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最悪の始まり

※手軽にさくさく読めるホラーよりの小説です。

恋愛要素なども入っています。

怖くないかもしれません。ご了承ください。

(ごめんね、お母さん。……でも、オシャレな服を着るとなんだかワクワクしちゃう! 初めて友達と飲みに行けるなんて、頑張っててよかったー! これからは就活まで余裕があるから友達といっぱい出かけられる!)



 そう思いながら待ち合わせ場所のBar『レッドラム』のドアを開けた。カランとドアベルが鳴る。バーのカウンターに座っていた愛菜が振り返って、花梨と認識すると笑顔で手を振った。約束の時間の五分前だったが、彼女も楽しみで早めに来て待っていてくれたのだろう。花梨は嬉しくなり足早に近づいていった。歩くたびに白いパール型のイヤリングが揺れる。



「花梨、こっちこっち!」



「愛菜ちゃん、お待…た……せ?」



 ここからが後悔の始まりであった。





 バーのカウンターに愛菜は座っていたが、愛菜以外も座っていた。愛菜を挟むように二人の男性が座っていた。


「超かわいい! 花梨は大学でもオシャレした方が絶対良いって」


「ありがとう。愛菜ちゃん、その人たちは……?」


「彼氏の祐人。こっちは大輔。花梨と話したいって!」


 顔が引きつり始めた花梨に対して、愛菜は愛菜の右隣に座っているのが祐人、左が大輔と紹介された。花梨はてっきり愛菜と二人で飲むのだと思っていたが、愛菜はそうではなかった。そのことに花梨は気分が下がった。見知らぬ人に話したいと言われても、正直言って怖いだけだ。花梨は帰ろうと愛想笑いを浮かべた。



「私、てっきり愛菜と飲むんだと思ってたからこういうのはちょっと……。ごめん、帰るね」



 花梨はカウンターに立っていたバーテンダーに会釈をして、三人に背を向けた。しかし、腕を掴まれてしまった。



「固いこと言わないの! ほら、大輔の隣に座って~! そのために花梨を呼んだんだから」



「え、ちょっと……! やめてって……」



「花梨ちゃんも飲もうよ! 俺さ、面白い話得意だから!」



「愛菜から山上のこと聞いてたからなんか身内って感じがするんだよね」



「でっしょー!! 花梨、緊張しなくていいからね! マスター、向こうのテーブル席に移るね」



 愛菜に腕を掴まれたまま引っ張られ、後ろで大輔が花梨の背中を押した。カウンターから離れた所にあるテーブル席の奥の角に座らされてしまった。このテーブル席は部屋の角にあり、入り口からも遠くカウンターにいるバーテンダーさんからも見えにくい位置にある。

花梨の隣には大輔が座り、正面に愛菜、愛菜の隣に祐人が座った。



(まずい……よね。早く帰らなきゃ)



 望ましくない状況だと思った花梨は席を立ったが、大輔が席に座ったままで退かないため帰ることはできなかった。少し話せば帰らせてくれるだろうと仕方なく席に座った。人数分のカクテルを注文した。花梨はアルコール度数の低いファジーネーブルを選んだ。


地獄の始まりである。




「ファジーネーブルが好きなの? もしかしてお酒弱い?」



「それともピーチが好き? あ、オレンジ?」



「家ってこの近く?」



「アルバイトって何してんの?」



「アルバイトしてるとこ見に行っていい?」



「スポーツ何好き? 俺、運動神経良いからなんでもできるよ」



 大輔は面白い話ではなく花梨に対してひたすら質問攻めを始めた。花梨は家もアルバイト先も教えずに曖昧に誤魔化した。この時に愛菜に教えていなくて良かったと心底そう思った。他の質問は無難な答えを言った。愛菜と祐人は花梨の答えに反応したり、大輔に「これ質問したら」と質問の提案をしていた。終わらないと辟易していた質問攻めが終わった。ちょうどカクテルも飲み終わり、今度こそ帰れると安心した。



「花梨ちゃん、ピーチ系が好きならジャック・ター好きだよ。絶対! 俺ん家にリキュールとかお酒いっぱいあるからおいでよ。作るのも上手いぜ」



「高校の時にバスケやってたんだけど、お前がいなかったら勝てなかったとか言われてさ。おれマジで運動神経良いんだぜ」



「一昨日に女子に告白されてさ、でも断ったんだよね。俺、好きな人いるってさ。あ、今日ここに来る前に逆ナンされたけど、断ったぜ」



 次に始まったのはドヤ顔で俺凄いんだぜアピールであった。そして、勝手にアルコールをお代わりされてグラスが目の前に置かれた。オレンジの香りがするがピーチの匂いはしなかった。さっきまで飲んでいたカクテルはピーチとオレンジのものだった。



「これスクリュードライバーっていうオレンジのカクテル。美味しいし飲みやすいから頼んでおいたよ」



 話が終わるのをただ待つだけでは許されないようだ。三人は笑顔で「飲め」と催促した。三対一では勝てそうにない。



(夜に出掛けなきゃよかった……。お母さんの言う通りだった)



 花梨は泣きそうになりながらも一口飲んだ。口内に広がるアルコール独特の匂いや味がしなかった。コップの中身はただのオレンジジュースであった。


そこで遠くからテーブル席を覗いてきてる女性の店員がいることに気がついた。バーテンダーとスタッフが三人の強引さに注意しているようだった。花梨はアルコールが入っていなかったことに安堵する。女性のスタッフに小さく頭を下げた。女性スタッフはウィンクをしてくれた。





 三時間経って、ようやく帰る雰囲気になった。会計は割り勘を希望したが、大輔が全部支払った。ここでもドヤ顔をしていた。カランとドアベルが鳴ってドアが開かれた。



「今日はありがとうございました」



 口だけのお礼を言った。この人たちといたくない。散々話を聞かされて疲労した花梨は帰ろうと足を駅に向けた。しかし、がっしりと手を掴まれた。

読んでいただきありがとうございます!

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