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79 よく動く

 ドームが消えて、茶髪の青年が姿を現した。


「ああ、もうか……」


 立石さんが残念そうに呟いて、攻撃の準備を始めた。

 茶髪の青年はすっと立ち上がって杖を出すと、空中にいろんなものを同時に出した。倒れる前は、炎を出したら次は水を出して、その次は魔力の塊を、といったように適宜弾の種類を変えて撃っていた感じだったけれど、今度は全部一緒に出した。


「わー……」

(器用だな、おい)


 立石さんとアズさんは茶髪の青年の芸に感心したらしい。立石さんの声は面倒にも思っていそうな感じに聞こえた。

 そして、茶髪の青年は、魔術のことが理解できにくい私から見てもかなり器用に思えることをした。


「はー?」

(ほんと器用だな!)


 何をしたかというと、様々な方向に同時にそれぞれ別の攻撃をした。例えば、前に水、後ろに炎、斜め前に氷と魔力の丸い塊、横に魔力の尖った塊とビームを飛ばしてみせた。

 ……はぁ。変な美女が負傷したみたいだからそろそろ終わりかと思ったのにな。

 茶髪の青年は膝をつく前のように調子良く攻撃していく。とても器用なことは面倒くさいのかやめたけれど。


(魔獣を巻き込まないようにしてるな)


 代わりに別の器用なことをしているようだ。

 あずき色の男の子と変な美女は積極的に攻撃しなくなった。美女に至ってはほぼ休んでいるように見える。


「……さっきのってさ、元気ですアピールだよね」

(そうだろうな)

「同じ意見です」


 あずき色の男の子がポーチに手を入れた。魔獣の追加かと思ったら、今回は自分の補給のようだ。彼は立石さんが私にくれたようなものを持ってきていた。


「つまりはさ、あの程度じゃだめだよってことだよね……」


 立石さんの考えはこうだ。

 迷惑な人たちにとって、立石さんの雷は面倒なもの。

 彼らは今のところ、近くにいる人と戦うのに忙しくて、雷攻撃をする遠くの人(立石さん)を探せていない。だから、遠くの人が自分から居場所を知らせてしまうようなことをさせたい。だから難しいことを披露して、「倒したいならもっと強いのを撃ってこい」と伝える。

 遠くの人の居場所を把握してどうしたいかといえば、雷を楽に防御できるようになりたい、またはすっかり攻撃できなくしたい。


「……僕がどこにいるかわかったら、すぐに攻撃できる手段を用意してると思う。具体的には、仲間」


 戦うのに忙しいのであれば、当然そうなのだろうけれど。


「そうだったら、その人が私たちを探せばいいと思うんですけど……」

「もちろんそいつも探してはいるだろうけど、なるべく早く見つけたくて、ああしたんじゃないかな。予定と違ったから」


 予定……もしかして?


「あの人たちの最初の狙いは新崎さんだってことですか?」

「そうそう。それと樋本さんね。今までさ、樋本さんがいると秀弥君がいたでしょ。セットだと思われてたかも」


 そういえば……私がパン屋に隠れていた時は新崎さんもどこからか攻撃していたし、変な美女が一人で来てたっぽい時は私と新崎さんは一緒にいたし、夏休みの直前にはあんなことしたし……。ついでに、あずき色の男の子が生意気な態度を見せてどこかに行った朝も……。

 だから、今日もまた新崎さんが狙撃みたいなことをして、その近くに何らかの役割の私がいると考えてもおかしくはない、か。

 でも今日は魔力を隠して攻撃するのは立石さんだった。新崎さんの矢に比べて威力が高くて対処するのが大変だから、早いところなんとかしたい。そんな感じかもしれない。


「それで、立石さんはどうするんですか? やっぱり特別強いのやめますか?」


 迷惑な人たちが立石さんに強力な魔術を使わせたいということは、超がつく程に強力な攻撃が飛んでくることだって、というかむしろそれを想定しているはずで、その攻撃に余裕を持って対処できる自信があるということ。だから立石さんが特別強い攻撃をしたところで、彼らはまだ帰ってくれない可能性が高い。立石さんが疲労するだけになってしまうかも。


「どうしようか迷ってるところ。相手の思ったとおりになんてやりたくないけどさ、さっきまでと同じようにし続けても、もう邪魔にしかならないっぽいからさあ……。強いのなら、ビリビリぞわぞわさせられると思う。誰かが僕らを見つけるのなんて時間の問題だし、弱いのだって続けてたら場所の特定されるだろうし」

(消耗させるだけだとしても十分立派な攻撃だ。あいつらが帰りそうにないってわかったからには、強いのはやめておくべきだと思うぞ。向こうにまだまだ余裕があるっていうんなら、こっちの長も余裕持っててほしいところだな)


 私経由でアズさんの意見を聞いた立石さんは、


「……そっかあ。そうだね、うん。じゃあ、精一杯嫌がらせするよ」


 そんなことを言って、とっくに光っていた棒を振り上げた。


「そーお、れっ!」


 最初と同じくらいの雷が落ちた。しかも一秒後にも、そこそこの威力で一発落ちた。

 頭の上に連続で雷を落とされた変な美女が、首を竦める動きをしたように見えた。

 美女を雷から守る魔力の塊は、彼女自身のものであろう緑色のものと、あずき色の男の子のものの二つだ。美女の頭の少し上に緑色のものがあって、そのさらに上に男の子のものがある。あんなことをしているということは、美女の盾は立石さんの雷を十分に防げないのかもしれない。

 補給を終えたらしいあずき色の男の子が、持っていたものをポーチにしまって、そしてまた何か出した。手が光った。

 そういえばあれを立石さんは知ってはいても見たことがない。


「男の子が魔獣増やしそうです」

「えっ」


 男の子が魔獣の核をぽいぽいと投げた。すぐに虎のような魔獣が四匹出来上がった。


「うっわ、ほんとに魔獣作ったよあの子! しかも次用意してるね!?」

「今さらですけど、双眼鏡なくても見えるんですね」

「あ、うん。それ(双眼鏡)ほどじゃないけど、普通の時よりは見えてるよ」


 次に男の子が作ったのは熊のような魔獣だった。これも四匹。

 新しい魔獣が仮面の人たちやアネアさんたちを襲いにいったことによって、迷惑な人たちへの攻撃が弱まってしまった。

 しかも変な美女が攻撃を再開した。彼女は仲間二人から離れて、よく動いている。あの彼女を狙う立石さんは大変だ。

 さらに茶髪の青年まで大きく動いた。ビュンと素早く動いて私の視界から消えた。


(こっちの方ですよね?)

(ああ)


 双眼鏡を動かしていくと、ちゃんと茶髪の青年の姿があった。杖を突き出していて、既に攻撃した後? あっ、また消えた。青年がいた所を何かの攻撃が通っていった。

 ジャンプしたように見えたけど、戻ってこないってことは……うわ、ほんとに浮いてた!

 私が茶髪の青年をまた見た時、彼は宙に浮いていて、下の人たちに雨あられと攻撃しているところだった。

 青年が地面に降りる時、雷対策であろう魔力の塊も一緒に動いた。その盾に何かが当たって、盾は水中の布のようにふにゃふにゃした。


(ああ惜しいな)

(あの人の頭の上の、どうなって……あ、戻っちゃいましたね)


 ふにゃふにゃしていた魔力の塊がピンとして、板のような状態に戻った。茹でた麺が茹でる前に戻ったかのようだ。


(攻撃が当たって魔力に干渉されて、不安定になってたんだ)

(へー! あ、もしかしてアネアさんの攻撃だったんでしょうか)

(そのはずだぞ)


 茶髪の青年は活発に動いて、あっちこっちに攻撃していく。魔獣と戦っていた薄紫さんとオレンジ美女先輩の邪魔をして、シーさんの剣とメイさんの拳をよけて反撃して、緑美男子先輩を襲って、変な美女を援護した。美女のついでに雷を落とされた時にはしっかり防御できていた。

 立石さんが溜め息をついた。


「今日の茶髪君、やる気にあふれてるね……」

(あとの二人も気合い入ってるよな)

「困りますね」


 青年は今度は走りながら攻撃し出した。そんなに速くないのは助かる。


「本当にね。いいかい樋本さん、ああいうのを魔術師っていうんだよ」

「あの、私、あの人が動き回っていっぱい攻撃してることしかわかりません……」

「いろんな攻撃するし、攻撃の威力が高くて、正確で、速くて、防御もしっかりする。もう強いとしか言えないよね!」

「すっごい厄介そうです……」

「厄介だよー。まあ、今日は僕も結構厄介なつもりだけどっ!」


 立石さんはまた雷を落とした。今回は控えめだったけれど、もう何度も攻撃されている美女は耳が変になっていそう……。


「茶髪君追いかけるの大変でしょ。今度はあずき君中心に見てて」

「はい」


 あずき色の男の子は魔獣を作った位置からあまり動いていなかった。仲間を援護して、自分への攻撃に対しては防御だけしている。そしてきょろきょろしている。


(あの動き、立石さんを探してますよね?)

(主にもそう見えるか。……チビが探す余裕を持てるように、茶髪が頑張ってるのかもしれないな)

「せいやあっ!」


 立石さんが棒を振り下ろした時、男の子がこっちを見た。彼は雷が落ちた後、茶髪の青年を呼び止めた。


「男の子がこっち指差してます!」

「おっ。何が来るかな」


 おおう、余裕ある言葉。頼もしい。

 すぐに攻撃が飛んでくるわけではなかった。


「あれか。樋本さん、アイレイリーズ君、あっちから来るよ」


 立石さんが指す方を見る。


「わっ、すごい」


 建物から建物へと飛び移って、近付いてくる人がいる!

 完全に飛ぶことと比べたら大したことはないのかもしれないけれど、すごいものを見ているという気持ちが強い。ジャンプという私にもできる動きで済んでいるように見えるせいだろうか。しっかり飛んでいると「すごい」より「信じられないものを見ている」という感想が一番になるし。


「あれって魔術ですか?」

「うん、魔術の領域だね。せいっ」


 立石さんが雷を落としたのだけれど、相手は空中で素早く障害物を出して防御した。その魔力の塊はそこで消えた。

 ビルの屋上に着地したその人は、そこで止まった。


(いくらか効いたか?)


 攻撃に移る様子もなく、少ししてからまた走り出した。アズさんが言ったように、立石さんの攻撃が効いていたのかも。


「もうちょっと止まっててくれるかと思ったんだけどな。あれはアイレイリーズ君に任せていいんだね?」

(まずは不意打ちするからそれまで頼む)

「不意打ちするのでそれまで頼みたいそうです」

「わかった。それじゃ樋本さん、手を離して」

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