表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/143

69 魔力の不思議

「それにしてもアネアさんがここまで強いのを撃てるなんてびっくりだよ」


 立石さんにディウニカさんが同意した。


「ええ。ひやっとしました。ずっと攻撃が当たっていたとはいえ、あの一撃でこうまでされるとは……」


 ディウニカさんが壁を消すと、アズさんも姿を消した。アネアさんはゆっくりと歩いて、タオルが置かれた場所へ向かった。

 私は早速アズさんに感想を聞いてみた。


(どうでした?)

(速いけど、急に曲がったり速さが変わったりしないから対処しやすいと思ったな。でもすごかった。銃がっていうか、あのお嬢さんの戦い方の話だけど)


 疲れた様子で床に座ってタオルで顔を拭くアネアさんに、立石さんとディウニカさんが近寄っていった。


(アネアさんの弾は、ちゃんと守っても当たるとぞわぞわして魔力をうまく使えなくなっちゃう人が多いそうなんですけど、アズさんはなんともなかったんですか?)

(ああ。でも最後のは触ったらまずそうだったから、頑張ってよけたよ)

(影響受けにくいのはアズさんの特徴ですか? セラルードさんですか?)


 メイさんがアネアさんに麦茶を差し出した。


(両方かな。本体が干渉に強いのは確か。人の体の方は、試験した時に喜ばれた記憶があるんだ。丈夫だって)

(人になってる時に干渉されちゃったらどうなるんですか?)

(度合いによるんだけど、強かったら強制的に本体に引っ込むことになるな。そこまで行かないなら、体が透けるとか力が入らないとか)

「ねえ、きみはさっきので疲れてないの?」


 シーさんが私に聞いてきた。


「はい」

「じゃあきみの武器は余裕で勝ったってことなのかな」

「そうでもありません。疲れたから今鞘に戻ってるんです。私はまだ大丈夫ってだけです」

「へー。どれくらいで回復するの?」


 私が答えようとしたら、人のアズさんが私の横に出て喋った。


「もう終わった」

「――! ――」


 シーさんが体をのけぞらせた。さっきアズさんが出た時は驚かなかったのに。それに七月に挨拶した時よりリアクションが大きい。今は「これから出る」と伝えられていなかったせいだろうか。


「次の相手はお前か?」

「え、あ、違うよ。トーレちゃん。おれは四番目」

「そうか」


 シーさんがメイさんを呼ぶと、メイさんはすぐに来た。

 アズさんの回復が終わったことを私が伝えると、メイさんは早速勝負で使う武器を選びにいった。

 メイさんとの勝負は前回のように実戦用でない武器を使って行われる。アズさんは今と同じくらいの長さの剣を、メイさんは短い剣を選んだ。

 立石さんが「好きに始めて」と言って、アズさんとメイさんの戦いが始められた。

 右手に剣を持ったメイさんが左手でアズさんに殴りかかったところまでは私もわかった。


「若い人なら、何してるのか見えるのかな」

「いえ、全然見えません」


 魔力がある人たちの速さについていけない私と瀬田さんは逆にのんびり話すし、麦茶をお供に座って観戦する。

 瀬田さんは、血筋から無くなった魔力の話をしてくれた。

 瀬田さんの両親にも魔力は無い。母親は代々こちらの人らしい。父方の祖父は魔力を持っていた。

 祖父の両親――瀬田さんの曾祖父と曾祖母は日本生まれ日本育ちで普通に魔力を持っていた。二人の間に生まれた六人の子供のうち半分が魔術で疲労しない人で、祖父は疲労しない子の一人だった。

 祖父は魔力のない人と結婚した。五人の子供のうち一人だけが魔力を持って生まれた。その一人は瀬田さんの叔父にあたる。


「叔父さんは、持ち直した……とでも言おうかな。魔術で疲れる人でね。でもその一人息子、要するに僕の従兄弟は疲れない人で、三人子供がいるんだけど誰も魔力を持ってないんだ。孫に戻ったということもないよ」

「親戚の皆さんはどうなってるんでしょうか?」

「おじいさんの疲れない兄弟の所は、もう一人の所ですっかり無くなったよ。あとの一人の所は持ってる人もいるけど、途中で向こうの人が入ったからだろうね。疲れる兄弟の所も、続いてたり無くなってたりするよ」

「向こうの世界の血が薄くなったから魔力が無くなった、って考えられてるんですか?」

「そうじゃないかと僕は思うんだけどねえ。魔力のある人同士の子供から消えそうになってるのがねー……。でも立石君のように、わりと最近来た人の血を引いてる人はみんな持っているようだから」

「子供や孫の魔力が無くなる人もいるって感じに聞いてたんですけど、無くなる人の方が多そうですね」

「それがね、今のところは、一部の家系では特に多いっていうことのようなんだよねえ。全体的に増えてはいるようだから、もう少し世代が下れば」


 それなら、曾祖父という比較的最近の人が向こうの世界の出身である新崎さんにとっては親戚を見てもあまり実感の湧かない話で、それであんな感じに言ったのかもしれない。

 アズさんとメイさんはまだ戦っている。メイさんはルールで制限されている魔術を元からやっていないから、デイテミエスさんのように本来の力を発揮しにくいという状況ではなくてすぐには勝負がつかないようだ。

 あ、何か飛んだ。

 床に落ちたのは短剣だった。メイさんが手放してしまったらしい。それでも勝負は終わらない。アズさんとメイさんが何やら楽しそうにやりとりしている。自分に近いタイプの人と戦えて楽しいのかな。


「きみの武器の人、名前の元の人みたいだね」


 シーさんが私の隣に座りながら言った。彼だけでなくアネアさんも来た。アネアさんは私と瀬田さんにせんべいを持ってきてくれた。このせんべいは麦茶と一緒に用意されているお菓子の一つだそう。


「剣が一番の武器だけど格闘も十分強いし、技術より力任せなところもあるし。何か投げることも結構あるんじゃないの?」


 へー、見る人が見ればわかるものなんだ。


「はい。何度か刀を投げてます。シーさんは、セラルード・アイレイリーズに詳しいんですか?」

「伝記を読んだくらい。アネアさんなら知識いっぱい持ってるよ」


 シーさんが「ね?」と言うと、アネアさんは小さな声で「うん」と答えた。


「あれを作った人の日記、おれたちも読んだよ。まあおれは読んでもらったっていうのが正しいんだけど。セラルード・アイレイリーズを目指してたみたいだけど、服とか背が高いこととか魔術が苦手なところとか再現してるのに、どうして武器はそうしなかったんだろうね? 日本刀タイプは日本の人に馴染みのある形ということで作られたわけだけど、どうしてその一つに騎士をくっつけたんだろう?」


 そういえば何でだろう。デイテミエスさんが見せてくれた画像の中に片刃の武器を持ったセラルード・アイレイリーズはいなかったような気がする。ご本人は握ったことくらいはあったかもしれないけれど、普段から使っていたということはたぶんない。

 セラルードさんはどんな武器でもそれなりに使えるようになる人だから、生前慣れ親しんだ武器でなくとも別に不都合はないと判断したのだとは思う。


「……シェーデさんのご先祖様の作る武器が一番魂をくっつけやすかったとか?」

「やっぱりそういうよくわからないものが理由なのかなあ。……あっ」


 一体何にシーさんが反応したのかと思ったら、アズさんとメイさんの動きが止まった。メイさんの胴体にアズさんの剣が当たっている。シーさんには勝負がつくのがわかったんだろう。


「――!」


 メイさんが叫んで、ごろんと床に転がった。彼女はアズさんと少し話した後、アズさんに荷物のように抱えられて戻ってきた。


「主、先に言っておくけど、これはこの子の希望だからな。お姫様抱っこは恥ずかしいって」

「そうですか」


 戦いの最中でもないのに女の子が好きなアズさんにしては少し雑なことをしていると思ったらそういうことか。

 アズさんはメイさんを床に下ろすと鞘に戻った。


「いやー、参った参ったー。くたくたー」


 そう言いながらメイさんがタオルに手を伸ばした。彼女のタオルには何やらかわいいものが描かれている。水色のうさぎ……? うさぎにしては長い尻尾を持っているし、その尻尾はゆるく丸まっている。


(オレも疲れたよ。この子のよけることよけること……。あれで空飛ぶんだろ? 屋外だったらかなり厄介だ)

(でも楽しそうに戦ってましたね)

(ああ、楽しかった)


 汗を拭くメイさんに、シーさんが魔術で涼しいそよ風を送って、アネアさんがペットボトルのスポーツ飲料とお菓子を持ってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ