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あたしの幽霊としての能力は、どんどん強くなっているみたいで、お姉ちゃんと離れていても様子を感じ取ることができた。
教室に戻って影山くんと顔を合わせるのも怖いし、午後の授業の間は学校をあちこち散策することにした。
しとしと雨の中、屋上や中庭を散策するのもあんがい悪くない。
校舎の廊下はしんとしている。
ふらふらと漂っていたら、いつの間にやら理科準備室の前に来ていた。
あたしはそこで立ち止まり、入口に向かってそうっと一歩踏み出してみる。
またあの、ボワンという衝撃が来るのではないかと身構えたけど、拍子抜けするくらいあっさりと部屋の中に入ることができた。
つんのめるように扉をすり抜ける。
『ひゃ!』
思わず声を上げそうになって、あわてて口元を抑えた。
影山くん! なんで授業中なのにこんなところにいるのよ!
机に突っ伏したまま寝てるみたい。
――ちょっと、どういうわけ?
あたしが影山くんに会わないようにしてたっていうのに、なんでこんなとこで寝てんのよ?
ふと気がつくと、影山くんはメガネを外している上に前髪も横に流れているて、目元があらわになっている。
――うわ! レア!
へえ、けっこうまつげが長いんだ。
気がつくと興味津々のあたしは、影山くんの顔をかぶりつきで眺めていた。
すうっと目の前のまぶたが持ち上がる。
ばち!
目があって、思わずあたしは固まってしまう。
影山くんも、机に突っ伏した姿勢のまま、瞬きもしない。
たっぷり五秒は至近距離で見つめ合ってたんじゃないかと思う。
影山くんはおもむろに体を起こし、メガネを掛けると、ブリッジをくいっと押し上げながら「いい加減にしないと戻れなくなるぞ」と言った。
『えと……影山くん……あたしが見えるの?』
「朝からずっと見えてるけど」
やっぱり! あたしは立ち上がると、一歩後ろに下がった。
『戻れなくなるって、なに?』
「だから、自分の体に戻れなくなる」
『何言ってるの? あたしの身体はもう、燃えちゃったでしょ?』
あたしの方を向いた影山くんの口がぽかんと開いていた。
「おまえ、まさか……」
とっさにあたしは瞬間移動していた。聞いちゃダメだ! そんな気がしたからだ。
その時またもう一人の自分の声が頭の中に響いてきたのだ。
『逃げるの? 逃げてどこに行くの? 自分自身からは逃げられないのよ!』
やめて!
あたしは両手で耳をふさぎ、雨の降る校庭でしゃがみこんだ。