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夜。
しとしとしとしと。
雨音だけが聞こえる。
すうすうと眠るお姉ちゃんを、あたしは真上から見下ろしていた。
ピピピ・ピピピ・ピピピ・ピピピ!
突然鳴り出した電子音。。
寝ていたお姉ちゃんが目を覚ました。覆いかぶさるようにしていたあたしの身体を突き抜けて、ガバリと起き上がると、時計を確認し「よし!」とつぶやく。
夜中の二時だ。
「やるよ、影山くん! それから☓☓☓☓☓☓!」
あ、またあたしの聞き取れない言葉。
なんだろう。お姉ちゃんがその言葉を言う度に、世界がぐるぐると回るような気持ち悪さを覚えるのだ。きっとなにか大きな意味のある言葉なのだろうけど、どうしても聞き取ることができない。
お姉ちゃんは橙色の小さい電気だけをつけて、ろうそくとライターを持って向かい合わせになった二枚の姿見の真ん中に立った。
肩を上下させながら大きく深呼吸をすると、ろうそくに火をともす。
何が始まるの?
姿見の前にろうそくを置き、お姉ちゃんは大きく開いた目で、瞬きもしないで鏡の中をのぞいていた。
なにが見えるんだろう。お姉ちゃんの後ろから、あたしも鏡の中を覗き込んでみる。
うわ!
覗いた鏡の中に向かい合わせになった鏡が映って、その中にまたこっちの鏡が映って、そこにまた……。エンドレス。鏡の迷宮が出来上がっている。
あれ?
お姉ちゃんの後ろにモヤのように何かが映り込み始める。
しだいにはっきりと形を取り始めるそれは……。
「みつけた! ☓☓☓☓☓☓!」
鏡を覗き込んでいたお姉ちゃんが言った。
鏡の中にくっきりと映ったあたし。
その姿はふわふわの猫っ毛で、くりっとした二重の鷲尾明日香じゃなくて、黒髪のストレート、青白い頬をした鷲尾史香だった。
鏡の中に映るのは、現実の史香と、幽霊の史香。
同じ顔した史香が二人、鏡の中で見つめ合っていた。