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 雨が降っていた。

 だけど雲の上からは、陽の光がほんわりと透けて見えている。

 大きな花輪がたくさん並んでいた。

 あたしは優しい雨に打たれながら、斎場へと吸い込まれていく人たちを、ただぼんやりと眺めていた。

 傘をさしていないのに、あたしの肩が濡れることはない。

 頭をかしげると、髪の毛がさらさらと音をたてた。


 斎場の入り口には『故・鷲尾明日香(わしおあすか) 葬儀告別式』と、書かれた看板が立っていた。


 たくさんの人であふれる斎場。

 あたしは、ゆっくりとその中へ入っていく。

 あたしを見ている人はいない。

 受付の人たちですら、なんの荷物も持たずにふらふらと斎場の奥へと入っていくあたしを、見咎めたりはしなかった。

 一つの部屋に入り切らないほどの人、人、人。

 チェックのプリーツスカート姿の中学生が、涙を流しながらありこちに固まっている。同じチェック柄のズボンとネクタイを締めた男子生徒の姿もある。

 あたしは奥へ奥へと歩いていく。

 祭壇のすぐ前の席にはあたしのお父さんとお母さん、それに姉の史香が並んで座っていた。

 ハンカチを口に当て、嗚咽をこらえるお母さん。お母さんの肩を抱くお父さん。そのお父さんの鼻の頭も眼鏡の奥の目も、真っ赤になっている。

 二人の隣りに座っているのはお姉ちゃんの史香だ。

 あたしは中学一年で、お姉ちゃんは中学二年生。

 お姉ちゃんは不安そうな表情で、時々周囲を見回している。


 そして祭壇には、あふれんばかりの花に囲まれて、笑顔の女の子の写真があった。


 あれはお気に入りのピアノの発表会のときの写真だ。

 くすっと、あたしは笑った。

 ふわふわの生地。白に赤い花模様のドレスはとても可愛い。でも、ピアノの腕前はとてもとてもドレスに釣り合うものじゃなかった。

 ね? 明日香。

 あたしは、写真の中の自分自身に声をかける。


 そう、これはあたしのお葬式。

 あたしが死んで、一番最初の記憶は、自分のお葬式だった。


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