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いままでとこれから(7)

 実菜穂みなほたち一行いっこうが駅からブラブラと歩いている。陽向ひなたを先頭に実菜穂とかすみが並んで、その後を良樹よしき秋人あきと隼斗はやとが続いていた。


 ユウナミのお膝元であるこの町は、夕暮れがよく似合っている。鴇色ときいろに染まる一瞬が、この上なく町を美しく輝かせていた。陽向にとっては、もう一つの故郷である。


「うわー、綺麗だね。霞ちゃん」

「はい。港が近いから、夕日がよく似合っています」


 実菜穂が指さす方向を、霞が色で見ている。夕暮れの光に一切の濁りがなく、ユウナミの神に護られた場所だからこそ見ることができる美しさであった。


「真一さんの店に行くが楽しみだよ。あっさり塩ラーメンと餃子は、病みつきだもんね。みなもが、満足してべた褒めしてたんだから。霞ちゃんにも味わってほしいよ。ねー、陽向」


 両手を拳にして満面の笑みで霞に説明していた実菜穂が、後ろから陽向に抱きついた。陽向の黒い髪が、夕日の光を受けながら揺れた。


 実菜穂たちの会話を聞いていた良樹が、秋人の方に振り返った。秋人と隼斗は、キョロキョロと不審な動きをしている。人であれば感じることがない気配に、二人は戸惑っていた。


「おっ、秋人はこの町は初めてか。ここって、潮風が気持ちよくて良いところだぜ。俺も初めて来たときは潮の香りに戸惑ったけど、ここの香は凄く元気が出るつうか、なんか調子が良くなる感じがするんだよ。すぐ慣れるぜ」


 良樹は戸惑っている秋人の肩を叩くと、この町とユウナミの神の関りについて説明をした。全て陽向の受け売りであることは言うまでもない。


 男子の二人は、愛想笑いをして良樹の説明を聞き流していた。


 

 陽向がラーメン屋の前で立ち止まった。真一の店である。


「こんばんは。入ってもいいですか?」


 扉を開けて陽向が、覗き込んだ。


「いらっしゃい! 陽向ちゃん、待ってたよ。さーっ、入って入って。外は暑いだろ」


 厨房にいた真一が飛び出してくると、扉を開けて陽向を招き入れた。


「真一さーん、お久です。今日は、思いっ切り食べますよー」

「実菜穂ちゃーん、何でも注文して。仕込みは、ばっちりだよ」


 陽向の後ろからバーンと入ってきた実菜穂に、真一がハイテンションで対応した。巫女マニアの真一にとって、陽向と実菜穂は推しのアイドル的存在だった。


「真一さん。こちら霞ちゃんです。級長乃神しなのかみの社の巫女なんですよ」


 実菜穂が後ろに立っている霞をヒョイと前に連れてくると、真一に紹介した。霞は真一の顔を見ることができず、顔を下に向けて照れていた。巫女とギャップがある仕草は、真一の心を掴んだ。


「あーっ、この子、こっこ……このこ!」


 壁に掛けている写真を指さしながら真一が、興奮している。そこには陽向、実菜穂だけでなく琴美、静南、詩織そして霞が写っていた。秋人から見せられた写真を、実菜穂が真一に送ったものだった。


「馬鹿野郎! いつまでお客を待たせてんだ。無駄話していないで、とっとと席にお通ししないか」


 厨房の奥で主人が真一を怒鳴った。真一は、言葉を掛けたいところをぐっと我慢して陽向を席に案内した。


 店のテーブルの配置は、団体仕様に変えられていた。陽向たちは店内の中央に位置する広いテーブルに案内された。


「こんちは、お邪魔しまーす」


 女子に続き、良樹が顔を出した。


「おっ、野郎どもはあっちな」


 一段下がったテンションで、真一が入口に近い狭い隅っこのテーブルを指さした。


「えーっ、なんじゃここは。扱いひでえな。そっちにも席あるじゃん」


 良樹が陽向たちがいる席の奥にあるテーブルを指さした。


「悪いな。そっちは特別予約席なんだ」


 上席のテーブルに真一がヒョイヒョイと歩いていくと、「予約席」のプレートを置いた。


「なんだよ。貸し切りなんだろ。誰が来るんだよ」


 納得いかない表情で良樹が、狭い席に大きな体をねじ込んでいく。


「良樹、この席は悪くないよ」


 秋人は壁に掛けられているパネルを指さした。そこには、巫女姿の陽向と実菜穂が写っている。他にも琴美の姉である真奈美、秋人がナナガシラで撮った霞を近くで見ることができた。巫女たちの写真を鑑賞するには、一番の席と言えた。


「おおっ、なるほど。秋人に言われて納得。悪くねえな」


 陽向の写真を見ながら、良樹は溜飲りゅういんが下がって上機嫌になった。


 隼斗も霞の写真をジッと見つめていた。


(あの時より、この写真の霞の方がどうして綺麗に見えるんだ。霞であって霞でない……)


 写真の霞を見つめながら、霞の中にいる何かを感じていた。


「真一さーん。あと三人来るから、もう少し待ってくれますか」

「大丈夫だよ。貸し切り、貸し切り。あの写真の巫女たちだろ。待つに決まってるよー。まあ、これで一休みしなよ」


 実菜穂が申し訳なさそうにお願いしているところを、真一は「滅相もない」と言わんばかりに冷たいウーロン茶をテーブルに運んでサービスをした。


「なあ、おやじ。野郎どもは別にいいけど、どうしてあの上席を空けるんだ」


 厨房に戻った真一が、店主である父親に耳打ちした。店主は「やれやれ」と溜息をついた。


「お前もユウナミの神様を氏神としているなら、心得ておくことだ。巫女がここにいるということは、神様もそこにいるのだ。いいか、あそこは巫女たちを護る神様の席だ。粗相がないようにしろ。陽向ちゃんの為にもだ」


 怒鳴らないで言い聞かせる店主に、真一は頷いて納得した。


「分かりました。陽向ちゃんの為に、神様をおもてなしします」


 真一は予約席に向かい深々と頭を下げると、ウーロン茶が注がれたグラスを丁寧に置いた。

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