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62 別人

「細かく記録が残ってるんですね」

「生きてるうちからかなりの人気者だったからかも」

「そういえば、役職はどんなものだったんですか? 結構な地位に収まりそうな感じに思えるんですけど」

「騎士団の団長やれって王様に言われたけど、拒否したって。副団長も。向いてないからって。団の中にいくつか隊があったんだけど、その中の一つの隊長にはなってるよ」


 ……アズさんが人見知りをしていた元がセラルードさんの性格だと考えると……


「……団長ってきっと、大勢の前に立ったり、何かあったら説明とかに出てかないといけない立場だと思うんですけど」

「うん。すっごい名誉だけどめんどくさいだろうね」

「嫌がったってことは……めんどくさがりだったかもってことはちょっとがっかりなので排除して……恥ずかしがり屋だったとか、真面目だったなら責任ある立場にすごい重圧を感じちゃう人だったとか?」

「そうだねえ。戦ったら強いけど気弱だったかもしれないねー。ゲームで、普通のふりしてるけど実はすごい緊張してる感じのキャラになってるよ」

「そういう、ゲームとかのキャラにしちゃうのこっちにもあるんですね」

「あるよー。ついでだから見よっか」


 デイテミエスさんはまた画像をたくさん表示させた。昔に描かれたであろう絵の中にちらほらとアニメやゲームのものらしき絵や、ドラマか何かの写真がある。ページの下の方に行くと昔のものの方が少なくなった。


「これは俺の好きなゲームに出てくるの。これは何でもかんでもかわいい女の子にしちゃってるやつで、体は違う子だけど魂だか意志だかがどうのこうのでセラルード・アイレイリーズとして扱われてる。こっちのは実は女だった! ってしてるやつ」


 デイテミエスさんがまず示した絵は三つとも、一番有名な絵の人が着ているものを参考にしているのがわかった。

 男性のままの本人は長くて大きな剣を構えているおじさん。黄色っぽい鋭い目に、新崎さんのような暗い青の髪。騎士というよりは武将な感じ。

 中身だけの女の子は私くらいの年だと思う。大きな目は水色で、髪はピンクでふわふわしていて愛らしい。短めのスカートで胸が大きくて花の形の髪飾りを付けて女の子全開だ。強気そうな顔を見ていると、全然違うのに、アズさんが女の子になったらこうかな、なんて思えてくる。

 女性になっちゃった本人はお姉さん。髪と目の色がアズさんより少し明るい。口を引き結んでいて真面目そう。女性になったアズさんというよりはアズさんを目標にしている女性だと私は思った。


「これは女の人向け。恋愛するゲームのやつ。俺よく知らないけど人気あるっぽい」


 若い男性だ。顔は肖像画を意識していそうな感じ。そしてどういうわけか儚げ。デイテミエスさんの話を聞くと全然そんな印象を持てないのだけれど……。ピンクの女の子みたいに本人ではない設定なのかも。


「この人は、えっと、時代劇みたいなやつの」


 ドラマのワンシーンらしきハンサムな人の画像。三十……いや、四十は越えている。きっと若く見えるおじさんだ。髪の色は青紫で、瞳の色はとてもアズさん。視線の先に敵でもいるのか表情が険しい。


「こいつは名前だけ。強い人だから強い人の名前を付けてる感じ。刀のお兄さんのお仲間だね」


 爽やかで好青年といった雰囲気だ。これはたぶんはるちゃんの好みに入る。

 アズさんがこれらを知ったらなんて思うだろう。セラルードさんのことを別の人のように思っているなら「ふーん」くらいだろうか。


「デイテミエスさんとしては、人のアズさんのことはどうですか?」

「えっとね、すっごくいい線行ってると思ってるよ。俳優ならセラルード・アイレイリーズ役やってほしいくらい。性格をちょっと堅くして、あと二十歳分くらい老けさせて、魔術斬ったら完璧」

「おじさんがいいんですね」

「うん。これの影響」


 デイテミエスさんは武将のようなセラルード・アイレイリーズを指差して答えた。

 これの写真も撮っておこう。


☆★☆


 立石さんたちのいる部屋に戻ってきた。

 人のアズさんがいつもと違う服装でそこにいて、何人かにいろんな角度から写真をバシャバシャ撮られていた。美世子さんもテンション高めに撮影している。

 あれは……あれは肖像画の人が着てるやつ……? 色は同じだ。

 私が声をかけるより早くアズさんが振り向いて微笑んで「おかえり」と言った。その顔を見て黄色い声を上げた人が何人かいた。

 私は正面からアズさんを見た。肖像画の人にマントを足したものがアズさんの今の格好だった。


「――! ――!」


 私の横でデイテミエスさんが何か言った。目を輝かせて両手をぐっと握っている。アズさんの姿に感激しているようだ。


「どうしたんですかその格好。かっこいいですね」


 私が褒めたらアズさんは嬉しそうにした。


「ありがとな。オレ最初はこうだったんだ。いろいろ思い出してるうちにこれのことも思い出してな。参考になるもの見せてもらったし、やってみた」


 アズさんがテーブルの上の紙を指差した。あの肖像画が印刷されていた。

 私が携帯で撮るまでもなかった。でも無駄になったわけじゃない。好きな時に別の世界の絵を見返せるのだから。


「私もこれ見せてもらいました。剣持って立ってるだけなのに素敵な人ですよね」

「――、主もそう思うか」


 ……今、こっちの言葉で何と言いかけたんだろう。


「でもアズさんの方が剣の扱いは得意そうです。この人はアズさんよりはデイテミエスさんみたいな戦い方しそうだなあって思います」

「さてどうだろうなあ。オレは長いこと刀しか握ってないからな。つるぎ持たせたらわからないぞ」


 謙虚なアズさんに、デイテミエスさんが相変わらず目を輝かせたまま二歩近寄った。


「実力はともかく両刃でも片刃でも槍でもなんなら銃でもかっこよくていいと俺は思う!」


 デイテミエスさんのこの興奮のしよう……アズさんの見た目が四十代だったらきっと大変なことになっている。


「……?」


 アズさんはデイテミエスさんの様子に戸惑ったようだ。


「何でお前そんなに嬉しそうなんだ」

「刀のお兄さんがかっこいいから!」

「そ、そうか」


 アズさんがわずかに照れた様子を見せると、私の後ろでシャッターを切る音がした。たまたまか、照れたところをすかさずか。振り返ってみると、若い女性がデジカメを見てにこにこしていた。


「デイテミエスさんは写真撮らなくていいんですか?」

「撮る! 撮らせて!」


 携帯を取り出してデイテミエスさんはアズさんの撮影を始めた。

 アズさんは無表情で被写体になっている。なんだか置物のようだけれど、ときどきカメラのフラッシュに目を瞑っている。暑さ寒さは感じにくくても眩しい光には強くないらしい。

 私も二枚ばかり撮らせてもらって、後は部屋の隅で立石さんたちと一緒に見ていることにした。


「やることは終わったんですか?」

「うん。すごく助かった」


 立石さんによると、午後のアズさんはどんどん思い出して、あっという間に片付いたらしい。午前のペースだとまた別の日にこのような場を設けないと終わらないくらいだったそうだ。


「それでさあ、また堅くなって、あの服着て出てきて喋った時は『え、誰』って思っちゃったよ。全っ然気さくなお兄さん感がなくて。堅苦しくて近寄り難いっていうのがよくわかったよ。みんなに褒められてもちっとも表情変えないで、静かに『ありがとうございます』ってだけ言ったんだ」

「それは……アズさんって感じじゃないですね」

「そうだよね? 今は混乱が収まって元に戻ったって思っていいよね。さっきカイネート君に引き気味だったのは見ててわかったから」

「そうですね……」


 最初の持ち主が今のアズさんを見たら別人だと思うんだろうな。

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