ある日の年上彼女と年下彼氏。(ある日の肉食系女子と草食系男子)
「・・・ねぇ、腕出して。」
ある日の夜。
2歳上の恋人がベットの上で、意味のわからない言葉を吐いた。
「な、なんで?」
その言葉に洗濯物を畳む手が止まる。
どういう事だろうと顔を覗いてみると彼女は頬を赤く染めて俺の枕に顔を埋めていた。
これでも一人の女を愛している身。
彼女が落ち込んでいることが見ただけで分かった。
「・・・今日、何かあった?」
一応近づいて頭を撫でてみる。
すると、彼女は唸りながらも落ち込んでいる理由を話してくれた。
「今日、上司に怒られた。調子のるなって。」
おぅふ、こう言う愚痴は毎度毎度どう返せばいいのだろうか。
彼女と同じ職場で働いているわけではないから詳しいことはよく分からない。
それにもっと頑張れなどと頑張っている彼女に失礼なことも言いたくない。
だから落ち込んでいる彼女を見たとき、いつも悩んでいる。
俺が出来る中での最大の励ましは何だろうか?と。
「・・・悲しいの?」
取り敢えず今の彼女の抱えてる気持ちを知ろう、と優しく訪ねてみる。
「・・・うん。」
質問の返し方をよく観察すればどのような感情を抱いているかは大体分かるもの。
見た限り、これは相当参っているのが分かった。
これは俺がどうこう出来るほどのものじゃない。
だから俺は苦笑しながら言われた通り彼女の前に腕を差し出した。
「・・・あまり強く噛み過ぎないでね?」
彼女はストレスの発散のために俺を求めた。
なら俺のできることはただ一つ。
彼女の思うままに行動する。ただそれだけ。
ストレスが溜まったときにする彼女の行動。噛む行為に俺は耐えることにした。
ガブっ、
自ら音を立てて噛みつかれる。
最初は甘噛み。猫が飼い主に愛情表現でするような強さ。
「・・・美味しいの?」
「・・・無味無臭。」
お味は?と笑いかけたら彼女はただそれだけ言って噛み続ける。
彼女と付き合ってもう5年。
毎回、こんなことが続けば慣れるというもの。
ハグハグと甘噛みから噛む位置を確かめる動作に移行したとき、俺は仕事について尋ねてみた。
「・・・お仕事、辛い?」
「・・・楽しいよ、でも・・・イチャモンつけてくる人がいる。」
思い出して怒りが湧いてきたのか噛む力が少し強くなった。
「上司にはちゃんと報告した?」
「・・・ちゃんと聞いてくれない。言いたくないけど、無駄だった。」
「・・・へ〜。」
俺の仕事はフリーライター。家で仕事をしながら家事をして家を支えている。
だから会社で働いている人の気持ちはわからない。
逆にそんなことやっぱりあるんだな、と彼女の話は俺にとって感心するレベル。
「・・・へ〜ってなによ!ちょっとは慰めなさい!」
「いてっ!?」
俺のその関心を知ってか知らずか。
彼女は俺の淡白な反応に強く噛むことで怒りを示した。
「イっ・・・アァ・・・・ハァッ・・・!」
恐らく痛みからして噛まれている場所は内出血していることだろう。
それほどまでに彼女の噛む力は強くなった。
さすがの俺も無様に声を出さないよう痛みに耐える。
「・・・大・・・丈夫。」
彼氏なら自分の痛みより彼女の苦しみを和らげることを優先せよ。
うちの家系に伝わる異性攻略法を試す為、もう片方の手をサラッとした天然水を連想させる髪を持つ頭に置いた。
そして優しく撫でてみる。
「俺は・・・いつも頑張ってること・・・知ってるよ。」
噛む力は緩まないが彼女がそれで落ち着くと言うならそれでいい。
後は俺が言葉で彼女を落ち着かせるだけ。
「寝る間も惜しんで・・・会社の為に・・・仕事してるのも・・・ちゃんと見てる。」
撫でる手は髪の流れに逆らわない。
毛並みを崩さない様、慎重に扱う。
「痛っ・・・だから・・・俺はそうは思わない・・・調子になんて・・・乗るわけがない。」
段々と噛む力が緩んできた。
代わりに舐めたり吸い付いたりされるが、これは落ち着き始めてる証拠。
あと一歩、あと一歩で彼女は元気を取り戻す。
「一緒に働けないから・・・都合のいいことなんて言えないけど・・・」
彼女の目と目があった。
どこか吟味するような目。観察されているのが見て取れる。
噛む力は急になくなった。
「俺は何されても大丈夫だから、と言うかして欲しいっていうか、頼ってほしいっていうか・・・そう、辛いことがあったら、俺に当たっていいよ。」
俺は痛みを我慢する必要もなくなったので自分の持てる最大の笑顔を彼女に向ける。
「あまり痛いのは嫌だけど・・・噛み跡つけたり引掻き跡ぐらいは幾らでも付けていい。
お腹が空いたのなら大好物沢山作るし、遊びに行きたいなら・・・ディ○ニーランドでも行こうか?奢ってあげる。
富○急でもいいよ!俺的にはそっちのほうが爽快感あると思うんだ!
他には・・・うん、落ち着くためにプラネタリウムも行こう。
きっと今まで見たことないぐらい綺麗なんだろうね。
映画館にも行って感動作も見よう。
きっと泣いちゃうだろうから見終わったら結構スッキリするに決まってる。
普通にショッピングモールで好きなだけ買い物を楽しむのもいい。
友達呼んで、パーティーして、どんちゃん騒ぎして、ぐっすり眠って。
夜だってっ!・・・その・・・あの・・・うん、気絶しないように・・・頑張るからさ・・・///!」
「・・・・もう駄目。」
「えっ?」
最後、あまりの恥ずかしさに顔を赤らめると、俺の腕は彼女に引っ張られた。
ベッドの上でマウントを取られたように彼女の下敷きになる。
すると俺の唇はいとも容易く奪われた。
数秒間に続く接吻。突然甘さや激しさに頭は思考を放棄した。
「・・・いいのよね・・・いいって言ったわよね?
本当に駄目・・・折角我慢してたって言うのに・・・私の努力を無駄にして・・・。
今日は嫌って言っても・・・虐め続けるから。」
「んにゃっ///!!??!???!!」
耳は一つの性感帯、という噂がこの世にはある。
俺も最初はそれを聞いて「まさか」とは思っていた。
が、所詮世の中百聞は一見にしかず。
さらに言えば物事全て味わえば誰しも嫌でも納得するというもの。
俺の耳は性感帯以上に敏感だったのだろう。
ささやき声1つで、まるで背筋を撫でられたかのように全身がビクリと震えた。
「「・・・?」」
この時の俺は自分の耳が性感帯とは思ってもいなかった。
彼女もそれは同様らしい。
だからこの震えには二人して困惑する。
「・・・。」ニヤッ
「・・・。」ヒッ
数秒、間をおいて理解した二人。
俺は嘘だと避けられない事実に悲鳴を。
彼女は娯楽が増えた事による歓喜の声を。
そして俺は・・・彼女の舌によって蹂躙された。
「んんあッっ///!!?!???!!?!」
いきなり彼女の舌が奥に侵入してくる。
「アァ・・・あづっ・・・イヤぁ・・・///っ!」
耳とは全神経が収束していると言っても過言ではないのだろう。
舌が奥に入ってくるたび体に流れる電流ような快楽と彼女の温もりを強制的に感じさせなくする寒気。
「イぁっ///・・・はぁ、はぁ・・・イぅグ・・・っ///!」
言葉では表現しきれない感覚に俺は心から恐怖し、俺の体は彼女の舌によって主導権を奪われた。
一定感覚で身体を跳ねさせる彼女。
意識せずともやって来る脳みそを掻き回すような感覚に涙が出てくる。
「はぁっ///・・・はぁっ///・・・はぁっ///!」
「大丈夫、大丈夫だよ・・・私がここにいるから。」
舌が離れたことで力を入れていた筋肉が全て緩み、肺にためていた空気が一気に出る。
が、しかしすぐに彼女の顔が近づいてきた。
少しでも快楽を感じにくくする為に、それを感じた俺はすぐ体を強張らせる。
それを彼女は察したのだろう。
ぎゅっと抱き付き、安心させるかのように囁いてきた。
溜まりに溜まった不安拭うほどの心奥底から溢れ出る安心感。
そして背筋をくすぐる様な快感。
彼女に弄ばれることを良しとしない心は一瞬で抵抗を止めてしまった。
「・・・そう、全身を預けて。」
「・・・ッ///・・・ん///・・・んぁ///」
声を我慢するのは男であるプライドのせい。
俺をおもちゃにしたい彼女はそれが残っている事を良しとしなかいだろう。
彼女の加虐心を引き立てたせいで奥だけでなく全体を舐め取られることとなった。
何分にも及ぶ快楽の襲撃。
「・・・///。」
終わった頃には、体が締めた魚のように『ビクンビクンっ!』と震わせて、目の焦点が定まらずもう何が何だかわからない状態に。
しかしそれでも彼女が目の前にいることだけが手に感じる温もりと敏感になった気配でわかる。
「・・・ふふっ、甘えん坊ね。」
縋るように彼女の胸の中へと抱き着いた。
ふわっと香るいつも以上の甘い匂い。
高反発のサラサラした抱き枕のような柔らかい感触。
全身で感じる布団を被った時みたいな心落ち着く温もり。
依存とはこういう事だと初めて理解した。
「・・・戻った?」
彼女の匂いを嗅いで安心を得ていると、頭を撫でられる。
彼女の言葉の真意が『話せるまで力戻った?』ということを理解していた俺はどう返そうかと悩む。
すると同時にさっきまで我慢し続けた羞恥心が滝の如く一気に流れ込んできた。
一瞬思いのまま文句を言おうと口を開くが、これは自分の軽率な発言のせいなのを思い出す。
その上、嫌かと聞かれたらそうでもない。
結局、何言えばいいかわからず、ただ自分の思いを伝えてしまった。
「・・・好き。」
「・・・・ーー~~~ッ///!!??!!」
思いを伝えたのに何も帰ってこない。
ふと、彼女の顔を見ると顔に手を当て空を仰ぐ姿が目に入る。
どうしたのだろうと疑問に思っていると、またベットに押し倒された。
「・・・。」
「・・・。」
お互い無言で向き合う中、恐らく冷静だったのは俺の方。
二度目ともなれは恥ずかしさは消えずとも多少なりとも心構えはできる。
俺は出来る限り微笑んで尋ねた。
「気・・・楽になった?」
「・・・もっといじめてもいいんだよね?」
「うん、いいよ///・・・おいで///。」
俺は彼女の首に腕を回し、優しく自分の胸元へと引き寄せる。
すると許可を出したせいなのか彼女の攻めに容赦がなくなった。
ガブっ
「イぃっ///・・・うぁ///・・・ふぅっ///。」
肩につけられた血が滲むほど噛み跡。
鎖骨、首に付けられる無数のキス跡。
おそらく無意識だろう、背中には抱きしめるためか、爪で沢山の跡が付けられた。
最初の頃は結構痛がってたのを覚えている。
今も痛いのには変わりないのだが、人というのは恐ろしいもので快楽と同時に与えられてきた痛みは慣れると快楽へと塗り変わるらしい。
精神的にも、跡を付ける行為は独占される安心感に溺れ、今では彼女から受ける痛みはなくてはならないものとなっていた。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・。」
彼女の荒々しい呼吸音が耳に入る。
暑くなったのか被っていた布団を足蹴りで退けた。
「・・・///。」
彼女の目はもう人のそれではない。
飢えた野獣そのもの。
白い肌に彩られる生き生きとした血のような赤。
それらを見ただけでこれから自分が何をされるか大体想像がつく。
俺は手を広げ、視線をそらすことで無抵抗の意を示した。
「・・・。」
それを見て舌なめずりをする彼女。
上の服に指をかけ、生糸の様な柔肌をさらけ出す。
「・・・朝まで付き合ってもらうからっ!」
このあとは皆様の想像どおり。
俺は狼に追いかけ回されるウサギの如く捕食された。
少しは男として強く見せようと思い自分なりに頑張るが、これを彼女は挑戦と受け取る。
これがいけなかった。
数カ月ぶりに幼児退行を経験した。
〜〜〜6時間後〜〜〜
「・・・ふぅ〜。」
「・・・グスっ、ヒグゥ。」
彼女は手にワイングラス。
俺は顔を隠して涙をグスグスと。
そんな俺を見て彼女は一服している男のように俺の頭を撫でてきた。
「・・・お疲れ。」
「なんでそんな勝ち誇った様な反応なのっ!?
少しは男である俺を立ててくれてもいいんじゃないかなっ!?」
文句を言っても手を跳ね除けられない。それが俺の弱さなのだろう。
甘んじて受け入れているが、少しは彼氏のプライドを保ってほしい。
「・・・可愛いものを愛でるのは人間の嵯峨ってものでしょ?
私はこれを・・・やめられない。」
「・・・ッ///!?・・・それなら仕方がない・・・ってならないよっ!?」
が、その願いも無意味のよう。
顎くいをされて不覚にもときめいてしまった。
「騒がしい・・・塞ぐか、唇。」
「わぁァァ!?分かった!分かりました!もう生意気言いません!もう言わないからんグっ///!?」
それに加え、甘さを兼ね備えたキス。
勝てないことなど分かりきっていた。
数十秒後・・・
「・・・ぷはっ、美味し。」
「///。」ぷしゅぅ~~~~ーーー
恥ずかしさのあまり俺の思考はショートした。
しかし屈辱は消えない。
俺は自分の弱さを隠すために布団の中に潜る。
すると彼女も抱き締めるように潜り込んできた。
「・・・今日はありがとね。」
「へっ?」
久しぶりの直球なお礼。
驚いて彼女を見ようとすると、胸に抱き寄せられ表情を見せてはくれなかった。
照れてるんだと分かりクスリと笑う。
「いいよ、元気が出たなら俺は嬉しい。」
「・・・///。」
「あ、照れてるね?」
「う・る・さ・い・よ///!」
「いででででで〜〜〜っ!」
こめかみにグリグリと指を当てられるが、それほど痛くない。
けど面白いので痛い痛いと笑う。
「・・・。」
「・・・。」
でも次にくる撫での感触はいつよりも優しい。
これは本当に感謝してくれているのだとわかった。
これには流石の俺もくすぐったい心境に。
それに嬉しさも相まって少し欲が出た。
彼女をツンツンと突く。
「・・・ねぇ、顔みたい。」
「・・・駄目。」
照れている彼女はさぞかし可愛いだろう。
その一心で見たくなってしまった。
けどそれは彼女も気恥ずかしいらしく許してくれない。
「・・・お願い。」
「・・・駄目。」
俺が自分の欲を表に出すのは結構珍しい。
だから断られても引き下がらない。
暴君な彼女も俺が意外と頑固というのを知っており、困った様に唸る。
「・・・。」
数秒の沈黙後
「・・・ちょっとだけだから。」
首に回された腕の力が弱くなる。
俺は暗い部屋の中、俺はそ〜っと彼女を見た。
「・・・///。」
少し赤らんだ頬、合わない視線。悔しそうに力んだ唇。
その表情はまるで生娘のよう。
「・・・可愛い。」
「・・・〜〜〜ーーっ///!?」
感謝の意を込め、俺は最大の笑みを送る。
すると、上に覆い被さってきた。
「・・・またいじめられたいの?」
「・・・あー、ムキになってるぅ〜♪かっわいいんだぁ〜♪」
「・・・。」ムカッ
ムキになった彼女に挑発する。
照れた顔はすぐにこめかみに怒りマークを浮かべた。
「・・・泣いて誤っても許さないから。」
「へっ、やって見ろ、今日こそ負けないぜ。」
そしてゆっくりと顔を近づけてくる。
一定の距離まで近づくと彼女は止まった。
「「・・・。」」
彼女が微笑むのが見える。
それに加え、視界に映るものすべてを愛でるような視線。
これだけで自分は愛されているのだと理解した。
俺も礼儀として自分の持てる全てで愛を伝える。
「「・・・愛してる。」」
俺達は互いを受け入れるようにキスを交わした。
その後、俺だけがベッドの上で号泣することになったのは言うまでもない。