普段とは違う日
※手軽にさくさく読めるホラーよりの小説です。
恋愛要素なども入っています。
怖くないかもしれません。ご了承ください。
今日は最悪と言ってもいい日なのかもしれない。
山上花梨は都内の大学に通う大学生だ。実家から出て一人暮らしを始めて三年目。大学一年生の頃は、初めての一人暮らしと四年生の時に楽ができるからと言われて授業を詰め込んでいたため慌ただしい生活だった。遊びに行く暇すらもなかった。
二年生になり、生活に慣れ始めてアルバイトを週三日入れることにした。空いた時間にアルバイトをいれたので、この年も遊びに行くことはできなかった。代わりに貯金をすることができた。
そして、三年目の夏。私は普段通りに授業を受けて、家に帰った。家に帰るまでは普段通りで、この次の予定は非日常であった。
食堂でお昼ご飯を食べている時に友達の田中愛菜が「飲みに行きたい」と言った。彼女は一年の頃から友達であり、断り続ける花梨にめげずに遊びに誘ってくれる優しい友達ある。常なら断っていたが、ようやく出席必須の授業の数も減り、アルバイトも落ち着いたので喜んで快諾した。
それが間違いであった。
早く終われと念じていた授業が終り、素早く参考書やルーズリーフを大学用のリュックに入れた。同じ授業を受けていた愛菜も隣の席で帰る準備をしていた。
「愛菜ちゃん、また後でね!」
「うん。バーの場所分かる?」
「さっき検索したから大丈夫だよ。Bar『レッドラム』でしょ?」
「そうそう。駅近のバー。迷ったら電話してね」
「はーい! じゃあね」
出席カードを提出して、花梨は駆け出すのを抑えて早歩きで帰路につく。愛菜と話し合って、着替えてからBar『レッドラム』で待ち合わせすることになっていた。電車に乗って揺られながら何を着ていこうかウキウキしながら考えた。
アパートの階段を駆け上って、自分の家となった二〇三号室の鍵を開けて中に入った。背負っていたリュックをほっぽって手を洗う。そして一直線に押入れを開けに行った。
「ノースリーブにロングスカート……あ、フレアスカートもいいなぁ。……サルエルパンツ、いやスキニー?」
買ってはいたが着る時間がなかった洋服を引っ張り出す。組み合わせては変えて、新しい洋服を取り出して姿見の前で合わせる。飲むと言っていたが何かしら食べるだろうと白色は押入れに戻した。その時に透明なビニールの袋に入れてハンガーに掛けていた水色のワンピースが見えた。それは襟がないノーカラー、袖はパフスリーブでふわりとしている。ウエストにはリボンベルトのアクセントがあり、膝の隠れるミモレ丈。可愛いけれど上品でオシャレ、所謂フェミニンな感じだ。花梨が一目惚れして買ったものだ。
花梨はそれを手に取るとしわができていないかを確認した。しわもなく型崩れもしていない。このワンピースを着ることに決めて、ドアの上にある〇に掛けた。
「靴、靴……先に鞄!」
靴を選びに玄関にあるシューズボックスに行こうとしていたが、くるりと反転して再び押入れに戻る。財布とスマートフォン、ハンカチ、定期が入るぐらいの大きさのバッグを選んだ。ライトグレーの小さめなショルダーバッグ。肩に掛けるストラップ部分がチェーンになっている。ワンピースに合わせて、色が喧嘩しないかだけを確認した。花梨は頷くとバッグの中に必要な物だけを入れて玄関横のシューズボックスの上に置いた。そのまま靴を選び始めた。一度も履いたことのないハイヒールを眺める。黒、白、ピンク、ベージュと順番に見ていき、最後にシルバー。シルバーのストラップ付きのフレンチヒールを取り出して玄関先に置いた。
「あっ……!」
ヒールを下ろした後に母親に言われていたことが呼び起こされた。
「新しい靴はね、夜におろしてはいけないのよ。縁起も悪いし、女の子の夜の外出なんて危ないから」
なんだか悪いことをしているような罪悪感を感じた。それと同時に明日が大学の授業もアルバイトもない日であることを思い出した。しかし、愛菜と今日の夜に飲むと約束をしてしまった。
「嬉しすぎて考えてなかった……」
花梨は肩落とした。せっかくならショッピングや遊んでから飲みに行ってみたかった。今から愛菜に連絡を入れたとしても失礼になるだろう。待ち合わせの一時間前にキャンセルして、明日にしようなんて花梨には言えなかった。
「もう一時間前っ!? メイク、メイク! あー! その前に着替えなきゃ!」
慌てて部屋に戻るとワンピースに着替えて、メイクにとりかかった。
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