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鎮めると浄める(9)

 しっとりと濡れていながら、澄み切った響きを持つ声に惹かれて、秋人あきと隼斗はやとが声の主に顔を向けた。紗雪さゆきは、二人を柔らかな笑みで迎えた。


(この子は人? いや、神様なのか?)


 言葉が出ないまま、秋人が紗雪を見つめていた。


「あんたは?」


 隼斗は声をかけると、そのまま固まっていた。紗雪の前には、夕帰魅ゆきみにらみをきかせ、紗雪の姿を隠すように立っていたのだ。

 夕帰魅の気迫は、静かなものであるが、研ぎ澄まされた針のように鋭く自分に向けられているのを、隼斗は強烈に感じていた。


「夕帰魅、いまは舞のさなか。気を鎮めて。私も二人に声をかけたのは、時が悪かったです。秋人さん、隼斗さん、どうか、お気になさらず。いまは巫女たちの舞を見届けましょう」


 紗雪が瞳を閉じて軽く一礼をすると、二人は魔法が解けたかのように軽くなった自分の身体を眺めてから、巫女たちの舞の方に意識を移した。


 六人の巫女は風に乗る花弁はなびらのようにヒラリと流れながら、二つのグループに分かれていた。一つは、詩織を中心に実菜穂と琴美が舞っている。もう一つは、霞を中心に陽向と静南が舞っていた。


「なんだ、異なる気迫に分かれた。だけどなぜだ? 反発するわけでもない。混ざり合うこともない」

「これは陰と陽……」


 巫女たちが作った二つの世界。それは、隼斗と秋人が言った言葉そのものだった。


 詩織を中心とした世界。柔軟、収縮、融合、静寂せいじゃく、睡眠それは夜の世界だった。その陰をまとえば心が安らぎ、荒ぶるオーラさえ鎮まっていく世界。

 霞を中心とした世界。硬直、膨張、分離、喧騒けんそう、覚醒それは昼の世界だった。その光を感じれば、身体に力がみなぎり、全ての力が解放する世界。


 二つの世界は反発することなく、混ざることなく、その姿を形作っていった。


 二つの世界に舞う巫女たちが、互いの世界から距離をとり離れた瞬間、一斉に消えた。消えたというのは正確ではない。姿が溶け込んだのだ。


 陰の世界にいた巫女たちの姿は、光が鎮まる影に取り込まれた。陽の世界の巫女たちの姿は、眩しいばかりに輝く光に取り込まれた。沼には、影と光だけが残っている。巫女の姿は見えないのに、影と光は生き物のようにその姿を変えていった。二つの世界が互いに寄り添っていく。


「あの形、知っているぞ」

勾玉まがたまです」


 影と光のコントラストは、隼斗と秋人の眼を釘づけにしていた。次の瞬間には、言葉を失い、意識までもがその世界に取り込まれていた。


 勾玉の形となった陰と陽が沼一面に広がっていく。けして混ざることのない影と光が寄り添ったとき、影の中から実菜穂、琴美、詩織の姿が浮き上がった。同時に光の中から陽向、静南、霞の姿が降り立った。影が光を受け入れ、光は影を取り込んだ。


 二つの世界の巫女が、互いを見つめ合いその姿を際立たせたのだ。巫女たちは、再び自分たちの光を放ち、美しい姿を見せた。


 かすみ詩織しおりが近づく。新緑色と黄色の光が互いを美しく彩っていく。


(詩織さん、本当に綺麗だよ。実菜穂さんとも陽向さんとも違う美しさ。どうして、こんなに惹きつけられるんだろう)

『さすが霞、分かった? 嬉しいな。私がナナガシラで取り戻したかったものの一つ。それがハスナ姫の美しさだよ。でもさ、この詩織って巫女、想像以上にハスナ姫と相性がいいんだね。美しさに磨きがかかってる』


 霞が嬉しそうに詩織を包み込んで、舞っていく。詩織は、妖精のように取り囲む霞を、柔らかな笑みで迎え入れた。


(霞さん、幼くて可愛い印象だったけど、こうして近くで見ると本当に女神って思えるほど美しい。田口さんとは、真逆の美しさ)

『詩織のその言葉、当たっています。風の神は、美しさと恐ろしさを持った柱。そのうえ、人とはめったに関りを持たないことは神々のなかでも知られています。霞はその神に認められたのですから、感じられる美しさに納得ができます』 


 霞と詩織が光を交差させていく。お互いの美しさを高め合っていった。



 静南しずな琴美ことみもお互い見つめ合っていた。ともに尊敬する姉という存在を持つ二人でありながら、幼き時の環境は似て異なっていた。姉巫女である真那子まなこのようになりたくて、真那子に褒められたいと後を追い続けた静南。生を司る桃湖売命とこのみことと御霊を合わせていた。


 姉である真奈美まなみから教わる時間に至福を感じ、真奈美が褒められることを願い、教わること全てを吸収していった琴美。ついを司る死神の巫女である。


 静南の桃色の光と琴美の紫色の光が、お互いの想いを照らしながら舞っていた。


 

 陽向ひなた実菜穂みなほもまた似て異なる存在だった。幼き時から神と触れ合っていた二人。陽向は幼き時に太古神ユウナミと神霊同体となった。その計り知れない才能と底知れぬ度量は、人が持つ器の大きさをはるかに超え、ユウナミに人の持つ力の恐ろしさを教えることとなった。


 実菜穂は、みなもの姉である水波野菜乃女神みずはのなのめかみと神霊同体になった。人を遠ざけていた水波野菜乃女神が人に興味を持つきっかけともなった。そして、ついにはユウナミの姉であるアサナミと神霊同体となった。それは、人と神との可能性をアサナミに教えることとなった。


 火の神とみなも。人を恐れる神と人を助ける神。紅色の光と青色の光が、互いのオーラを高め合いながら激しくそして緩やかに舞を舞っている。


 ナナガシラの地に広がった光が天に映し出されると、散りばめられて星となった。やがて地の光は鎮まり、天は星湛えて、空を輝かせた。


 巫女たちが天を仰ぐと、星の光が降り注ぎナナガシラに色をつけていった。


 秋人と隼斗も、巫女たちが見つめる輝く星を見つめていた。

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