宇宙コロニー
…男は
冷えたグラスに、強いヤツをツーフィンガー。片手でボトルを持ち上げ、赤いエキスを中程まで注ぐと、穴の空いたポケットから、ライムを取り出し半分かじる。残りをグラスにぶちこみ、一気に飲み干した。
添えられたチーズを口に運ぶ。
独特の風味が鼻をつく。
ため息と共に「…故郷の味だ」
店主「お客さん、ずいぶんですね」
男「ああ、ずいぶんさ。」
店主「聞きましたよ。噂ですがね。」
男「…聞いたのか。」
男は、猫のラッキを抱き寄せ、背中を撫ではじめた。喉をならし安心しきっている。
その手には、幾つもの傷跡があった。
皆が知っている。もちろん、ラッキとて、例外ではない。
テレビから衛星放送が流れてきた。
南部からの季節風により、今年の作物は順調とのことだ。
男は、空のボトルをテーブルに置いた。
店主「またのお越しをお待ちしております」
振り返ることもなく男は出て行く。
扉が閉まると、春の終わりを告げる風が吹き抜けた。