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普通、男子が女子を昼休みに呼び出したりしたら、大変な騒ぎになるところだけど、影山くんに関しては絶対にそんな事にはならない。
彼には謎が多すぎて、そういう対象にはならない感じなのだ。
除霊してもらえるだの、呪われた奴がいるとか、あんな長い前髪を許されているのは、いろんな物が見えすぎてしまうため特例で許されているんだとか……それから、式神というものを操れるなんていう、かなり嘘くさい噂もある。
トントン!
軽くノックをして準備室へと消えたお姉ちゃん。
私はその後を追って、扉を通り抜けようとした。
だけど……。
ボワン!
音がしたわけじゃないんだけど、言葉で言い表すならボワン! という衝撃があって、あたしは弾き飛ばされ、しりもちをついてしまった。
大きくて、空気のパンパンに詰まったビニールのボールにでも体当りしたような感じだ。
「うそ……」
今度はそうっと手を伸ばしてみた。やっぱり、跳ね返されるような感覚が手のひらに伝わって、あたしは部屋の中に入ることができない。
だったら中の様子を見ることは出来ないだろうか?
そう思って、目に神経を集中させる。
とたんに、真っ白な霧の中に迷い込んでしまったような感覚に陥り「きゃ!」と思わず声を上げた。
これ、もしかして「結界」?
漫画とかでよくある、結界の中には幽霊や妖怪は入ることができないってやつ。
影山くんの力は本物なんだ。
さあぁっと、血の気が引くような気分だった。
不安がじわじわと広がっていったけど、あたしにできることといったら、呆然と「理科準備室」と書かれたプレートを見上げることだけだった。
あたしが途方に暮れていると「史香ってさあ……」と言う、女の子の声が、どこからか聞こえてきた。
きょろきょろと見回したけど、周囲に人影はない。
誰かがどこかで、お姉ちゃんのうわさ話をしてるみたい。
あたしはもう一度『理科準備室』というプレートを見上げると、その言葉を発した女の子の元へと瞬間移動していた。