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はあ。
家に帰り着いたあたしは、大きいため息をつく。
なんで幽霊のあたしのほうが、人間にビクビクしてるんだろう。
疲れた。ちょっと、ゆっくりしたい。
なんて思ってたのに、家に帰ってきたお姉ちゃんが、何やらゴソゴソやり始めたものだから、のんびりする暇もない。
あたしの部屋から姿見を運び込み、自分の部屋のものと向かい合うように設置している。あたしたちは年も近いし、部屋の中におそろいのものがたくさんある。この姿見も色違いのおそろい。あたしのは淡いピンクでお姉ちゃんのは木目調。
それにしても、これなに?
お姉ちゃんは姿見の真ん中に立ち、腰に手を当てて右を見たり左を見たりしたあと、ウンウンと二回うなずいた。
それから玄関の飾り戸棚の中から災害用の大きなキャンドルとライターを持ち出す。お次はリビングから紫陽花の鉢植えを持ってきた。
もう、何をしたいのかさっぱりわからない。
あたしは向かい合わせの姿見中間に立ってみた。
あ……風?
違うか。部屋の中の戸はしまっている。
けどここに立っていると、何かひんやりとしたものが、鏡と鏡の間に流れているのを感じる。
お姉ちゃんがなぜこんなことを急にはじめたのかはわからないけど、原因はきっと影山くんじゃないかと思う。
お姉ちゃんは、鏡の設置を終えると満足そうな笑顔になった。
光が飛び跳ねるような、そんな笑顔だ。
あたしは胸がきゅうっとなる。
どうしてそんな笑顔をするの? 影山くんと何を話したの?
そのあとあたしはずっとソワソワしてたんだけど、お姉ちゃんはいつもどおり、ご飯を食べお風呂に入って寝てしまう。
なんだか拍子抜けしちゃった。
ただ、影山くんと話した後、お姉ちゃんの笑顔がガラリと変わった気がする。
お父さんとお母さんも、変化に気がついたみたい。
「学校に行ったら、元気が出たのね。良かったわ」
お母さんが目尻を拭いながら言った。
お姉ちゃんが元気になったなら、あたしはもう心残りはないはずだ。
なのに……あたしの心はぜんぜん晴れないのだった。