パピポの呪い
どんな世界であろうと、犯罪と呼ばれる悪さはあるものだ。
その悪さにやられ、命に等しき生活を失うこととなった、パピポという名を持つ魔法使いがいた。
彼は魔法の研究の成果と論文を、元協力者に奪われてしまい、挙句に国から追われる身となった。
努力と成果を奪われた彼は恨み募った魔法を編み出し、ペンダントの中に魔法を封じ込めて、命を終える事とした。二度とこんな悪い事が起きないように運命を操った。
◇ ◇
とあるタクシー会社には、誰にでも分かるくらい無造作に金庫が事務所に置かれている。
ダイヤルこそは、社長しか知らないものの。そんなものバールなどでぶち壊せば関係ないような気がする。犯罪に対して、あまりに無防備過ぎる光景に従業員は
「アッシ社長、金庫をこんな風に置いていていいんですか?」
「大丈夫ですよ、美癒ぴー。”パピポの呪い”で、窃盗からは護られているんでね」
「パピポの呪い?」
「金庫の横につけたフックに掛けている、ペンダントの事です。便利な魔道具なんですよ」
アッシ社長の趣味は、魔道具と呼ばれる、物体に奇妙な能力を宿したアイテムの収集であった。ほとんどが珍妙だったり、役に立たない物だったりする中で”パピポの呪い”は有用な代物だった。
とはいえ、こいつが特殊なアイテム。
「護身用にどうですか?」
「なんか嫌です」
「賢明でしょうね。パピポの運命を軽く話してあげますよ」
◇ ◇
魔法に限らず、分野の成長は喜ばしいものだ。しかし、それを生活源というものにする学者、博士のような立場からすれば、苦難の一言。成長、進歩を実証するのを世に知らしめるのがまた大変。
パピポの研究を奪い、個人の地位と分野の成長を高めた人物は勢いのまま、国に認められる魔法使いとなったわけだが。人から奪ったもので得られたこと。多少、わずかな時を優越に浸れるものの、時間と立場はいつでも揺らされる。
「研究せねばな、ぐひひひ」
そう言いながらも、頭の中では夜な夜な女と戯れる事を好み。研究についても、手に入れた部下達がやってくれればいいと思っている。
自分1人では非力なものであるが、自分がいなくても研究がされているという事実とも言える。
パピポがそんな人物に気を許した事も罪とも言えるが、騙されてない内は楽しかったのも事実なんだろう。ひとえにパピポの人の好さがあった。この時までは。
パピポという魔法使いの研究分野は、心境を変化させるものばかりだという。
薬や拷問、トラウマを見せて、心を変化させる幻術のような類もあれば。
運命という曖昧なものを実体験させて、心を変化させる手段もあった。
パピポの呪いは後者である。
この呪いに掛かったものの多くは、自らが罪をした時にだけ掛かり、それに気付くのが手遅れなものばかりだった。
「博士、博士!次回の研究はなんですか?」
「どのような魔法を生み出される予定ですか?」
何も悪くないと感じさせるよう、人々は讃えては動向を気にする。
甘い蜜のように、強い欲求が湧いてくるという。
パピポの呪いに掛かった者は、特に何もアイデアなどなく欲求を消化するように生活していった。効力がじわりじわりと来るため、まったく分からない。
「そうだね。やはり、ホレ薬の研究でもしようかねぇ~(ま、部下の作ったもん、出せばいいだろ)」
名を得た者達の一声というのは、大きいものだ。嘘も広まれば、真実と言えそうだ。
新薬的なものはなく、従来の魔法にちょっとアレンジをすればもう、大発見にでもなりそうな事。博士としての金も名誉も得られたまま、続きそうだった。
だが、二度も三度も、罪を重ねることに抵抗がなくなれば、呪いは満たされる。
「博士!次はどのような魔法をパクるのですか!?」
「みんな、期待してますよ!あなたのパクりに!」
失礼極まりない言葉が飛び交うも事実が起きれば、転がるように……。
「あなたのオリジナルには誰も興味がないですよ!」
「早く盗作してください!」
自分を認められるのは、犯罪だけ。
やがては、
「あなたに物なんか売買しません!しっかり、万引きや強盗をしてください!」
「誰も住んでいない空き家に住んでくれ!あんたは奪って生きてもらわなきゃいかん!」
「あんたに売るレバーはない!自分で狩ってこい!」
人の生活に対しても、常日頃。犯罪を要求されていく運命に落ちる。
罪をさらに重ねて呪いを膨らませ、罪の重さで死んでいくという。
それがパピポの呪い。
◇ ◇
「というお話です。悪い事をしちゃいけないんですよ、美癒ぴー」
抑止力になるという面より、天罰的な面が強い。
「犯罪を防ぐ物じゃないですね、アッシ社長」
「ですね。それに常習者となると、特にこの呪いが必要かどうかというと、あいまいです」
「さすが魔道具ですね。ロクなものじゃないです」
やるわけでもないが。こんな呪いがかけられたら、異様な生活になって死にたくなりそうだ。オチも納得がいく。そう思うと、
「刑務所って良いですね。人の更生を考えているんですから」
「ええ。パピポの呪いは、終わりなく苦しませるために作られているんです。ですから、変われる時に変わっておくべきなんですよ」
でも、罪に巻き込まれた者達の多くは、そんな更生を望んでいるなんて。そういないだろう。
だったら最初からするなよって話だし。
”パピポの呪い”
ペンダント状に固められた魔法石。
この物体の近くで罪を犯した者は、その罪を続けて生きていく事を要求される。




