佐々木、魔法少女やるっしょ
わたしからしたら魔法少女とかどうでもいいんだけど、神もストローもない、言いたいことも言えないこんな世の中じゃ
、魔法少女くらいしか愛しのアサヒ救えねえってんだから魔法少女やるっしょポイズン ←ポイズンを読点みたいな感じで使う系女子佐々木
「サヨはやっぱり柚木くんと付き合ってるの?」
佐々木小夜のよく言われる質問堂々第一位に輝くのがこれですよ。
ありがたいね。ありがたいお便りありがとう。
ただね、実際べつにそんなことないよ。いや、好きよ? 好きではあるんだけど、恋愛感情的な好きというより、もはやブラザーというかマイメンというかホーミーというかバディというか、とにかく一緒にいる期間が生誕以来のわたしの人生とほぼ丸かぶりの相手に対して、いまさら恋愛がどうこうとかいう垣根はとっくの遠に(七歳くらいのときに)超えちゃってるわけよ。
たしかにアサヒは背も高いし、清潔だし、中性的だし、優しいし、オシャレだし、スポーツも勉強もできるし、顔だってかっこいいんじゃないかな、とか思う。わたしが柚木アサヒという人間と高校ではじめて出会ったとして、今みたいな関係になってたとしたら、ゾッコンマジラブパニックうけあいだった。でも現実そうじゃないんす。そりゃ付き合ってるの? って聞かれるのは嫌じゃないよ。あんな彼氏いたら割と「うちのピッピマジ最高」とか浮かれ上がってるかもしれん。かもしれんが、そうではない。そういう間柄じゃないの。でも、そういう間柄じゃないってことが、なんとなくわたし的には付き合ってるよりも濃密な感じがしてイかったりするのね。
だから堂々第一位の付き合ってるの? に対する返答にはテンプレがあるわけ。「そんなチャチな関係じゃないっす」。
まあ要はさ、アサヒのコト独占したいんだもんとか、他の女の子とイチャラブしちゃイヤぴょんとかじゃなく、アサヒは常にわたしのそばにいなきゃ困る訳で、アサヒがいないわたしとか考えられんし、アサヒにとってもそういう存在でありたいし、親友とかズッ友とか薄っぺらい言葉で片付けてほしくないくらい大切な存在な訳なんだけど……そんなアサヒくんはいま、目の前で瀕死の危機に瀕してます。いや、死の危機に瀕してます。馬から落馬的なことになりましたすんません。やべえっす。パニクってます。こんなことになるとは思いもよらずイッツソーベリーベリーショッキングっすわ。
だから、ワラーに溺れて藁ーをもすがる思いなわたし的には、神にすがることもやぶさかじゃないんだけど、神は救いの手もストローも差し伸べてくれないので、わたしは魔法少女になります。決めました。
「やったるわ、ファッ〇ン使い魔。わたしを魔法少女にしろ」
「いや、ファッキ〇とか言っちゃう子を魔法少女にするのはちょっと……」
「ウダウダ言うなよ。いままで散々ストーキングしてきたクセに。最愛の人のピンチなんだ、言葉尻は目をつぶれ。そしてわたしを魔法少女にしろ、早くしろ、素早く」
「わ、わかったわよ。えっとそれじゃ……汝、健やかなる時も病める時も常として世界平和を信条にかかげ」
「え、それ、巻けん?」
「これは言わないといけないやつなの! じゃあできる限り早口で言うから、はいって答えて」
「汝、健やかなる時も」
「はい」
「早いよ! 私が全部言ってから『はい』ね? いいの、ふざけてる間に彼氏死ぬよ?」
「そんなチャチな関係じゃないっす」
「めんどくせえ女だな! ーー『汝、健やかなる時も病める時も常として世界平和を信条にかかげ、ありとあらゆる巨悪を駆逐せしめんがため、決して力を悪用しない魔法少女となることを誓いますか』」
「はい」
するとわたしの目の前に光の玉が現れて、玉の中にはポップな装飾のステッキが浮いていた。コットンキャンディみたいな女の子大好きカラーのヤツだ。わたしはパチパチしないか不安に思いながら、秒でそのステッキを掴みあげる。そしたらなんか頭の中に叫んだら良さげな言葉が浮かんでくる。だからわたしはステッキを天高く掲げて高らかに叫ぶのだ。
「マジカルラブリーメタモアフォーゼ!」
「……いや、なに言ってんの」
目の前の使い魔的な女が薄目でわたしを変質者扱いする。
「こういうのって頭にぱっと浮かんだのが、ソレじゃないの?」
「そんな脳に直接みたいのないわよ。ロボトミー手術かなにか? 時計じかけのオレンジじゃあるまいし」
「いや、あれはルドヴィコ療法ですけど?」
「めんどくせえ女だな! こう言いなさい。『我、月夜に咲き誇る菊花とならん』」
「ださ」
「マジカルラブリーメタモアフォーゼの人に言われたくないんですけど!」
「我、月夜に咲き誇る菊花とならん」
使い魔の女の「こら、するっと勝手にやるな」っていうツッコミが水中にいるようにボヤけて聞こえたかと思うと、わたしの身体の周りを白い光が包む。
なぜかわからないけど、わたしはその光のなかをグルングルンと回転してみたくなったので、両手を拡げて回ってみる。するとどこからか花びらの集団みたいのが飛んできて、わたしの腕や足や胴回りにまとわりついてくる。ちっちゃくて集団で飛んでる小バエみたいな生き物いるじゃん。アレに突っ込んじゃった時みたいな気持ち悪さがあったから鳥肌が立って寒気を覚えたんだけど、寒いと言えばいつの間にかわたし全裸にされてました。街中で光放ちながら全裸で両手拡げて小バエ(花びら)を従えるわたし……エグい。総合評価、エグい。言って他人に見せられるような四肢してないっす。胸余裕のAっす。
けど、そんなこと関係なくわたしが回るスピードは一向に遅くならない。なんかもうわたしの意志に反して身体が回る。止まらない。怖い。気づいたら小バエ(花びら)は身体にひっつきまくって洋服の体を成してる。
ていうか頭重っ、って思ったんだけど髪の毛にも小バエ(花びら)がまとわりついて、なんか知らんけど髪伸びてた。二週間前に美容院行ったのに。破竹の勢いで伸びた。これちゃんと終わったら縮むんだろうな? いや、魔法少女的にはいいよ。髪長いほうがかわいいし。でも財布のこと考えたら無理だわ。そんなしょっちゅう美容院行けないわ。かと言って髪切らないで変身のたびに髪伸びたらギネっちゃうっていうね。ギネスの動詞ね。世界一の髪長女としてギネる。
あと、髪伸びんなら胸もデカくしてもらっていいかな小バエさんよ。上から見た感じ割と魔法少女的に仕上がってるけどさ。絶対ビジュアル重視で髪伸ばしたくせに、胸はデカくしねえのな。こいつらマジ仕事しねえな。
とか思ってる間に光が消えて、魔法少女わたし爆誕。
おっきい花びらみたいなスカートにそっから伸びるレオタードに包まれる胴体(Aカップ)があって肩のラインで切り替えーので肩だけ丸っこい半袖みたいになってるーの。それはいいんだけど、明らかノーブラみたいな感覚あるんだわ。そうだよね、光の中で衣服ひん剥かれてたもんね。たぶんそうだわ。まあスカートの下は履いてるっぽい。よかった。こんな超絶ミニスカでノーパンだったら割と動き制限される、てか動けない。
「おい、使い魔」
「名前で呼びなさい。私の名前はアイシア」
「わかった。使い魔、ひとつ質問がある」
「……なによ」
「このコスチューム、洗濯可?」
「いや、それは花のエネルギーが結晶化したフローラルバリアという素材でできていて、決してコスチュームではなく」
「わたし、二日連続おなじパンツ履かない主義なんだけど」
「大丈夫。汚くないから。変身解いたらパラパラって消えてくから。毎回別のパンツ履いてると思いなさい」
「まあ、ならギリ」
「それより、名前を名乗りなさい」
「佐々木ですけど」
「いや、魔法少女としての名前よ。フローラル〇〇の形式で考えなさい」
「じゃあわたし小夜って名前だからフローラルムーンライトかな」
「ムーンライトはダメね。商標登録済み」
「なに、そういうのあんの」
「あるわよ。そっちのムーンライトも高校生だったから、キャラかぶってるし。貴方よりいい女だけどね、六倍」
「六倍は勝ち目ない……じゃあもう佐々木でいいわ。フローラル佐々木で」
「イカレてるわね」
「よく言われる」
「そろそろ彼氏ヤバいわよ」
使い魔の言葉でそう言えばと我に返ったわたしは目の前で倒れているアサヒを見る。
笑えるくらい血がドバドバ出てるもんで、痛そうで笑っちゃう。痛そうなの見たときとか、実際痛いときって笑っちゃわない? まあ共感得られたことないけど。
そんな吹き出しそうなわたしの顔をみた使い魔はまるでサイコパスを発見したように苦虫を咀嚼している。
「あなたの持つ唯一の魔法、それが治癒よ」
「え、唯一? 攻撃魔法とかないの? アイツどうすんの」
アイツとはわたしから見てアサヒの十メートルほど先にいるチェーンソーを持ったアイツである。アイツのせいでアサヒは血まみれで、風が吹けば桶屋が儲かるスタイルで、わたしが魔法少女になってしまった元凶を作ったのがアイツだ。
「大丈夫、ステは筋力極振りだから。普通に殴れば倒せるよ」
「まじかよ、このナリで脳筋系かよ」
「あなた、勉強得意?」
「得意そうに見えるんなら使い魔界のスキーマ疑う」
「でしょ。よかったじゃない。さ、唯一使える魔法を使いなさい脳筋」
こいつ煮るか焼くかしてやる、と思ったけどわたしには煮る技も焼く技もないらしいので、仕方ないから従ってやる。
使い魔のハウトゥーに従い右手に持ったコットンキャンディステッキを前につき出して、キュア、と叫ぶ。するとわたしのステッキの先から光が出てきて、アサヒを包む。ぽわん。わたしは過去に光に包まれて全裸になってぐるんぐるん回った経験があるから、アサヒが全裸になって回り出さないか心配だったけど、そんなことはなかった。それはもうご都合的にアサヒの身体の傷は治り、アサヒの着てた破けたカットソーすら元通りになる。あらまあステキなステッキだこと。
てか、破けた洋服治せるならわたし服屋になるわ。一生食っていける自信出てきた。でもいまは金銭的にじゃなく生命的な意味で生きていけるか微妙な状況なので、わたしの生命を脅かす気マンマンのチェーンソーのアイツをどうにかしなければならない。
「フローラル佐々木。アイツを倒しましょう」
「さっきから思ってたんだけど、命令されるとやる気出ないからやめてもらえます? いまやろうと思ってたとこなのに」
「徹頭徹尾ウザいわね」
とは言え若者の反抗心のために売り払えるほど安い命でもないので、わたしはアイツと戦うことにする。
よしいっちょやったるか、と息巻いて一歩踏み出す。運動神経にはすこし自信があるほうだったけど、それでも驚いたのは踏み出しただけで五メートルくらい前方にジャンプしたことだ。わたしの頭のなかではドリブルドリブルドリブルホップステップジャンプっていうテンポでレイアップシュートのノリだったんだけど、これならホップステップくらいでいけそう。ほら、やっぱり二歩目を飛んだ時点でアイツにピッタシぶつかる落下予想がついた。わたしはアイツに思いっきり二ーで蹴りを入れることにする。
で、わたしのニーハイがアイツの顔面にめり込んだんだけど、アイツの頭すぽーん。
ビビった。
アンパンマンみたいになった。
ただアンパンマンと違ってアイツの新しい顔はなくて血がブシャー、まるで元気無くなる。血が吹き出てわたしのフローラルなんたらを真っ赤に染める。あまりに痛そうでわたしは笑っちゃう。
「決めた。わたし大学受験、一芸入試にする」
「どこの世界に『怪人の頭を膝げりで吹っ飛ばせる特技』受け入れる大学があるのよ。普通に勉強しなさいフローラル佐々木」
そんなかんじでわたしの魔法少女としての初陣はおわったよ。
フローラル佐々木って女子プロレスラーみたいな名前だな。