いままでとこれから(8)
店の扉が開いた。
「よろしいですか」
しっかりと落ち着いた声が店内に流れ、誰かが店に顔を覗かせた。ショートへアで切れ上がった眼尻の端正な顔つきは、少年のように見えた。だが、丸みのある顎や奥ゆかしい光を持つ瞳は、実菜穂たちと同じ少女のものであった。
「おい、あれってもしかして」
「静南さんですね」
隼斗と秋人が、静南をポカンと見つめていた。
「わーっ、静南さん、カッコいい。美少年になってる」
実菜穂が席を立ち、静南の頭からつま先まで眺めた。陽向と霞も同じように、静南の姿が変わっていることに驚いている。
「本当に静南さん? 見違えちゃいました」
霞が静南の前に駆け寄ると、自分より背が高い静南を憧れの眼差しで見上げた。静南は黙ったまま霞の視線を外すために、顔を背けた。恥ずかしがっていることは誰が見ても分かった。
「これは、正式な巫女になるためのけじめだから」
静南がチラリと霞を見た。霞は大きく頷いて見とれている。霞にと生死を懸けて戦った相手であるが、強い信念を持つ姿は憧れであった。その静南が己の信念のために、桃瑚売命の巫女となる決意をした姿に改めて憧れを感じていた。
「あっ、いけない。忘れていた」
静南はくるりと振り返り、外に顔を向けた。
「大丈夫みたい。みんな待ってるよ」
静南が呼び掛けると、外で待っている人を招き入れた。
「こんばんは」
扉を開けている静南の手を潜って、琴美が店の中に入った。
「琴美ちゃん、可愛い」
霞は琴美に抱きつくと、飛び跳ねて全身で喜びを表現していた。霞にとって静南が精神的な憧れの存在なら、琴美は容姿的な憧れの存在である。
霞との再会を喜んでいる琴美の後ろから、詩織が『間が悪い』という表情で顔を出した。
「詩織さーん、こっちにおいで」
実菜穂が手を振って、詩織を招いた。詩織は、少し息を吞んで実菜穂を見ていたが、キュッと右手を握ると足を進めた。男子席に軽く頭を下げて通り過ぎてから、実菜穂の横に座った。
「おいおい、秋人。あれ、相田じゃないか。いつの間に仲良くなったんだ。なんか、雰囲気変わったな。夏休み前までは素っ気ない感じだったけど、急に綺麗になったっていうか」
「そうだね。夏休だからかな」
良樹の冗談交じりの感想に秋人は、さらりと答えた。
「まあ、女はすぐに化けるぜ。しっかり捕まえてないと、あっという間に去っていくからな」
「なんだよ。怖いこと言うな」
詩織を見ていた隼斗の言葉に、良樹が身震いするジェスチャーをした。
秋人と隼斗には、詩織の首にある蜘蛛の痣がはっきりと見えていた。
「さあ、皆さんこちらに座って。これで勢ぞろいだよね。今夜は凄い記念すべき日だなあ」
真一が幸せいっぱいの顔で予定していた人数がいることを確認すると、陽向が手を上げて応えた。
一気に華やかになった店内では、宴が始まろうとしていた。




