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98 答えて

「なに惑わされてやがる」


 アズさんが立石さんの頭をはたいた。


「いてっ」

「お前の武器が拗ねるぞ」


 そしてアズさんは自分の胸を指差した。


「しかもお前のものじゃないとはいえ見た目も性能もいい武器がここにあるっつーのに、あれが一番みたいな反応しやがって」

「キミ……」


 立石さん、アズさんがさらっと自信満々な発言をしたことに何か言いたそう……。

 アズさんは立石さんより前に出ると、銀髪家上くんに対しても叱るように喋った。


「出来のいい武器に惹かれるのは普通のことだ。異常で悪いことのように言うんじゃない」

「これは普通の範囲から外れています」


 予想していた言葉なのかアズさんは銀髪家上くんの反論をあっさり無視した。


「そもそもお前はどうなんだ。それの持ち主でいたいがために大勢に迷惑かけてるんじゃないのか」

「それはありません。俺はこれにそれほど惹かれません。そういう血筋です」


 血筋? 魔力的に剣の謎パワーの影響を受けにくいってこと?

 銀髪家上くんは赤髪駒岡さんを指した。


「この人のとか、あなたの武器の方がかっこいいと思うくらいです」

「ほう、そうか」


 あ、アズさんちょっと嬉しそう。褒められたら素直に喜ぶのがアズさんだけれど、人のふりをすることに気を使っているこんな場面でも喜びが外に現れるなんて。私の影響を受けて家上くんに褒められることが特別なことになっているのかもしれない。


「だがそれを大事に思っているどころか、自分が持っていなければって思ってるだろ」

「それは認めます。でもこう思っているのは、これが何か知っていて、自分がこれの管理に向いていると知っていて、管理が役目だからです」


 あの剣を管理するのが家上くんの役目かあ。血筋という発言と合わせて考えるに、あの剣は昔からあるもので、家上くんの家に伝わるもの?


「その剣は先祖から継いできたか」

「はい」

「どうして先祖はそれを手に入れた?」

「さあ、どうしてでしょうね」


 本当は知ってるんだろうな。知らないなら「知らない」と言うだろうから。

 ……私がアズさんのことについてすっとぼけているのも立石さんたちに気付かれているかも……。


「こっちに持ってきたのはお前か?」

「違います」

「こっちで管理するのはお前の判断か?」

「そうです」


 家上くんの家の人が管理してきたというなら大人が関わっているはずだけれど、今は大人を含めても家上くんが一番上の立場にいる……? 魔力の問題かな? 他の人はあまり戦えなくて、戦えて管理できる家上くんが決定権を持ったとか。


「お前がどこの誰かは聞かないでおいてやる。だから、今からオレが聞くことには正直に答えろ。はぐらかすな」


 うわ、アズさんがちょっと怖い。変なこと言う人は即刻斬られそう。私があんな風に言われたら体を縮めちゃうだろうけれど、銀髪家上くんはしっかり背筋を伸ばして立ってアズさんを見つめ返している。


「どうしても教えたくないなら、オレたちが納得できるだけの理由を言え。質問は二つだ。一つ目、その剣は何ができるのか。二つ目、どうして剣をこっちに置いておくのか」

「何ができるかは言いません」


 じゃあ、二つ目の質問の答えはくれるのかな。


「これは、剣でなくても、大事にされるように作られていなくても、向こうの世界から取りにくる人はきっといます」


 剣でなくても……敵を切ったり刺したりする以外の何かができるということなんだろう。たぶん、戦力が欲しい人にはすごく魅力的なことが。


「さっきも言いましたが、これのことを詳しく知れば過激な人になる可能性が大いにあります。それに、逆に向こうの人に、それも大勢の人に迷惑をかけかねません。なにせそうしてしまう程の特別な力がこもっているので」

「それ、お前の仲間たちはどうなんだ」

「大丈夫です。といっても俺ほどではないようなので、教えていないことがありますし、知らないことを気にしないようにしてくれてます」


 戦いの原因になっている物なのに一緒に戦う仲間にも秘密にしていないと危ないなんて、面倒な剣だなあ。大事にされるように作る必要あった?……あったのか。すっごい武器であるアズさんですら行方不明の伝説扱いになっちゃうし、アズさんがどこにあるかアズさん以外誰も知らない期間もあるし。


「言いたくない理由はわかった。こいつがなんか変になったってことはお前の言うとおりなんだろうし、よりにもよって長が引っかかった組織なんぞ信用しないどころか警戒強める対象だ。一つ目の質問についてはここまでにする。次」

「これが争いを引き起こすことはわかりますよね」

「ああ。争奪戦と、その勝者による何かが起こることが考えられるな」

「だから……魔力がなければただの剣なので、こっちにあった方がまし、です」

「その程度のことは最初に言え」


 ほんとだよ!

 藤川さんもアズさんと意見が同じらしく、うんうんと首を縦に振った。


「こういうものだと伝えることすら危険なんです。あなたは大してこれに興味ないようなのでわからないでしょうが、その人は」


 銀髪家上くんのいう「その人」である立石さんはというと、振り返ったアズさんの目をまともに見れない様子で、


「……あー、うん、正直戦力欲しい。あ、怒らないで怒らないで。キミがいてくれるだけで心強いと思ってるから! ありがたくて神様に手を合わせるくらいには! 未成年とわざわざ戦ってまで戦力の増強とかほんと望まないから!」


 ……立石さんも結構大きいのにあんまりそう感じないのは、こういうところがあるからだよね……。

 基本的にゆるい言い方をして中高生でも近付きやすい感じで、より背が高い上に強気な態度のアズさんと一緒にいるとそれが強調されて、なんか若く小さく見える。

 アズさんはわざとらしく大きな溜め息をついた。


「話を聞くのはここまでにしておけ。お前がこれ以上変なことになったら困るぞ」

「うん、もういいよ」


 立石さんはアズさんの助言に頷くと、通信機を使って組織の人たちに一斉に連絡した。


『目的を果たしました。今日はもう侵入者がいなくなり次第解散です』


 他に指示を出すこともなく通信を切った。


「っていうわけで、じゃあね」


 そして銀髪家上くんたちに背を向けるとアズさんを連れて歩き出した。それを見た銀髪家上くんたちは何やら頷き合うと立石さんたちとは真逆の方向に走っていった。

 ……あぁ。ああ良かった! 話をしただけで終わった!

 私がほっとして息を吐いている横で、藤川さんが「ハラハラしたね」と言った。


「はい、本当に。それに戦いになったら明日のマラソン大会が地獄になりそうで憂鬱でした」

「えっ、マラソン大会? 学校の? それは大変だ、早く帰って備えないと」


 私と藤川さんは駐車場から歩道に出た。銀髪家上くんたちの姿は見えない。

 反対方向を見ると立石さんとアズさんが戻ってきていた。


「いやあ、アイレイリーズ君がいてくれて助かったよ」

「お前、あの様は何だ。そんなにいいもんか、あれ」

「……うん。何でかわからないけど、すごくいいものに思う。……あのさ、あれをかっこいいって思うのは変じゃないよね?」

「まあそうだな。奇抜な形してるわけでもなし、あれを一番だと思うやつもいるだろうよ」


 立石さんは藤川さんにも感想を聞いた。


「そうですねえ……うちの子とか喜んでポーズ決めたがりそうです」

「藤川さん自身はそうでもない?」

「特別テンションが上がったり憧れたりするものではないですね。私のとそう変わらないと思いますよ、あれ」


 藤川さんが両手の上に剣を出した。刃の長さも幅も銀髪家上くんの剣と同じようなものだ。


「……確かに僕はこういうのも好きではあるけれど……」


 難しい顔をして腕を組む立石さん。そんな彼に後ろから声がかかった。


「総長、安心してください。おれたちもあの剣見てたらちょっと変になったので」


 シーさんだ。細田さん(二刀流で緑色の髪の毛になる人、うさぎを捕獲)も一緒だ。


「僕だけじゃないとかそれはそれで不安になるんだけど」

「ですよねー……」

「後でみんなにも聞いてみないとなあ。……あ、もうここ消えるね」


 立石さんの言葉を聞いて、この場にいる人はみんなそれぞれ好きな方向を見た。


「そういえば総長、樋本さんにはあの剣の感想聞かないので?」


 髪の毛を黒に戻した藤川さんが質問した。


「答えは聞かなくても大体わかりますからね。僕みたいに変になっていればアイレイリーズ君が気付くはずですし、僕に対して『えー』って顔してますし。『アズさんの方がかっこいい』ってところでしょ、樋本さん」

「はい。正解です」

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