねた着物を身に着けていた。白ではなく、群青色から徐々に水色に変化していくように重ねられていた。髪はいつも付けている華の髪飾りだけではなく、煌びやかな石を散りばめた王冠のような飾りもつけられていた。それら全てが、みなもという女神を輝かせるのに相応しい輝きを放っていた。


「やれやれ、さとさから、これを身に着けて神議りに参上するようにと送られておったわ」


 普段以上に清楚で輝かしいみなもに、火の神は言葉を失って、訊こうとしていたことも忘れてしまっていた。


「火の神、闇の正体が分かったぞ」


 火の神の心を読んだかのように、みなもが先に答えた。


「なっ、なんだと?」

黄龍こうりゅうたぶらかし、ナナガシラの人を追い詰めた者じゃ。おまけに、死神までもが敵視しておった者」


 みなもが火の神を見上げていた。


「なぜ、闇の正体が分かったのだ。あっ、いや、それより何者なのだ?」


 見上げるみなもの姿に見とれながらも、火の神は冷静なそぶりで訊いた。


「スサノオウじゃ」


 みなもの瞳が濃い青色の光を放った。火の神は、闇の正体よりも、みなもの瞳の光に射抜かれて動けなくなっていた。


「なっ、なに? それは、真のことか」

「真であろう。じゃから、そのあかしを儂は取る」

「ちょっと待て。話も相手が大き過ぎて、俺には飲み込めん。第一、証を取るって、お前、どうやってだ」


 あまりにも唐突なみなもの言葉に、火の神は何とか冷静を保って訊いた。


「その機会は、案外近いのでな。神議りじゃ。今度の神議りは、荒れるかもしれぬ。今までにない神議りじゃ。火の神、これは儂の問題じゃ。お主は動かなくてもよい」

「お前なあ、死神と風の神は動くのだろう。相手が相手なだけに、事の次第ではアサナミの神もユウナミの神も動くことになるではないか。俺が何もしないで平気だと思っているのか。とにかく神議りまでには、俺にも詳しく話してくれ。お前の問題は、俺の問題なんだ」

「分かった。神議りまでには話しておこう。知らぬが故に、後れを取られては困るからのう」


 みなもが元気な笑みを浮かべた。火の神は、その安らいだ笑顔に心をくすぐられながらも、納得がいかない顔をして強がっていた。


 みなもと火の神の間を夕日の光が差し込んだ。熱気を含んだ風がみなもの髪を揺らしていた。

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