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僕が辿り着く一つの真理

作者: Crowley

 容姿だとか性格だとか仕草だとか、始まりは何だったかはよく覚えてはいない。だが、僕が初めて愛したのは彼女だった。気色悪いとか思われるかもしれないが、彼女と交際していた訳ではない。しかし恋したというよりは愛したと表現するのが妥当だと思う。そんな感情を彼女に抱いていた。


 中学の時、少しの間男友達含め何人かで遊ぶ機会があって遊んでいただけの関係だ。言い訳をするようだが少なくとも知人B程度の関係性ではなかったと思う。卒業するまでに二度告白したものの、案の定玉砕。彼女は好きな人が居るらしいが、その男が僕よりも善人で魅力的であることを祈るばかりだ。


 別の学校になってしまった高校時代。自分で言うのはどうかと思うが、誠実な僕はされた告白はフッた思い出しかない。というのも彼女の事をまだ引き摺っていたからだ。なあなあの関係なんて僕は求めてないのだ。


 大学生となった今、現在の動向は最早知りようもない。風の噂でさえも耳にしないのだから、きっと僕の住むセカイとは決して交わることのないセカイに生きているのだろう。



「好きです、付き合って下さい!」

「それは僕が欲しいのかい?それとも『彼氏』が欲しいのかい?」

「えっ?あ、いやその……せ、先輩が、欲しい、です……」

「そっか、それはごめんなさい。僕は君に『愛される覚悟』が持てない。その『覚悟』がなきゃ、僕はきっといつか君のことを裏切って傷付けてしまうから、僕は君と交際することは出来ない。」

「……は?それはどういう事なんで」

「僕には君と交際する権利がないって事。それじゃ、講義に遅れちゃうから。またね。」



 だから、諦めはしないまま、クズに成り下がる事にした。此方から向こうの環境が分からないのだ、向こうも此方の環境を知る術はない筈だ。だから、クズに成り下がって彼女を諦められるような環境に持ち込んだ。


 先程の女の子は同じサークルの後輩にあたる人だ。以前からなんとなくイケるかな?などと考えていた。やっと今日、向こうから告白する土場を整える事に成功し、そして案の定告白される事に成功した。

 この後輩で六人目。そして皆一様に前者を選ぶから、完璧なクズになれないでいる。異性の感情を弄ぶだけではまだクズ度は高くない。いや、それでも相当なクズなのは理解しているが、僕の求めるクズには程遠い。


 講義の時間を利用してどうすれば更にクズ度が上がるか模索する。後者を選ぶ女性は信用出来ない代わりにクズ度を上げられるが、問題はそういった女性を引っ掛けられる程のスケコマシ(りょく)が無い。しかしもし次に前者を選んだ女性と交際したら、僕はきっと過去の六人にメッタ刺しにされるに違いない。クズにはなりたいが刺されたくは無いのだ。



「どうしたものか。」

「んー、どーしたのー?」

「自動ドアを引っ掛ける腕を磨くか、刺されるのを覚悟するか、他の選択肢がないか考えてるトコ。」

「ふーん……て、何で自動ドア?」

「後者を選ぶのはきっと貞操観念がゆるゆるな人だっていう偏見。そしてゆるゆる族のニックネームが自動ドア。シンプルに言うと人聞きが悪いでしょ?」

「ふふふ、童貞の僻みかな?……講義、聞かなくて良いの?」

「頭には既に入ってるから問題ない。」

「わあ、才能の無駄遣い!」



 話しかけてきたのは唯一の理解者、というより唯一事情を知ってる友人の薄野。彼女曰く中学・高校とゆるゆる族だったらしい。同学年、一部の先輩、後輩、教師までも兄弟にしてしまったと豪語していた猛者だ。マネージャーをしていたことがそんな事態を引き起こした要因だろう。


 大学生になってから数日間クズになる踏ん切りがつかなかった頃、颯爽と僕の前に現れて貞操を奪いに来たのが彼女との出会いだ。何とか死守することがかなったものの、そんな彼女の在り方を見て踏ん切りがついたのだ。彼女は非常に不本意そうな顔をしていたが。


 それ以来、彼女には自動ドアの方々を探しに行って貰っている。出来ることが限りなくゼロになったら、手っ取り早くクズ度を上げるためだ。



「くそ、薄野に頼るしかないのかぁ?」

「くふふふ、さあ君もアダルティーで妖艶な愛にに溺れてみないかい?」

「いや、ただただ卑猥でヤラシイ沼だろう、この高速自動ドアめ。」「いいね、言葉責めの才能あるんじゃない?」

「要らんわそんなもん。」



 こうやって友人と馬鹿な会話をしているだけで中学も高校も幸せな時間になったものだ。例えそれが一方通行な友情だったとしても。友情だとか思って一緒に居た結果、彼女とはついには関わることすら出来なくなったというのに、一向にそんなことを理解しない。今だけを楽しむならそれでも良いかもしれない。刹那的で良いのならそんな一瞬の関係も悪くは無かったのかもしれない。


 結局のところ僕が、僕自身が何をしたいのかが分かってない、迷走しているのだ。何せ彼女が僕を認知出来ないのに、こんな嫌われるような事をしても意味がない。そんなことすら分かっていないのだから、迷走していると言わずしてなんと言う。



「でもさ、刺されたく無いなんて甘い話はもう出来ないと思うよ?」

「それはどういう事だ?」

「そりゃ君からすれば刺される程の事じゃないかもだけど、引っ掛かった女の子からしたら長いとはいえ人生の内で、それなりの時間を知らずに無意味な恋に使い捨ててんだから。」

「んー、そうだよなぁ。つーか小心者の僕にこんな生き方無理だっつーのに、なーんでこんなか細い綱渡りせにゃならんのか。選択した自分を刺し殺したくなるわ。」

「はは、そりゃいいね。君の代わりに私が刺そう。そうだ、何なら君が私に刺してくれてもいいんだぜ?」

「ナイフで良いかい?」

「いやいや、君が生まれ持った如意棒でお願いします。」

「オーケー、チェーンソーだなあい分かった。」






 その後、僕は一年留年しただけで特にイベントもなく大学を卒業して就職した。あの頃は今までの学校生活を通して一番つまらないものだったことを記憶している。ついでに薄野まで留年したのは驚いたが。


 驚いたと言えばもう一つ。薄野の予言が的中したのだ。十三人目の子がかなりの地雷で、貢ぎ物をかわしきったにもかかわらず貢がされたと吹聴し、ヲタサーの(じぶん)の地位を利用して下僕(サークルメンバー)を遣わして僕を刺させ、それを助けに来て通報するという見事なまでのマッチポンプを演じきったのだ。被害者の僕は一瞬騙されたものの、事情を知って迂闊にも天晴れなどと思ってしまった程に上手い演技だった。踏み外さなければ良い女優になれたに違いない。因みに事件で僕のしていたことが明るみになり、学内では彼女らを十三使徒と呼んでいた。


 就職先は中小企業、良くも悪くも普通の会社だ。ホワイトでもなくブラックでもない。不倫したらしい芸人さんの言葉を借りるならオフホワイト、といった具合だろうか。いや、もしかしたらもう少し黒いかもしれない。



「佐藤さん、部長から頼まれてた案件はどうなってるか聞いてる?」

「ええ、鈴木先輩が課長と今先方に出向いて鋭意交渉中と連絡がありました。此方の譲歩が効いたこともあって契約に漕ぎ着けそうとも書いてありました。」

「わかった、ありがとう。資料作り頑張って。」

「はい!」



 社会人になってからというもの、やらなければならない事が多すぎて何をしたいのか考える暇もない。上司はいい人で部下もいい奴らだが如何せん仕事が皆スローペース過ぎる気がするのだ。これで会社を回せている社長の辣腕は尊敬せざるをえない。僕がせっかちなのだろうかとも考えたがそれはない、せっかちなら功を急いて今頃部長になれていただろう。



 ──コーン、コーン、コーン……



 定時になると寺の鐘のような音が鳴る。社長の宗派が浄土真宗らしいが、関係あるのかは正直微妙だ。無論、この鐘が鳴ったからといって仕事が終わるわけでもない。僕は抱えている案件は先方の子会社がトラブルを起こして火消しに奔走している為、向こうの返答待ちで仕事が止まり、細かい事務作業を仕事が積み重なっている部下から取り上げている状況だ。まあ、すぐに終わらないものを優先してやっているから今日も定時で帰れるのだが。



「あ、先輩!ちょっと資料の確認してほしいんですけど、少し時間良いですか?」

「おお、分かった…………うん、大まかには大丈夫だな。ただ、グラフの出どころをちゃんと書いておかないと、企画書としてはまずまずじゃないか?趣旨の違う資料だった場合大変だぞ?」

「あ、確かにそうですね。分かりました、直してきます。」

「ああ。気付かなかった時、ちゃんと上司にも責任被せる為にも必要だ。」

「先輩、性格悪いって言われません?」

「おー、明日の昼飯をお前は奢ってくれるのか、優しいなお前は。俺と違って。」

「先輩やっぱ性格悪いっすね。」

「口調が前に戻ってんぞ。……んじゃ、また明日。お先に失礼しまーす!お疲れ様でしたー!」



 部内に向けて挨拶してオフィスを出た。東京じゃないとはいえ地方でも立派なオフィス街だ。地下駐車場から車を出すと僕は花束を買いに花屋へ向かった。今日は細やか?な記念日だからだ。どうということはない、籍を入れてから丸三年目になるだけだ。


 僕の周囲の印象か割とマメな性格で乙女チックな所がある、らしい。だからと言うわけではないが毎年彼女が好きな花束を買って帰るのだ。小さな花で脇役に徹するような、決して束にするような花ではない気がするのだが、馴染みの花屋はそれをわざわざ束にしてくれる。



「ただいまー」

「おっかえりー、ってリナリアの花束買ってきてくれたんだ?」

「まあな、ミサの好きな花だろう?今年は種もくれたんだ、庭に植えようぜ。」

「あら、それならお礼言っとかなくちゃね。そうだそうだ、ご飯にする?お風呂にする?それともわ・た・し?」

「定番だなぁ。全部外で済ませてきた。」

「嘘……」

「冗談だよ、愛してる。」



 人生百年時代の四分の一が終わる今までで、僕は多くの経験をしてきたと思う。叶わない恋をしていたり、叶わない恋をさせていたり、その報復で刺されて抱腹絶倒……今のは無し。とにかく、まだまだ長い人生で僕は一つたどり着いたモノがある。


 男女の友情は成立しない。それは多分、絶対の真理なのだと。

他にも拙作をちらほら書き散らしております。良かったら読んでってね。なんならついでにブクマなり評価なりつけてくれても嬉しいのよ?

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