ある街のある部屋
○ある街のある部屋
そこは暗くても明るい場所だった。
暖かくもあり冷たくもあった。
要するに、ちょうど良かった。
「ねー、何しているの?」
ある者は、机に光を灯しながら座っている少年に尋ねた。すると少年は背中を向けながらこう返事した。
「ひ・み・つ」
両者の間に沈黙があった。それは、気まずい沈黙ではなく、心地よい沈黙だった。
「ねー、実際のところ、何をしているの」
「ん? 日誌を書いている」
「日誌?」
「その日にあったことを、紙に書くんだよ」
「へー、そんなことしているんだ」
「まあね。一応、旅の思い出に」
「前からしていたっけ?」
「いいや、最近になって始めたんだよ」
「へー。珍しい」
「何が珍しいんだい?」
「だって、君が新しいことを始めるんだよ。あの何に対しても興味がなく、いつも同じことばかりしている君がだよ」
「うるさいなー。黙ってくれよ」
すると、再び静かになった。カリカリと筆が進む音がした。
「ねー」
「今度は何だい?」
「そこに書く内容に関してなんだけど」
「言わないよ」
「いや、何を書いているのかを教えて欲しいわけではないんだ」
「じゃあ、何だい?」
「あの、一つの提案なんだけど」
「言ってみて」
「その、オイラを主役にして書いて欲しいんだ」
再び冷たい沈黙になったが、すぐに暖かい笑い声が出てきた。
「はっはっは。それでは日誌ではないよ」
「そうなの?」
「そうだよ。それは小説とかになるんだよ」
「じゃあ、小説を書いてよ。オイラが主役のやつ」
「また、気が向いたらね」
「あー、それ、気が向かないやつー」
その言葉を無視して、筆を置いた。その後に、暖かい沈黙が訪れた。そして、再び言葉が聞こえた。
「ねー」
……




