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「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
あたしは自分の叫び声を、どこか遠くで聞いた。
「影山くん! 捕まえて!」
お姉ちゃんの声がする。
パニックに陥って、部屋から瞬間移動しようとしたあたしの手を、誰かがガッチリと掴んでいた。
「やだ! 離して!」
「落ち着いて!」
影山くんの声がした。
どうして影山くんがここにいるの?
パニックの中で考えたけど、次の瞬間にはあたしの意識は、明日香が死んだ事故現場に飛んでいた。
傘をさして登校するあたしたち姉妹。
まっすぐあたし(鷲尾史香)に向かって迫ってくる乗用車。
ここまでは覚えている。
このまま時が進めば、あたしが死んで、明日香(妹)は助かるはずだった。
その時、明日香の手があたしの腕を掴んだ。
ぐいっと引っ張られる。
あたしも明日香の腕を掴み、そして引っ張った。
あたしと明日香の身体の位置が入れ替わる。
引っ張りあった力が、明日香を迫ってくる車の前に押し出し、あたしの身体は歩道側へ――!
――いや! だめ!
そう思った時は遅かった。
あたしの中に溢れ出した感情は恐怖だろうか、不安だろうか、後悔だろうか。よくわからない。ちょっと言葉にするのは恥ずかしいけど、絶望、って言葉に似た感情。
それがあたしを飲み込んで、あたしの記憶はここで途切れる。
◇
「思い出したの? お姉ちゃん」
明日香の声が聞こえた。
自分の体を抱き、座り込んで泣いているあたしを心配そうに見下ろす明日香がいた。
明日香も幽霊になってる。
抜け殻になったあたしの身体は、ラグの上にころんと仰向けに転がっていた。
「明日香……」
「お姉ちゃん……」
あたしが手を伸ばす。明日香も手を伸ばし、あたしたちは手を握り合うことができた!
「明日香ぁ!」
「お姉ちゃん……」
声を上げて泣くあたしの髪を、明日香の手が梳いてくれていた。