思惑と神命(8)
アサナミの社にみなもがいる。白い着物に水色の帯、髪飾りが蓮の華を咲かせ、潤いのある髪を彩っていた。みなもの両隣には火の神とシーナそしてシーナの隣に死神が並んでいる。
「あーあ、モジモジは結局来ないよ。水波の神のとこも、ここにも顔見せないなんてどういう了見よ」
シーナが頬を膨らませプリプリとしている。あの日の一件でおいしいところを最後に持っていかれたのが、シーナには面白くなかった。
プックリと膨らませた頬を死神が興味を持って見ている。つい引きつけられたのか細く美しい指先が、シーナが膨らませた頬を押し込んだ。
プニッ!
柔らかく膨れたお餅を押したような感触が、指先に伝わった。死神は何度もプニプニと押している。
(このオスマシ。シレッと不思議そうな顔して、何するのよ)
シーナが目を引き攣らせて死神を見るが、気にすることなくプニプニと押している。
「フワフワしていない・・・・・・プニプニ」
真剣な表情で突っつく死神に、半ば諦めてシーナが頭を空っぽにしようとした矢先、夜神の顔と態度が思い出され、イラッと気持ちが荒ぶった。
「オスマシ、いい加減・・・・・」
尖る気持ちを抑えてシーナが死神を窘めようとしたとき、死神が突っつくのを止めた。
「アサナミの神が参上する」
死神の声にシーナは、スーッと表情を変え、真っ直ぐに視線を移した。死神も同じようにアサナミの神が現れる方向に視線を移した。みなもと火の神も注目する。四柱の視線の先に、女神が姿を現した。
長い髪が足下にまで届き、光り輝いている。美しき女神と神々が口にするその姿に、四柱も息を飲んで見つめていた。神謀りの場では必ず目にしているはずだが、こうして間近で見る姿には、威光とも威厳とも違い、自然にひれ伏してしまうほどの安心感と安らぎを感じた。もっとも、この四柱はアサナミの神より御霊を授かったのである。みなもにとっては、系統として母となるが、三柱にとってもアサナミから神としての存在を得たということでは、同じ母といってもおかしなことではない。ゆえにそう感じるのは自然なことであろう。
「母さ」
みなもが、事の経緯について話を始めた。アサナミは、みなもの言葉を静かに聞いている。表情を変えることなく、ただありのままを受け入れていた。
「ナナガシラの地に儂らは参ります」
みなもが言葉を終えた。アサナミは瞳を閉じ、再び開けると四柱を見つめた。
「話は我が子、水波野菜乃女神からも聞いております。そして、妹のユウナミの神もその事を憂いていました」
「ユウナミの神が」
火の神の言葉にアサナミは深く頷いた。
「そうです。ユウナミの神のもとには、多くの幼い巫女の御霊が集まりました。その中には死神が届けたサナとキナの御霊もあります。どの御霊もあまりにも哀れでそして健気なもの。人として過ぎたる重荷を背負ったものばかりでした。ことは、天上界はおろか、地上界でも知られていないもの。いかなる理由があり、地上神である六柱が人を縛るのか分かりません。これは、闇なる者が密かに仕組み、時を重ね紡いできたもの。神々の知らぬ間に、根を生やし、地上を汚し、神の御霊、人の御霊を弄んだもの。その罪は計り知れなく重い。闇なる者は、それを承知であるがゆえ、機を逃せばことは知れぬところに葬られることは必定。真相を探るのに時をかけることはできません」
「はい」
みなもの瞳が輝き、アサナミに応える。
「ことを表に出すには、穏便にとはいきません。確かなる証をもち、アマテの神が参上する神謀りに臨むことになります。そのため、私もユウナミの神も動くことはできません。大きく動き、それに気づかれれば、全てを無きものにして闇に消えるのみ。ゆえに、ことの真偽を見極めるには、苦しい戦いになりましょう。そなた達だけで立ち向かわなければなりません。ナナガシラでは、地上神である六柱の強力な神を相手にすることになります。助けのない世界に飛び込む、その覚悟はありますか」
静かに流れる時のなか、四柱は沈黙のなかそれぞれの思いを御霊に刻んでいた。
アサナミノ瞳が四柱を見守り、その答を待っていた。




