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いままでとこれから(3)

 女子たちの席と背中合わせになり、男子がいる。実菜穂みなほが座っている席と背向かいになっている方に隼斗はやとがいる。その向かいに秋人あきと良樹よしきが座っていた。


 体格のせいもあって、男子の席では良樹の存在感は格段にあった。隣にいる秋人は同年代の男子では平均以上の背格好だが、良樹の隣では小柄に見えた。その良樹の眼の前には隼斗がいる。男子の中で一番体格が小さな隼斗は、良樹と比べたら小学生に見えるというのは、けして大げさな表現ではなかった。


 良樹が軽く貧乏ゆすりをしながら、隼斗を見ている。


(こいつ、何者だ。秋人のやつが連れてきたけど、どこの誰なんだ? 秋人は交友関係それほど広くないはずだ。なのに、隼斗だっけ。どう見ても高校生って感じじゃないよな)


 黙ったままじろじろと見る良樹の視線を、隼斗は静かに耐えていた。それには当然理由がある。霞が女子グループにいるからだ。せっかく楽しい時間を過ごしているところに水を差すほど、隼斗も野暮ではない。実戦経験を積んだ年上男の余裕がなせる業である。


 全く動じない隼斗を見ていた良樹があれこれと詮索した結果、ある方向に落ち着いた。


(秋人が隼斗ってんのを誘った。あっちには、早瀬はやせっていう子がついて来ているよな。どうもこの二人は知り合いで、仲が良さそうだ。秋人は、田口たぐちオンリーだ。俺は……だし。この隼斗が早瀬を好きなのだとしたら……)


 良樹が秋人や自分を指さしながらブツブツと呟いている。隼斗は眉を上げて珍獣を見るような眼で、良樹を見ていた。


(まてまてまて! そうか、田口が早瀬っていう子から恋の相談を受けたんだ。その相手がこの隼斗。田口は、秋人や陽向ひなたに協力を依頼した。田口と陽向が恋のキューピッド役を買って出たところに秋人が加わった。自然なデートにするには、カップルが必要だ。田口の相手は秋人、早瀬の相手が隼斗、陽向の相手は当然……おい、これってトリプルデート。まさにスリーオンスリーじゃないか!)


 いままでしかめ面をしていた良樹が、にやけた表情に変わった。ボトル缶のコーヒーを口に運びかけていた隼斗が、「いっ」と固まった。


「いやあ、まだ自己紹介が済んでなかったなあ」


 良樹が、にやける顔を引き締めながら隼斗に声をかけた。


「ああ、そだな」


 引きつった笑みのまま隼斗は、コーヒーを一口ゴクリと飲み込んだ。


「俺、海道良樹かいどうよしき。秋人と陽向とは幼馴染ってやつだ。今回は、みんな楽しくやろうぜ」


 良樹が親指を立てて、にやけた笑顔で挨拶をした。隼斗は固まったまま良樹の横にいる秋人に、チラリと視線を向けた。秋人は笑いをこらえながら「付き合ってやって」と眼で応えた。


 隼斗は軽き息をついて、良樹にの方に視線を戻した。


「ああ、今回は秋人に声をかけてもらって、お邪魔している。俺のことは、隼斗って呼んでくれ」


 少々早口で取り繕った挨拶をする隼斗を、良樹はトリプルデートに緊張しているせいだと信じてウンウンと頷いて聞いていた。


「そういえば、良樹君」

「良樹でいいよ」


 良樹は笑って答えた。


「良樹、ナナガシラにいた時に秋人に写真を送ってくれただろ。助かったよ」

「あー、確かに秋人にクラス写真は送ったけど、ナナガシラってなんだ?」


 考え込む良樹の横で秋人は首を左右に振り、「ナナガシラのことは通じない」ことを示した。隼斗もすぐに気づいて頷いた。


「あー、ナナガシラっていう喫茶店で秋人と知り合いになったんだよ。霞が城東門じょうとうもん高校の制服に憧れていたから、写真を見せてもらったんだ」

「あー、なるほど」


 隼斗の適当な話を良樹は、疑うことなく素直に信じた。


 秋人と隼斗は視線を合わして、ナナガシラは関りがなかった人の記憶から消えていることを実感した。


 この後しばらくは、学校であった噂話などの雑談が続いていた。


 良樹がトイレに行くと言って席を立った。


 二人になったところで、隼斗が真顔になって秋人を見た。


「なあ、何を言っているのか分からないかもしれないが、言いうぜ。俺、ナナガシラから帰ってから霞の首に見えるものがあるんだ」


 隼斗は、右手で首の横に手を当てた。


「そうですか。僕もです」


 秋人が頷いた。


「なんだ、あの痣は。今まで見たことはなかった。それに、他にも見えるようになったものがある」


 隼斗が反対側の窓際の席を指さした。秋人はその先を見ながら、静かに頷いた。

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