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いままでとこれから(12)

 夜のとばりがおりて、光がしずまる頃、三柱の女神と一柱の男神おがみがユウナミのやしろを訪れていた。みなもを先頭にシーナと死神が続き、最後に火の神がついた。


 みなもは、白い着物を身に着け、水色の髪には姉より授かった髪飾りが夜顔の白い花を咲かせていた。


 みなもの後ろにはシーナがいる。同じ白い着物を着て、フワリとした緑色の髪が着物のえりで揺れていた。いつもの軽い動きではなく、しっかりと歩む姿は太古神たいこしんとしての威厳を備えていた。


 シーナの後ろには死神が続いた。同じく白い着物を着ている。はかまではない死神の姿は、神謀かむはかり以外では珍しい。短い髪が快活さをイメージさせるところだが、おすましたる所以ゆえんの感情のない真面目な表情が、かえって厳粛な雰囲気を漂わせていた。


 みなも、シーナ、死神とおごそかな出で立ちの女神は、ユウナミの社に参上するに相応しい美しき姿であった。もしここが、神謀りの場であるならば三柱が通り過ぎるだけで、男神たちは足を止めて見つめていたことであろう。


 美しき女神たちの殿しんがりを務めるのは、火の神である。紅色の着物を着ているのは、母であるユウナミのもとに参上するための姿である。幼き頃は「泣き虫火の神」とシーナから揶揄からかわれるほど、些細ささいなことで泣いていた火の神であった。じっさい、分霊として迎えられたやしろでは、心細さのあまり毎夜泣いているところ、みなもが遊びに来て慰めていた。今はその面影はなく、巫女となった陽向を護るという強い意志をもちたくましく成長していた。


 随身門ずいじんもんにみなもが着いた。みなもが、一礼をして通り過ぎていく。シーナと死神も同様に一礼をして過ぎていく。死神にしてみれば、人の御霊を届ける務めで通り慣れている場所であるが、この瞬間は端正な姫君となった姿と振る舞いに桃瑚売命とこのみことが、見違えたとばかりに大きな瞳をして見送った。


 火の神が最後に通った。赤瑚売命せきこのみことが優しい瞳で見つめている。かつてこの場で二柱は死闘を繰り広げた。ユウナミを護る赤瑚売命は、ユウナミを死の淵に追いやった火の神の罪を許すことができなかった。だが、いまは弟を見つめるような瞳で優しく見送っていた。


 四柱はユウナミの社の最後の砦である狛犬こまいぬのトキとミチルの前を通り過ぎた。堂々としていながらも、礼を持って進むみなもの姿は、天地の太古神までもが麗しき女神と評する水波野菜乃女神みずはのなのめかみそのものであった。


 ユウナミの拝殿はいでんに着くと、四柱がそろって右膝をついた。すぐに、ユウナミが姿を現した。淡く染まった鴇色ときいろの着物を纏い、海の波が描かれた銀色のブローチが肩まで伸びる潤いのある黒髪を引き立たせていた。人ならば二十代という見た目である。その姿はアサナミの妹、さらには最高神であるアマテの神の姉であることが納得できるほど麗しいものであった。


水面野菜乃女神みなものなのめかみ、ただいま参上いたしました」

「よくぞ参った。畏まらなくてもよい。私はそういうのは苦手なものでな。姉さとは違う」


 みなもの言葉に、ユウナミが柔らかな声色で場を和ませた。


 四柱は立ちあがり、一礼をした。


「ナナガシラの件について報告に参ったのじゃが、遅れたことをまずは詫びねばならぬ」


 礼を持ちながらも余計な形をはらい、みなもが答えた。


「詫びなどいらぬ。それよりもここに無事に戻ったことを、私は嬉しく思います。ナナガシラの件については、姉さから報告を聞いています。本当であれば、私が動かねばならぬことでした。だが、いまは迂闊うかつには動けぬ身。それゆえ姉さがお前たちに神命を与えたことで解決できました。礼を持ってお前たちを迎えたい」


 ユウナミが四柱に一礼をした。火の神にとって、母であるユウナミに一礼をもって迎えられることは、特別な想いを抱かせた。


「じゃが、儂らはナナガシラを消してしもうた。多くの人の御霊の帰る場所を消してしもうたのじゃ」


 みなもの瞳は潤い、雫が溢れようとしていた。


「ナナガシラが消えたこと、その責めをとるのは他でもなく私の務めです。お前たちに責めはない。それに、ナナガシラに生きた者たちの御霊は私のもとにある。一人の取りこぼしもなく、私が預かる。確かに、この世界の人の記憶からはナナガシラは消えました。ですが、ここに預かる御霊には、記憶としていつまでも残っています。時が来れば、御霊もまたナナガシラに帰ることができるでしょう」


 ユウナミの言葉に、みなもの心にあった重石も取り払われた。みなもは、俯いたまま安堵の表情を浮かべた。


「水面の神、級長乃神しなのかみ死神しがみそして日御乃光乃神ひみのひかりのかみ。これで事が解決したわけではありません。人を消そうとして黄龍こうりゅうそそのかした神の存在が明らかになっただけです。いずれ、日の下にこれを晒さねばならないでしょう。私も動くことになりそうです」

「それは、どういう意味ですか?」


 みなもより早く火の神が、ユウナミに訊いた。


「今、それを言葉にすることはできません。近いうちに、事は動くことになります。その時こそ憂いを絶つときです」


 ユウナミの瞳は紅の炎のごとく輝き、四柱を見つめていた。


(ユウナミの神が語ろうとしていた大きな存在とは、いったいなんじゃ。この大きな闇は、儂はどこぞで感じたことがある)


 みなもは、ユウナミの瞳の光に魅せられたままこの先に待ち受ける巨大な神の存在を感じていた。

 


 


 ユウナミの社を出たみなもは、実菜穂の待つホテルに戻ろうとしていた。火の神は、ユウナミの社に残り遅れて戻ることになっていた。


「みなも……」


 隣に並んでいたシーナが、まわりを見渡してから声をかけた。死神は、務めがあるからと別行動を取っている。シーナは、死神がそばにいないか気にしていたのだ。


「なんじゃ? そう言えば、お主と死神、ユウナミの神の言葉に動じることがなかったのう。お主、何か知っておるのじゃろう」


 シーナの意図を先回りして、みなもが訊いた。シーナは迷っていたが、みなもに見透かされていることを知って、覚悟を決めた。


「みなもには、敵わないよ。おすましからは、口止めされていたことなんだ。だけど、私はやっぱり言うよ」


 みなもの前にシーナがスッと回り込んだ。秋の気配を含んだ風が二柱を包み込んでいた。

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