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しばらく休んでいたお姉ちゃんは、授業についていくのが、なかなかたいへんなようだった。
先生に指されたときなんて、この世の終わりみたいに青い顔をして、立ち上がったまましばらく言葉を失っている。
「……わかりません」
休み明けなんだから、当てなくてもいいじゃない!
あたしは先生に憤慨する。
そうそう、中休みにはあたしのクラスメイトがお姉ちゃんのクラスへやってきた。
仲良しだった女の子が三人。もぞもぞしながらお互いに肘を突っつき合っている。
お姉ちゃんは「どうしたの?」と首を傾げた。
さらさらと、セミロングの黒髪が揺れた。
あたしは猫っ毛なんだけど、お姉ちゃんはストレートなんだ。天使の輪ができるような髪の毛。
きれいだなあ。
あたしがお姉ちゃんの髪の毛に見とれている間に、他の二人に押し出されるようにして、一人の女の子がお姉ちゃんの前に立つ。
「あの、これ、明日香に返してなかったから……」
紙袋に入った何か。多分本。
「……あ!」
お姉ちゃんの顔がぱあっと明るくなる。
「ありがとう。持ってきてくれたんだ」
「あ、漫画だから、学校であけちゃダメですよ!」
「わかった。内緒ね!」
お姉ちゃんはあたりを見回すような仕草をしてから、そっと唇に人差し指を当ててみせた。
やだあ、お姉さんったらぁ! なんて楽しそう。
帰っていくあたしの友達にお姉ちゃんは手を振りながら声をかけた。
「家にも、遊びに来てね! 読みたい漫画があったら、借りてっていいよ!」
三人の元気のいい返事が聞こえて、少しだけあたしの胸がチクリと痛む。
お姉ちゃんが笑顔になったのは、うれしいはずなのに。
それから、今日は体育の時間もあった。
卓球の授業だった。
いつもはなかなかペアの相手を見つけられないお姉ちゃんだけど、今日は美羽ちゃんが声をかけてくれた。
「ありがとう!」
お姉ちゃんはほんのりと笑顔を浮かべて言った。
運動神経のあまりいいお姉ちゃんではないけど、今日はかなりラリーが続いている。
そうしたら、美羽ちゃんと仲のいい別な子も近づいてきた。
「ねえねえ、わたしも鷲尾さんとやってみたい!」
って、拝むようにして手を合わせている。
「あの、史香でいいよ」
「本当? わあ、うれしい。わたし史香……と話してみたいって思ってたんだ」
「え? 本当?」
お姉ちゃんびっくりした顔してるよ。
「本当だよー。でもさ、史香ってばいつも本を読んでるし、ちょっと声をかけづらかったってゆーか……」
「……そうよね。確かにあたし、話しかけづらかったよね」
ってお姉ちゃん。自分のことですよ。
「やだあ、史香ってば!」
どっと笑いが起こる。
「ほらそこ! 話してないで動け!」
先生の檄が飛んで、女の子の塊は散っていった。