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思惑と神命(9)

 アサナミが見守るなか、四柱が顔を上げた。


さ。儂は一度はこの御霊みたまを返そうとした。人の命の灯火が消えることを哀れと思い、己がそれを見続けることに空しさを感じたからじゃ。母さより、それは儂が人を知らず、浅はかであるとさとされた。人の命が尽きるのが、その者の定めならば儂は受け入れよう。じゃが、このナナガシラには、高見から人を縛る者のおぞましいまでの邪気を感じるのじゃ。それは、人に対して決して向けてはならぬもの。六柱のなかには土の神がおる。土の神は人に寄り添う神。じゃが、ナナガシラの土には呪いがかけられておった。六柱にいったい何があったのか、儂は確かめたいのじゃ。本当に人を縛るものの正体を儂は、見定めたいのじゃ」


 みなもが手から土をサラサラとこぼしていく。美しく輝く土がみなもの足下に注がれていった。アサナミが土を見つめている。その瞳は、みなもの想いと土に込められた呪いの正体を見通していた。


 火の神がみなもに続き言葉を述べた。


「アサナミの神より御霊を授かり、ユウナミの神より生を受けたときから、人を導き、そして守ることこそ神の勤めと考えてきました。それは、いまも変わりはありません。それこそが、母、ユウナミの神の想いであり、水面の神から教えられたこと。ナナガシラには、人を恐怖で縛り、その存在をも脅かす闇が見えます。母、ユウナミの神の憂いがまさにそこにあるのを知りながら、死地に飛び込むことをおくすることはできません」


 火の神の広い背中から赤く輝くオーラが放たれた。悲しみ、苦しみを怒りに変え、全てを焼き尽くす力。それを抑えながらも、天上界まで伸びんばかりにオーラは激しく燃えていた。


 アサナミは沸き立つオーラの光を瞳に取り込み、火の神の覚悟を受け止めた。


 死神がアサナミの顔を見上げる。アサナミも死神の瞳の光に応えた。


「死神も動くというのですか。そなたの意志がそうさせるのでしょうか」


 アサナミが問う。死神は頭を下げ礼をしたあと、アサナミを見上げた。


「御霊を預かることができる柱は、アサナミの神、ユウナミの神のみ。これは、神のなかの禁忌。これを破った柱がいる。それを許すことはできません」


 死神の瞳から静かな光が放たれる。その光は、アサナミに敬意を表し、言葉に嘘がないことを物語っていた。アサナミはその光に、言葉の裏に包まれた死神の本望を受け取り、明かすことなく心の奥に仕舞い込んだ。


「死神、そなたの真意、確かに受け止めました」


 アサナミが隣にいるシーナに瞳の光を向けた。シーナは顔をアサナミの方に向けながら、視線を合わせることなく、微かに瞳を泳がせた。


「わたしは、わたしは別に・・・・・・」


 アサナミの前で嘘偽りを述べたところで、全てを見られてしまうことは周知のことである。みなもは、あえてシーナの心の中を覗くことはしないが、アサナミは全てを見通している。シーナは、このときばかりは本心を隠すべき言葉を探し続けていた。


「私は、別に覚悟なんてないよ。ただ、うつくしいもの、可愛いものが傷つけられるのが嫌なだけです」


 アサナミの瞳に敬意を持ちながらも、フンと精一杯の強がりを見せながら答えた。シーナの態度をアサナミは優しい笑みで受け止めた。


長級乃神しなのかみ。その言葉に偽りはないのでしょう。ですが、その真意は、ナナガシラにある秘密を知ればこそ。その優しさは、風の神であればこそ。どこまでも強い神よ。その風で水面の神を導いてくれるのですか)


 アサナミが四柱を見渡す。


「そなた達の覚悟はよく分かりました。ならば、その覚悟に私は応えなければなりません。ナナガシラに入りコソコソとしていれば、目的を果たすにも無駄に時を過ごすことになりましょう。なれば、救うべきものも救えず、明かすべきものも闇に隠れてしまいます。それでは、あまりにも哀れ。ともに繋がるものとして、私にできることをしましょう」


 アサナミは四柱を指し示すように、右腕をスッと前に掲げた。アサナミの姿を見た四柱は、一瞬、目を大きくして驚くが、すぐさま右膝みぎひざと右手を地に着けると、頭を下げ、左腕をくの字に曲げて額の前につけた。


 時がとまったかのような静けさと澄み切った空気がこの場を閉じていった。


 四柱はアサナミの言葉を待っていた。

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