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コンクリートと夜の華(6)

 ビルの外の雑音に男子の声は消され、室内は一瞬静まった。


「そこに誰かいるのか!」


 乱暴に香奈を掴んだまま男子は大声で喚いた。暗くて霞を確認できないことから、動揺していた。声だけでなく、気からも、色からも霞には何もかもが手に取るように分かる。ただ、霞の身体は、男子の大声に固まっていた。


「あ~あ、本当にどうしようもない格好だよ」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・?」


 シーナがヒョイと霞をのぞき込むと、霞は表情を固めたままシーナを見返した。


「ちょっと、霞。あなた、わたしの巫女でしょ」

「はい」

「『はい』じゃないよ。あの薄汚い奴にわたしの言葉を伝えなさいよ」

「えっ、どーいうこと?」


 驚く霞にシーナはため息をつく。


「あのね、わたしの言葉があいつに聞こえるわけないのよ。御霊を千回浄めても無理よ。いいこと、あなたには、わたしの力があるの。何を怖がっているのか知らないけど、あなたがその気にならなくても、あんなの粉砕できるわよ」

「粉砕って、シーナ。冗談・・・・・・でしょ」

「何よ。霞が何もしないなら、わたしがやるよ。そう、むしろやりたい。わたしが手をだすからには、簡単には死なせないよ。香奈ってんのを汚した指を一本一本砕いて、それから」

「あー、ストップ、ストップ。分かりました。言います、言いますから」


 シーナの目には不気味な笑みを含んだ光が滲んでいた。体育館での香奈のとき以上に、気が高ぶっているようだ。


(まずい。シーナは本気だ。絶対にやるつもりだ。いやー、見たくない。怖いけど・・・・・・あー、もう、知らない)


「出てきやがれ」


 人の気配を感じて男子が凄みのある声を出す。香奈の表情が恐怖と憂いで曇っていた。


「あー~あ、ほうんとうに、気持ち悪いなあ。あー、やだやだ」


 感情なしの棒読みの言葉がダラダラと霞の口から出てくる。霞がゆっくりと男子の方に近づいていき、姿を現した。声の主を確認できた男子が笑った。


「誰かと思えば女一人かよ。お前がやったのか。ただじゃ済まさねえぞ」

「ハハーン、お前バカだろう。ただで済まないのはお前だよ。さっきの石を頭にぶつけてもよかったんだよ。まあ、そのときは、その汚い顔も吹き飛んでるよ。そしたら、霞がギャーギャー、うるさいから・・・・・・」


(かすみ?あれ、・・・・・・あっ、私のことだ。シーナが私を、うん、あえ?)


 シーナの言葉を伝えている霞の頭は情報整理で、こんがらがっていた。


「かすみって何だ?」


 意味不明といいう顔をする男子に対して、香奈が必死に叫ぶ。


「霞、逃げて。早く」

「はー、かすみって、お前のことか」


 男子が笑いながら、香奈を壁に押しつけた。


「ノコノコお前に着いてきたのか。良いもの連れてきたな。あいつも、お前と一緒にしてやるよ」

「やめて。霞は関係ないよ」


 香奈の頬を叩くと、男子が腕を振り上げながら霞の方に走り込んできた。霞は身を縮めて、シーナに助けを求めたが、シーナは霞が助けを求めているなど知らぬ顔で前を指さしている。


「ほら、霞、よく見てよ。あなたの力ってやつを」


 シーナの言葉に指先の方に視線を移すと、霞は、「ウン」と顔をつきだした。男子が腕を伸ばし掴みかかろうとしているところで止まっているのだ。用心しながら男子に近づくと、ジっと様子を見た。


「シーナ止まっているよ。時間が止まったの?」

「いや、時はそのままだよ。何も変わっていなよ」

「じゃあ、どうして、この人は止まっているの?」

「よーく見てよ。止まってはないよ」


 目を凝らして男子を見ると、ほんの少しであるがジリジリと動いているのが分かった。


「時は止まってない。速いんだよ」

「何が?」

「霞の処理能力が」


 シーナは頭を指さしている。


「霞の処理能力が、尋常じゃないのよ。人がどんなに素早く動こうが、どんなに速い武器使おうが、霞の前では無力ということよ。あなたが、そいつの目の前でアッカンベーをしたところで速すぎて見えちゃいないよ」

「えっ、でもさっきまでは普通にお話ししたよ」

「それは、力を使ってないからだよ。隼も狼だってそうでしょ。常に獲物を追いかけているわけじゃない。必要なときに力を使うのよ。いまがそのとき。まあ、使う相手があまりにも小粒すぎるけどね」


 シーナが吹き出して笑った。


「えっ、そうなの?」


 霞は半信半疑でジィーっと男子の腕を見ている。いつまでたっても伸びてこない腕に待ちくたびれて、つい、ポンと軽くはたいた。


「あーっ」


 シーナが大きく口を開け、「やっちゃった」という顔で声を上げた。このとき、霞はシーナの驚く意味が分からなかった。

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