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80 邪魔を

 立石さんは私を少し下がらせると、雷でなく火の玉を機関銃のように次から次へと飛ばしてみせた。相手はよけるか防御するかで無傷だった。

 大ジャンプを繰り返してきた人物が、私たちがいるホテルの屋上にたどり着いた。

 男性だ。武器を持っていること以外は普通に街を歩ける格好。髪は薄い金色。目は黒い。年は二十二、三? 二十歳のデイテミエスさんよりは上で、二十五歳のシェーデさん、二十六歳のフェゼイレスさんよりは下っぽい感じがする。二十四歳のシーさんと並んだら同い年っぽく見えそうだけれど、彼はちょっと若く見られがちな人だそうだから、金髪の青年はやっぱ二十二くらいだと思う。

 ……なんというか、純粋に強そう。

 筋骨隆々とか、いかつい顔をしているとかではない。ではどうしてかというと……ええと、背が高いけれどひょろっとした感じがないのと、意志の固そうな表情と、長い剣を持っていることが私に強そうだと思わせるのかもしれない。

 表情と剣のことをなくしても、運動が得意な人感が結構あると思う。そういう佇まいだ。

 私と立石さんを見る目つきが鋭いけれど不思議とあまり怖くはない。優しい人なんじゃないかという気すらしてきた。

 金髪の青年はすぐに攻撃してくることはしなかった。まずは至って落ち着いた様子で喋った。


「――――」

(邪魔しないでくれ、って)


 やっぱり、迷惑な人たちは私たちのことを迷惑に思ってるんだ。


「――――――」


 少し怒ったような調子で立石さんが言い返した。これもアズさんが訳してくれた。


(僕らに迷惑かけておいて何言ってるんだ)


 至極当然の意見だ。

 立石さんが続ける。


「――――――、――――――――?」

(魔力が無いのに巻き込まれて、魔獣に襲われる人たちがいるのを知らないのか)


 質問に対して金髪の青年は首も表情も動かさなかった。


「――――、――――――。――――――――――」

(迷惑だっていうんなら、剣を渡すよう仮面のやつらに言え。あれを手に入れたらここに来ない)


 質問の答えになっていない。でも、全く反応を見せないでただ解決方法を提示してきたということは、私のような人のことを把握していて、当然突っ込まれるとわかっていたということじゃないだろうか。


「――――――。――――――――――――」

(聞き入れてくれる気がしない。この世界に迷惑をかけてでも渡せないって聞いてる)

「――――――。――――。―――――――――――」

(それなら邪魔するな。仮面のやつらに協力するな。魔獣の相手だけしてれば戦いが早く終わるってわかってるだろ。……一応言っておくと、あいつ、オレが訳してるよりは丁寧だぞ。命令口調だけど)

(へえ、そうなんですか)

「――、――――? ――――、――――、――?」

(そもそもなんで協力してるんだ。あの剣が何か、あいつらが何か知ってるのか)


 迷惑な人たちは、銀髪家上くんの剣のことだけじゃなくて仮面の人たちがどういう集団であるのかもちゃんとわかっているのかな。

 金髪の青年の質問に立石さんは長々と答えた。


(知らない。魔獣と戦ってきた組織だから、魔獣を従えて迷惑かけてくるやつらとは敵対するに決まってるし、仮面のやつらは魔獣を退治する側だし、僕らを襲わないから味方する。きみの疑問に答えたが、きみは自分たちと仮面のやつらのこと教えてくれるのか。答えによっては方針を改める)


 家上くんに協力しづらくなったら嫌だな……。


「――、――――」

(何も教えられない)

「――?」

(何で)


 本当に何で? 何も教えずに要求するなんて、何を考えているのだろう。受け入れられればラッキー、くらいのものなのかな。

 金髪の青年は、話さない理由はしっかり話した。


(仮面のやつらのことは伝えてもいいことになってるけど、剣のことと自分たちのことはだめ。全部話さないと納得しないだろうし、仮に話したとしても反発するだろう。だから何も話さない)


 なるほど。中途半端に情報を与えてしまうくらいなら何も話さない、と。……理由話したら反発されると思っているなんて、悪いことをしている自覚があるということだよね……。


「――。――――――。――――」

「――」


 あっ、なんか交渉(と言えるものでもないけど)決裂した雰囲気!

 金髪の青年が剣を構えた。そして……横に跳んだ。

 残念。人のアズさんの攻撃が当たらなかった。


「よくよけたな」


 褒めつつも固い表情のアズさん。


「――――、――――」


 青年の剣がアズさんに向けられた。何度も攻撃して疲労しているはずの立石さんより急に出てきたアズさんの方が危険っていう判断?

 私と立石さんはアズさんたちから離れる。


「アイレイリーズ君がいないことを警戒されちゃってたみたいだ」


 立石さんが小声で教えてくれた。


「下にいてもらうべきだったでしょうか……?」

「いや、あの金髪君かなり強そうだから、温存しておいて良かったと思う」


 金髪の青年が動いた。後はもう私には具体的なことはわからない。でも……なんかすごいことはわかる。アズさんと金髪の男性はレベルの高い戦いをしてるんじゃないだろうか。

 そういえば私、アズさんが真剣同士で戦っているのは初めて見る。

 目が追いつかないなりに二人の戦いをすごいと思うのは、体育館で行われてきた勝負とは気迫とか緊張感が違うせい……というのももちろんあるだろうけれど、単純に二人がとても強いからでは? 金髪の青年も魔術を使っている様子がないから、屋内で竹刀同士でもたぶんこんな感じで、私は十分ビビる気がする。


「……樋本さん。あの戦い、どう思う……?」

「ち、近付くだけで切れそうです……」

「やっぱりそう思う!? とんでもないもの見てるよね僕たち……!」


 ひえー! 立石さんまでアズさんとあの人の戦いを「とんでもない」って言ってるぅ!……でも、私と違って何が起きているかはわかっているんだろうな。それに棒を両手で握っていて、隙あらば何かしようと思っているっぽい。


「実戦でアイレイリーズ君とあんな風に斬り合えるとか……少人数で僕らとの戦い成立させちゃってるだけあって優秀なのばっかで困っちゃうね、ほんと。魔術での防御も結構できるみたいだから、下手に僕が干渉したらアイレイリーズ君巻き込んでおいて肝心の金髪君には効果無し、なんてことになりかねないし……」

「優秀なら悪いことしてないで普通に活躍すればいいのにって思うんですけど……あの人ならできますよね?」

「……まっとうな職に就いて、上からの命令であんなことやってる可能性だってあるよ……」


 え、ええっ。あ、そっか、そういう可能性もあるのか! 魔獣を使役して人を襲うような悪い組織の人=まっとうなところに勤めてない人って思い込んでた!


「そういえば、魔獣のこととかあの人たちのこと、向こうの人たちが捜査してるんですよね? 何かわかったことあるんですか?」

「前のと違ってさっぱりわからないって。うまいこと隠してるんだろうね。ばっちり顔出してるのに身元がわからないとか……って、そうだ、記録しておかないと……」


 立石さんはスマホを取り出して手早く操作すると、


「動かさないで、ただ撮ってて」


 私に横向きで持たせた。

 映像記録にも立石さんにも私の声は邪魔だろうから、私は黙った。ただ見て、聞いて、アズさんが勝つのを待つだけ。

 アズさんと金髪の青年の戦いは長くなりそうに思えたのだけれど、不意に金髪の青年がアズさんから大きく距離を取った。それをチャンスと思ったのか立石さんが火の玉をまた連射した。

 青年は攻撃から逃れるように走って、大ジャンプして隣の建物へと移った。そしてどんどん遠ざかっていく。


「もう撮影いいよ」


 私は立石さんにスマホを返した。

 アズさんが金髪の青年を見送るのをやめて振り返って、そこに立石さんが声をかけた。


「何? 通信でも来てた?」

「ああ。撤退するって聞こえた」


 私たちは屋上の端に戻って、下を見た。強引な手段の道である黒い半球があった。


「やっとか!」


 立石さんが嬉しそうな声を上げた。

 半球のそばには茶髪の青年がいて、金髪の青年を待っていた。

 金髪の青年は、赤髪駒岡さんの攻撃をよけて、青い人の剣を弾き飛ばして、遠くからの攻撃を叩き落として、別の攻撃は茶髪の青年に阻んでもらって、黒い半球までたどり着いた。

 金髪の青年に続いて茶髪の青年も強引な道に入っていった。

 あずき色の男の子と変な美女の姿もない。魔獣は消えている途中のものがあるだけ。

 特に変なことが起きることもなく、黒い半球は消えた。やっと帰った!

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