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039 聖堂巨人

 右肩を突き出しての全力タックル。


 瓦礫の巨人の片足に狙いを定めて俺は突っ込んだ。繰り出した俺自身がGで目がくらむほどの初速が出た。訓練の成果だ。


 直撃し、赤黒いネクロボーンのツタが絡まったすね(・・)はなかば砕け散り、もとの瓦礫に戻った。


 激突の衝撃はネイキッドOMSを衝撃吸収モードにして和らげる。何もせずぶつかっていれば脳震盪を起こしてこちらが失神していたかもしれない。


 聖堂の瓦礫から起き上がった巨人はよろけ、その場でたたらを踏んだ。地響きが起こる。


 まともに動き出したら何をされるかわかったもんじゃない。俺は速攻でかたをつけるべきだと判断した。巨人を攻めるならまずは脚だ。徹底的に叩く。


 ネイキッドOMSの出力を上げ、さきほどダメージを与えた左のすねへ。三段跳びの要領で距離を詰め、赤黒いツタの部分に浮かび上がった眼球のひとつに拳を叩き込んだ。


 グヂュ、と寒気のするような手応えとともに、眼球は潰れた。ネクロボーンの体液が飛び散って、わずかに煙を上げて蒸発していく。おそらく有毒で、それを浴びた人間を汚染してしまう体液なのだろう。だが俺に〈業魔〉からの汚染は効かない。かまわず瓦礫製の脚に這い上がり、別の眼球を叩き潰した。


 赤黒いツタはねじれ、収縮をくり返し、末端部から萎れていく。


 こんな弱点むき出しの敵、巨人だからといって恐れる必要はない──俺は恐怖よりもむしろ高揚が血中を駆け巡るのを感じていた。


 だが。


 いきなり何者かに後ろから引っ張られ、俺は巨人の脚から引き剥がされ、路上に投げ出された。


「いてッ」


 後ろに一回転して跳ね起きて、中腰の姿勢になる。


 そこに何かが覆いかぶさってきた。


 半端な体勢ではあったが、流体腱筋を操作して無理やり垂直に飛び上がり、天を衝く飛び蹴りで迎撃した。


 そいつはバラバラになった。瓦礫。瓦礫の集合体が人型なって飛びかかってきたのだ。大きさも人間サイズ。聖堂の巨人のミニチュア版だ。


「こいつら……」


 周りを見れば、集まってきた瓦礫人形の群れに包囲されていた。瓦礫の山から”生えて”くるのだ。


 ゴリゴリ、ガリガリとひどい不協和音をかき鳴らして聖堂巨人もまた動く。のそりと拳を振り上げて、何のためらいもなく俺へと振り下ろしてきた。


 いくらなんでも18メートルの巨人の一撃と正面からやりあうわけにはいかない。


 俺はネイキッドOMSの運動性を引き出してかわしてから──拳が地面にめり込んで凄まじい土煙と震動が起こるが、それも無視して──全身のバネを溜め込み、再び全身を弾丸にして聖堂巨人の肘の部分に蹴りを叩き込んだ。装着型重機の別名どおり、瓦礫を砕き押しのける。


『総員、勇者どのを援護しろ!』


 グレナズムの念波が、OMS小隊を動かした。




     *




 OMS小隊が火器や魔導火器、白兵武器で聖堂巨人を牽制し、群がる瓦礫人形を食い止める。


『目玉を狙い撃つのです!』


 一方、空を飛ぶ寸詰まりのタコのようなドローンを操作するリトル・ジョーも本領を発揮していた。


 聖堂巨人の斜め後ろに付かず離れず飛び回り、赤黒く絡まるツタに浮かぶ眼球状の器官をドローンに仕込まれた魔導機銃で狙撃をしかけ、潰していった。


 結節のような目玉が潰れるたび、赤黒いツタがよじれ、ときには弾け飛び、糸の切れた人形のように巨人の巨体がガタガタと踊った。そのたびに瓦礫の一部が雨あられと降ってきて、地面に落ちてめり込んだ。


「どぅりゃあッ!」


 俺はOMS小隊のバックアップを得て、ぞろぞろと現れる瓦礫人形を殴り、蹴り、叩きのめした。建材の破片を〈業魔〉の力で人型につなぎ合わせた人形どもは、パワーを引き上げたネイキッドOMSの打撃でたやすく吹き飛ばすことができた。


 通常のOMSでは、10体も壊せば関節が焼けて独特の匂いが上がってくるところだったと思う。でも、流体腱筋の塊であるネイキッドOMSは俺の要求するスペックを発揮し続けてもヘタってくる気配がない。俺は神経を張り詰めながらも、圧倒的な戦闘力を繰り出すことの本能的な喜びに軽く酔った。


 とはいえ、人形は壊すよりも早く瓦礫の山から次々立ち上がってきてキリがなかった。


 ドローンに翻弄されていた聖堂巨人も、いつまでもやられっぱなしではなかった。タコドローンが弾切れで後退すると、2割がた”量”の減った体で猛然と暴れだした。


 でたらめに手足を振るうだけでそれはバカでかいハンマーになる。


 OMS小隊の隊員がひとり、その威力になぎ倒された。吹っ飛ぶこと10メートル以上、上半身の装甲がひしゃげて、痙攣したあと動かなくなってしまった。


 さらに厄介なことに、聖堂巨人の体のあちこちに浮かぶ眼球状の器官から〈業魔〉の波動が照射され、隊員が苦しみ始めた。携帯用結界発生装置を増幅器を使って強化してもなお防ぎきれない強さであるらしかった。波動の影響を受けない俺にはそれがどんな感覚か想像するのは難しい。だが放っておけば隊員たちは人間ではいられなくなる。いったいどうすれば──。


 と、そこに金色のシャワーが降り注いだ。


 聖堂巨人の頭上で何かが起こったらしい。


「ハル様!」


 念波通信ではなく、生の声が聞こえた。ジナイーダがいつの間にかゾンネンブルーメから降下して駆けつけていた。


「魔法で一時的に広域結界をつくりました。いまのうちにあの巨人を!」


 少し息を荒くしつつも、ジナイーダは俺に微笑みかけてくれた。


 これに報いないのなら俺がこの世界にいる意味はない。


「やってみる!」


 俺はネイキッドOMSのパワーを引き上げ、手近にいた瓦礫人形を2体、裏拳と回し蹴りで瓦解させると、聖堂巨人に飛びかかった。


 怖いくらい勇気が湧いてくる。







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