コンクリートと夜の華(1)
この二、三日、霞の心は輝いていた。補講には予習をして臨み、与えられた課題もこなしていた。前日には進学塾の入塾手続きを自らすませてきた。霞の突然の学習意欲に両親が驚き、暑さにやられたのかと心配したのは無理もないことである。
イジメていた女子達たちにはあの日の記憶はないようで、グループで仲良く笑って話しをしている。霞にも時折声をかけてきた。ただ、香奈は微かに憶えているのか、霞を見たときに軽く会釈をした。五人は、霞に対してはいままで何もなかったかのようにクラスメイトとして接している。周りの空気は、シーナと会ってからすっかり変わってしまったのだ。
変わったのは霞もだった。霞が勉強に意欲を燃やすのは、日御乃神社に行ったことがきっかけだ。ほんの一瞬で自分が知らないことを沢山詰め込まれた感覚を味わったのだ。いまはテキストを眺めながら頭の中で、その日のことを思い返していた。
午後の日差しが照りつけるなか、霞は二十分ほど自転車をこいでいる。スマホで位置を確認しながらようやく神社にたどり着いた。石造りの鳥居の前に立つと、シーンとした空気を感じる。誰もいない神社だが、寂しさはなかった。それより、誰かに見られている感覚が強烈に伝わってきた。鳥居をくぐった瞬間、それがはっきりと分かった。暖かい明るい空気と涼やかで静かな空気が漂う。その先に背の高い男子と髪の長い女子がいる。城東門高校の制服を身につけていた。男子は参道の正中に立ち、女子は拝殿横の祠の前に立っている。勇ましさと清らかさ、二つを象徴する姿に霞は息をのんだ。
(人じゃない。シーナと同じような雰囲気)
霞は自然に頭を下げた。男子は不思議そうな顔で霞を見ていたが、女子は優しい笑みで霞を迎えている。
(受け入れられた)
思いこみではなく、この場の空気が霞みにそう教えていた。
「こんにちは」
温かく柔らかい声に振り向いた瞬間、シーナが言っていたことを思い出した。
『会えば分かる』
目の前にいるのは、城東門校のセーラー服を身につけた女の子だ。首筋に光る痣が見える。朱雀の痣だ。
(この人が巫女・・・・・・なら)
「あのっ、えーっと。日美乃実菜穂さんですか?」
霞の問いに女の子はクリッとした目をさらに大きく開けると、お腹を抱えて笑い出した。ポカポカと辺りに光を届ける陽向の姿に見とれていた霞は、ハタと言い間違いに気がついた。
「あーっ、ごめんなさい。えっと、田口陽向さん?いやいや、違う。田口実菜穂さん、あーっ、日美乃陽向さん?」
頭がパニック状態でしどろもどろとなりながらも、ようやくまともに名前が言えたことで落ち着いたのは良かったが、恥ずかしさと申し訳なさが時間差で押し寄せて顔が熱くなった。
女の子はお腹を押さえて笑っていたが、霞の申し訳ないという表情を和らげるように声をかけた。
「はい。私が日美乃陽向です」
その笑顔に霞の不安は一瞬で消え失せてしまった。




