空中遊泳
「!! …………!」
雫の声帯は硬直していた。
町並みの明かりを背にしながら草木の生い茂る山へと飛ぶ烏木の身体は本物の鳥のように翼を振り、風を裂いて飛ぶ。背中に掴まる雫の身体には容赦なく風圧が襲いかかる。
「結構疲れるなこれ、思ったよりトレーニングになる……!」
「…………! ……!!」
正面からモロに風を浴び、いつ振り落とされるか分からない程ぎりぎりの雫はそれを訴えかけようと回した腕で烏木の首を締めた。
「っ、げっほ! なん、だよ!」
唐突に気道を締められた烏木は上体を起こしながらその場で速度を緩め、背中の雫に言葉を投げつける。
「し、死にます……私、が……」
今の今まで全身を硬直させてしがみついていた雫は掠れた声で訴えかけた。
「んあ、そんなにか?」
「そんなにです! ジェットエンジン積んだメリーゴーランドに掴まって直線を走り抜ける位の地獄です!!」
雫のぼさぼさになった髪はしがみついたままで直す事も出来ない。
「あはは、雫はしがみつくのは得意だろうし大丈夫かなって思っててさ。あたしも思ったより疲れたし、あそこの自然公園で休憩するか。……あっほら腕に力入れんな! ゆっくり飛ぶから!」
そう言って烏木は山の中に作られた自然公園に向かってゆっくりと翼を振るった。