創造主オオクニヌシ様の生贄
この武蔵村には、10年に一度この村で一番大きな神社、赤岩神社に祀られているオオクニヌシを祈願し、感謝する武蔵祭りが開かれる。今年は、10年ぶりの祭り開催なだけあって村全体がお祭りムードだ。
武蔵村は、川沿いに民家を構える人口300人にも満たない小さな村で、村民は皆顔馴染みである。今日も村一丸となって1週間後に行われる武蔵祭の準備が行われている。
「姫奈!手を抜くでない。そここ提灯の紐が緩んでいるぞ。」
「はいはい!分かりましたよ〜。南華はいつも指図ばかりでなにもしないよね。あんたろくな大人にならないよ。」
「文句を言うのでない。物事には、上に立って指図する者がいて、それに従う者がいる。これが、世の中の縮図じゃ。」
「縮図じゃって!村長みたいな口ぶりだね。16歳のに親父くさい。」
「うるさい!手を動かせ!」
「はいはい〜!」
ほんと姫奈は生意気に育ったもんだ。長身の小顔で髪がながく、村一番の美少女だからと言って甘やかされすぎだ。村人は皆、姫奈に甘い。てか、デレデレしすぎだ。だが、美貌で行ったら、姫奈の右に出る人はこの世にいないから当然の話か。
かと言う俺は、小さい頃から努力を欠かさずに多くの学問を学び、村1番の物知りになり、この年で村長に、次ぐ村2番目の地位、支配力を持っている。
「そういえば、姫奈!村長が祭りの日にオオクニヌシ様へのお供えの儀式が終わった後、神社の裏口に2人で来いって言ってたよ。大事な話があるみたい。」
「何それ。そんなの今伝えればいいじゃん。」
「村長の言うことは絶対だ。村長がお供えの儀式の後って言っているのだからそれに従え。」
「あんたは、本当に村長の下部だね。」
「それが村の縮図だ。」
そして、準備が進んで行き、10年ぶりのお祭り当日を迎えた。
朝6時に村長が赤岩神社の祭壇の蝋燭に火を灯し、お祭りがはじまった。村中の人が、踊ったら歌ったりと楽しそうに過ごしている。姫奈も皆の中心になって美声を響かせている。
そんな俺は、祭りが無事に終わるように遠目で俯瞰しながら見ている。
10年に一度の祭りで、村民一丸となって準備してきただけあって、皆んな満足そうで何よりだ。今日だけは、俺もそんなみんなの姿を見ながら楽しむこととしよう。
村長の挨拶、巫女の舞、宴が終わり、最後に村長が祭壇にお米1俵納めて祭りは終わりを迎えた。すでに日は沈んでおり、あたりは暗くなっていた。
村民全員が、赤岩神社から帰ったところで、俺と姫奈は、村長に言われた通り、神社の裏口に向かった。
神社は、森の中にあり、すでに日は沈んでいたため、少し気味が悪い。
「南華!少し怖くない?なんで私たちだけこんなところに呼ばれるの?」
「俺にもわからない。ただ、村長の言うことはこの村では絶対だからな。」
「でも、なんで祭りが終わった後なんだろう。」
「それは、俺も気になっていたが、流石に聞けなかった。」
「やあやあ!待たせて悪い。今日という日を楽しんでかれたかな。」
村一番の長老の白髪混じりの腰が曲がった村長がゆっくりとした歩調でやってきた。
「はい!楽しかったです。10年に1度の祭りなだけあって。また10年後が楽しみです。」と俺がいうと、
「そうじゃのう。でも、まだ祭りは終わっていないんじゃ。というかここからが本番なんじゃよ。あれは、形式上のお祭りなのじゃ。」
「どういうことですか?」
姫奈と俺が同時に村長に問いただす。
「10年前に消息不明になった、美琴君と櫛田ちゃんのことは覚えているか?」
「はい。忘れられません。」
と俺が答える。
「あれはなぁ、オオクニヌシ様の生贄になったのじゃよ。オオクニヌシ様は、この村を創造したと言われており、その感謝のために10年ごとに男女の生贄2人を捧げる。男は賢い者。女は美女じゃ。そして、今回の祭りは君たちが選ばれたというわけじゃ。とてもめでたいことじゃ。喜びたまえ。」
「冗談ですよね。私、帰ります。」
と姫奈が走って逃げようとすると、ものすごい勢いで村長が姫奈を取り押さえた。普段の村長の動きとは思えないほどの俊敏さと力を備えている。
「これは、誰にも止められないことなのじゃ。ただのお、オオクニヌシ様に捧げるのは、君たち2人の肉体じゃ。魂は残る。言い伝えによると200年先にオオクニヌシ様から、力を分けてもらい生まれ変われると言われている。だから、一度ここで、南華君と姫奈ちゃんの人生はここで終わるが、200年後の人生を楽しみ待っているといい。」
「いやですよ。そんなの確証がないじゃないですか。俺も姫奈も帰ります。」
「これは絶対なのじゃ。えいや!」
逃げる隙を与えず、村長の物凄い力で俺と姫奈は神社の中に入れられ、鍵を閉められた。
「じゃあの。」と村長は去っていった。
「怖いよ!助けて!私、まだ生きたい。」
姫奈は神社の中で泣き叫んだ。
かと言う俺も何も言わないがとても恐怖でいっぱいだ。
神社は見かけは非常に古いが頑丈で無理やりこじ開けて出ようとしてもぴくりともしない。
「姫奈!俺たち死ぬんだな。これは無理な気がしてきた。」
「南華、諦めたくない。死にたくない。生きたい。」
姫奈は、涙を流しながら鼻をすする。
「200年後生まれ変われるんだよ。姫奈は死なないよ。」
「生まれ変わったとしても、姫奈はもういない。それは、別の人だよ。」
「そうかもな。でも、あの村長は、何かに取り憑かれていたし、きっと生贄と言うのも本当だ。今回ばかりは無理みたいだ。」
「南華は、すごい頭が良くて、いつも難しい問題も解決するんだから、なんとかならないの?」
涙声と共に姫奈が問いただす。
「俺にも道筋が見えない。お手上げだ。」
「そう、なんだ、、」
「姫奈!今まで色々と指図して悪かった。」
「ほんとだよ。南華だから従ったけど、この私に指図するなんて他にいないんだからね。」
「随分自分に自信があるみたいじゃん。まぁ、お前すごい可愛いもんな。」
「何よ!」
暗闇でわからないが、姫奈は頬を赤めたような気がした。
俺も気持ちを伝えないとな。
「姫奈。大好きだよ。」
「何よ、急に。、私も好き。」
死んでしまったらもうこの気持ちがなくなってしまうのか。生まれ変わったとしても、姫奈とずっといたかったなぁ。
でも叶わないんだろうなぁ。
そう思いながら、俺たちは、命の灯火を消すのであった。