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137 強力なやつ

 この空間の中心に行くことにして、時々人に会いながら歩いていたら、またまた私の通信機が鳴った。今度は立石さんからの呼び出しだった。今日も迷惑な人たちが来ていて(距離のせいか人間であるせいか香野姉妹は存在に気付かなかったっぽい)、既に人と人との戦闘が始まっていてその場には魔獣がわんさかいるらしい。今日はイルアレトリカという人を手伝うよう言われた。誰かというとアネアさんと一緒に来た弓使いの女性だ。

 私とアズさんがいた地点からイルアレトリカさんとの合流地点である交差点までは遠かったけれどほとんど車で移動したから合流は早かった。私を運んだのは田中さんで、今回の彼女は直線では九十キロ出した。左側通行は守っていた。

 イルアレトリカさんは鮮やかな緑の髪をもっていて、ほんわかしていて優しそうで戦う職業に就いていそうにない雰囲気の人だった。彼女から姓のイルアレトリカではなく名のフィルカで呼んでと言われた。

 フィルカさんが行う予定の攻撃は刺激が強いものだそうで、ちょっと不安だから試してみるということで私に触られた状態でフィルカさんが魔術で矢を作った。その矢の緑色に私は見覚えがあった。


「ビリビリとかゾワゾワとかしない?」

「なんともないです」


 新崎さんに触っていた時と何の違いもない。


「ゆかりさんの剣は?」

(オレも全然なんともない)

「大丈夫です」

「よかった」

「あの、防御が得意な人たちの訓練で、攻撃役したことありますか?」

「ん? あるけど……あ、そういえば見学してたね」

「やっぱり。あれやってたのフィルカさんだったんですね」


 フィルカさんは、私があちらの世界で見学させてもらった防御の人たちの訓練で強烈な矢を放った人だ。デイテミエスさんが即逃げて、訓練していた人がみんな倒れたあれ。

 私とフィルカさんは手を繋いで合流地点の近くにある八階建てマンションの屋上に上がった。

 マンション前を通る車道には人も魔獣も多くいる。迷惑な人たちがいる場所からこのマンション前までの距離はあまりない。すぐ見つかるだろうからここに長居はしない予定だ。


「やるね」


 フィルカさんは素早く矢を作って弓を構えた。フィルカさんの手がぼんやりとした光を纏っていて、それより強い光を矢が放っている。

 矢はあずき色の男の子に向かって飛んだ。直撃はしなかったけれど男の子が魔術で作り出した盾は消えたし本人はぱたりと倒れて、ついでに彼の近くを飛行していた魔獣が落ちた。それに赤髪駒岡さんにも影響が出てしまったようで彼女はふらりとして、青い涼木さんに支えられた。その直後、フィルカさんが次の矢を放った。それはまたあずき色の男の子を狙ったもので、濃いオレンジ色の盾に阻まれた。あれは茶髪の青年が作ったものの色だ。あずき色の男の子は全然動けないと見ていいっぽい。今度は青い涼木さんもうまく動けなくなって彼女のことは緑美男子先輩が助けて、赤髪駒岡さんはキルスさんに救助された。


「〈よし〉」


 あずき色の男の子を無力化できたとフィルカさんは判断したらしい。


「下りよう」

「はい」


 私たちは急いで屋上から下りる。四階まで来たところで下から隠す気のない足音が聞こえた。誰か駆け上がってくる。


「飛ぶね!」

「ひゃっ」


 ひょわあーっ!

 フィルカさんが私を抱えて手すりを越えて地上の駐車場まで飛び降りた。着地の前に魔術で強い風を出してちょっと減速していた。そのすぐ後にもう一人階段から飛び出してきた。迷惑でやたら強い金髪の青年だ。私たちがわかりやすい所にいたとはいえ来るのが早い。この近くにいたのかもしれない。

 アズさんが金髪の青年の背後に出る。金髪の青年は今回もまたアズさんの攻撃をかわして、そしてあちこちから次から次へといろんな攻撃をされた。今日は人が多いので彼と戦うために待ち構えていた人も多い。


「全然当たってない。あの人すごいね」


 フィルカさんが教えてくれたとおり金髪の青年は無傷っぽい。しかも反撃する余裕まであって、あちらの世界の人に斬りかかった。その攻撃にはアズさんが対応したから斬りかかられた人は無事だった。

 なんだかんだで今日もすごく強い二人の斬り合いになってしまうかと思ったけれど、金髪の青年の動きを邪魔できる人がいた。それでアズさんがだいぶ有利になったようだ。

 不意に金髪の青年が大きく大きく跳躍した。この場からの離脱のためだろうか。彼は空中で体をひねって落ちてきたものをギリギリで回避した。上から彼を襲撃したのはメイさんだ。メイさんも金髪の青年も着地して、メイさんがすぐさま金髪の青年に飛びかかった。戦いながら仲間と敵のいる車道の方へ移動していくこと以外、私には二人がどう動いているのかさっぱりわからない。次に二人のことが私にわかったのは何かがピカッと光った時で、メイさんの動きが止まって危ないところをアズさんが助けた。たぶん青年の魔術をメイさんがよけられなかったんだろう。

 戦闘から離されたもののうずくまっていて依然として危ないメイさんに仲間が駆け寄って、光る手で背中をさすってあげた。

 また金髪の青年が大ジャンプをした。空中にいる彼にアズさんを援護していた人たちの魔術による攻撃が飛んでいく。魔術で攻撃を防ぎきったらしい彼は車道に着地して、着地地点を予想していたフィルカさんが放った矢さえも弾いたけれど矢がもたらず悪影響までは防げなかったらしく、せっかく距離を取ったはずのアズさんの接近を許した。

 金髪の青年は仲間と合流しようとしているのか、自分に向けて次から次へと放たれる魔術をよけながらアズさんと戦いつつマンションから離れていく。

 私はフィルカさんに連れられて道沿いにある別の建物に入った。三階まで上がって何かの会社の事務所にお邪魔して窓から戦いの様子を見ると、隣の建物の前でレベルの高そうな斬り合いが繰り広げられていて、迷惑な人たち同士の距離がだいぶ縮まっていた。あずき色の男の子がまだ倒れたままのようだし魔獣の数が結構減ったように見えるし、そろそろ彼らは撤退しようとするんじゃないだろうか。

 フィルカさんが矢を作り出して、その矢をつがえて、


「――え?」


 不意に金髪の青年の髪が黒くなって魔獣がバタバタ倒れてフィルカさんが苦しそうな声を出して武器を取り落としてアズさんが鞘に戻ってきたし私が着ていたアズさんの上着が消えた。


(干渉ですか!?)

(ああ、かなり強力なやつだ!)


 こちらの世界の人は元の色に戻ったし、向こうの世界の人たちはほとんどが立てていない。変な美女も茶髪の青年もだ。あずき色の男の子は倒れっぱなしで起きる気配は無し。どこの誰がどうやってこれを?

 フィルカさんがふらりと倒れそうになったから私は慌てて彼女を支えて床に座らせた。彼女の矢も弓も消えた。


(前みたいなのじゃない。まだ続いてる。人じゃなくて道具、今の時代なら機械ってこともあるか。何にせよ止まらないとオレ出られない)


 アズさんが喋り終えた直後、バンッ、とあまり聞かないけれど知ってはいる音がした。武器を持って戦う人たちと知り合ってからも珍しくてテレビから聞こえてくることの方が多い音。

 急いで下の車道を見ると、髪が金から黒になった青年が両手で拳銃を持っていた。

 魔術を使えなくなった人たちが次々と何かの陰に隠れた。でもそうできない人もいる。彼らは魔力が変になったから動けないのであって撃たれたということではなさそう……? さっきの音は威嚇によるもの?

 やたらと強い金髪の剣士が黒髪になって両手で銃を持っていて剣はなくて、彼以外誰も武器を握っていない、ということは。


(もしかしてあれ魔力とか関係ないただの銃じゃないですか!?)

(そうみたいだな。やばいぞ、これは)


 まともに動けない人たちの一人――あの青い髪はケトスルエトさんだ――に銃が向けられた。

 そして、またバンという音が響いた。撃たれたのは迷惑な人たちの方。足下に撃ち込まれて、元金髪の青年はさっと動いて立つ位置を変えた。

 黒髪になったアネアさんが建物の陰から出てきていた。持っている拳銃は一つだけ。今の彼女に二つは難しいということだろうか。

 アネアさんと元金髪の青年の間には膝をついているミルさんや倒れている人がいて、青年の後方にもこちらの味方の人がいる。強制的にお休みモードみたいな状態にされているアネアさんにとっては敵でないものに当たってしまう可能性が高くて撃ちにくい状況だと思う。体調不良もあるかもしれないし。

 銃を持つ黒髪二人は銃撃戦はせずに睨み合う。アネアさんは慎重にならないといけないけれど金髪の青年が発砲できない理由はたぶんないから、やっぱり最初の銃撃は脅しのためのものだったんだろう。でもどうしてそんなことを?


「――――――――! ――――!」


 元金髪の青年が大きな声で何か言った。


(主に、出てこいって……)


 え。……突然のことじゃない、ちょっと考えればありえると予想できたことだけれど実際にやられるとびっくりする。だって私は厄介者とはいえ弱い。私がいなくなったとしても迷惑な人たちが有利になることはない。


「だめ、だめだよ」


 フィルカさんが弱々しい声で言う。


「あなたが出ていっても、誰も安全じゃない。それに、高校生と軍人なら、高校生が守られるべき」


 私が行ったらあの人は他の人を撃たないという保証はないもんなあ。

 とりあえず私は窓の下にすっかり引っ込んで外から見つかりにくくした。

 元金髪の青年がまた何か言った。


(殺したいわけじゃない、命は保証する、おとなしくしているなら痛めつけることもない、って)

(邪魔者の私を殺さずにどうにかするっていうと)

(考えられるのは、拘束か)


 むむむ……捕まるのはめちゃくちゃ嫌だけど、誰かが撃たれるよりはずっといい。どう考えたってそう。


「だめだよ」


 フィルカさんが私の手を弱い力で引く。窓から、この場から離れろと言うように。


「あなたは、逃げるの。逃げて」


 私としても逃げたいところだけれど。


(オレは当然、撤退を進言する。あと、プロの言うことは聞くもんだ)

(ごもっともな意見だとは思います)

(……どうするにしても、とりあえず下りよう。このお嬢さんが歩けるようなら連れていこう)

(そうですね)


 迷惑な人の要求を受け入れるにしても逃げるにしてもこの建物を出るのは同じだ。

 フィルカさんに体調を聞こうとしたところで立石さんから通信が来た。


『出ていっちゃだめだよ。あ、この空間からなら出て。これ総長からの命令だからね』


 わ、命令って言われちゃった。今までの指示だって実質命令だったけれど、命令であると言われると逆らうわけにはいかない感じが段違いだ。

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