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133 次の時は

 翌日。

 登校したら家上くんが美少女三人と趣味仲間たちと一緒にいた。また何らかの遊びをしているらしい。彼らに近寄っていって「おはよう」を言ったら、家上くんが顔を上げて真っ先に挨拶を返してくれた。


「今日は何してるの?」

「長田がまた問題作ってきたんだ」


 家上くんが机の上の紙を見せてくれた。既に空白は三分の二くらい埋まっている。


「今回は難易度高くて、みんな同じのやって競争してるところ」

「そうなんだ」


 他の人の様子をざっと見たところ家上くんと士村さんと米山くんがトップ争いをしているようだった。

 タイムを競っているところなら邪魔しちゃいけない。今日はもう引き上げよう。でもその前に。


「頑張って」

「ありがとう」


 家上くんは微笑みを浮かべて私の応援を受け取ってくれた。

 その後、私は自分の席から家上くんたちを観察した。また士村さんが一番に解き終えて長田くんにスタンプを貰って戸田くんに称えられていた。家上くんは米山くんとの接戦を制して二位になった。


☆★☆


 放課後に魔獣の核を提出に行った。事務室には美世子さんと辰男さんがいて、「あら、ゆかりちゃん、いらっしゃーい」と言いながら窓口まで来る美世子さんの後ろで辰男さんが「おう、来たか」と言った。

 美世子さんに小瓶を預けて、昨日メールを送った時のことや持ってくる核が一個だけなのは私には珍しいなんて話をちょっとして、美世子さんが窓口を離れた時、階段の方から急いでいる感じの足音が聞こえてきた。

 椅子に座って階段の方に目を向けたらジャージ姿のシルゼノさんが姿を現した。


「こんにちは」

「こんにちは」


 シルゼノさんはお辞儀をした後、


「あなた、に」


 と言った。事務室でなくて私に用があるらしい。私はアズさんを起こした。


「〈何ですか〉」

「――――――」

(隣に座ってもいいかって)


 私は覚えたての「どうぞ」を言った。ちゃんと通じてシルゼノさんが隣に来た。

 手の上にアズさんを出して、シルゼノさんの用件を改めて聞いてもらった。アズさんとシルゼノさんは小さい声でやりとりした。それが終わるとアズさんが小声のまま私に何を話したか教えてくれた。


「主とオレにただ会いにきたんだと。自分でもよくわからない、言葉にできない何かがあるみたいだな。そんで会えるなら会っておこうって考えててて、主が来たら教えてって頼んであった」


 私と美世子さんが話している間に辰男さんが連絡したようだ。


「アズさんはどうですか? 会えたら何かある感じしますか?」

「オレは……特にそういうのはない、けど……こうやって近くにいてみると、なんか、悪くないなって感じがする」


 そばにいるだけでも何かいい感じの効果があるのかな?


「ゆかりちゃーん」


 窓口にいる美世子さんに呼ばれた。


「はい」


 私は返事をして、ふと思いついてシルゼノさんにアズさんを預けてみた。

 美世子さんから小瓶を返されて報酬を貰った。悪魔みたいな角の山羊もどきの核は四百円になった。

 シルゼノさんがいることに気付いた美世子さんは私にこそっと言った。


「あの子、笑わないけど無愛想とはまた違った感じするわよね」

「わかります。機嫌が良くないとか真面目にきりっとっていうのとかにしては柔らかい、っていうとなんか違う気がして、じゃあ何かっていうと困る感じで」


 表情は無だし何を考えてるかわからないんだけど、わからないものにしては不気味感が少なくて近寄れる、みたいな?


「言い表すのが難しいわよね。笑ったらかわいいんじゃないかしら」

「そうかもしれないですね」


 椅子の前に戻った私はアズさんとシルゼノさんの様子を見た。シルゼノさんはただじっとアズさんを見つめていて、アズさんも特に何も言わず持たれていた。


「もうちょっとそうしてますか?」


 私に話しかけられて顔を上げたシルゼノさんにアズさんが私の言葉を伝える。

 シルゼノさんが日本語で「はい」と返事をしたから私はまた椅子に座って、防寒着の前を開けた。

 それから少ししてシルゼノさんがぽつりと何か言った。


「――――」

「――? ――――?」


 アズさんが聞き返すとシルゼノさんは小さく頷いた。


「―――――――、―――――――。――――」

「――――――。――――」

「――」


 今のシルゼノさんの返事は同意するものだと思う。


「――――――――――。――――――」


 ……静かだ。会話の声が小さいからというだけでなく、シルゼノさんは無表情だし姿勢を変えないし、アズさんは刀だから当然喋っていて何か変わることはなくて、だからとにかく動きが少なくて「静」という感じ。

 私もなるべく静かにしていた方がいいように思えて、会話が止まってまたシルゼノさんがアズさんを見つめるだけになってもじっとしていた。

 不意にシルゼノさんが動いたと思ったら「ありがとうございました」と言ってアズさんを載せた両手を私に出してきた。私は「どういたしまして」と返してアズさんを鞘に戻した。


「帰ります。さようなら」

「さようなら。――」

(お気を付けて、って)


 シルゼノさんは私がエレベーターに乗るのをわざわざ見送った。


☆★☆


 バスが走り出すとアズさんがシルゼノさんについて話し始めた。


(あのな、あいつ、本体のくせしてオレに影響受けてるらしいんだ)

(どういう影響ですか?)

(主の方が立場が上、従うべきなんじゃないかって感じちまってる。故郷での低い身分も関係してるのかもな。主のこと身分の高い人みたいに扱ったり従者みたいに接したりするかもしれないけど、変なやつだって引かないでやってくれ)


 なんとまあ。上の立場といっても組織内における先輩扱いだったら私も周りの人もそんな風に考えることもあるかと思って流せるけれど、主従みたいなのだと私は困るし周りの人にはきっと不審に思われて良くない。


(シルゼノさんに近付くの、避けた方がいいでしょうか)

(主に避けられたらあいつ悲しいんじゃねえかな。でも本来そんな感情持ってるのはおかしいんだよな……んー、原因不明だし、今日のところは保留でどうだ?)

(そうですね。一時的なことかもしれませんし)


 でも魂というよくわからないもののことだから、隣に座るにしても短時間にするとか、近付きすぎないことは心がけようと思う。


☆★☆


 木曜日。

 昼休みにはるちゃんと図書館に行って次に借りる本を選ぶためにふらふらしていたら珍しく家上くんの後輩さんがいるのを見つけた。同学年の女子生徒と共に一冊の本を覗き込んでくすくす笑っていた。寒くなって家上くんたちが中庭で食べなくなってからどうしているのだろうと思っていたけれど、友達と楽しくやっているようだ。暖かい時期の雨の日もああして友達と一緒だったのかな。


☆★☆


 放課後に携帯を確認したところ、授業の終盤頃に、あの空間ができたよのお知らせメールが来ていた。でも場所が私の家とは反対方向に学校から直線距離で十二キロ離れていて、範囲が広いから一応私にも知らせるといった感じのものだった。いつもの電車の時間までに追加のメールがなければ普通に帰ってと書かれていた。

 駅まで歩く間もホームで電車を待つ間も携帯は鳴らなかったので私は帰宅した。

 夜、お風呂から上がって部屋に戻ると携帯がピカピカ光ってメールの着信を知らせていた。確認してみると二通来ていた。どちらも送信者は立石さんで、一通目は今日のあの空間でのことを教えてくれるもので、二通目は一通目に書き忘れた戦力の追加について知らせるものだった。

 追加された戦力は今回も二人。一人は二十代前半に見える女性。弓矢で戦う人らしい。もう一人はアネアさん。二人は日本に来て早々に侵入者退治の仕事をしたのだった。

 今日の侵入者は迷惑な人たちの仕業で、彼らがいた。当然戦闘になったけれどどういう訳か彼らは早々に帰ったらしい。立石さんたちと仮面の人たちの被害は前回に比べてだいぶ少ないし、迷惑な人たちもろくに消耗はしていないはずだという。

 ひょっとしたらアズさんと私が見つからなくて無駄に警戒したなんてことも考えられるけれど何かを企んでのことかもしれないから次に来た時には十分気を付けてと一通目のメールの最後に書かれていた。

 私はアズさんを起こしてメールを見せた。


(戦力の増強具合の確認にでも来たか……? あえて場所をいつもの辺りからずらしたってことも考えられるな。どれくらいの時間でオレたちや仮面のやつらが到着するか確かめようとしたとか、牢の外に出ることを目論んだとか。場所指定なんてことができるかは知らないが)

(私たちがいなくて深読みしちゃったってなんてことはあるんでしょうか)

(ありえると思うぜ。主だって、もしあずき色のチビと緑色の鞭と鎖の変態と金髪野郎だけが暴れてて、茶髪野郎がいなかったら、不在だラッキーって思うより、どこに隠れてるんだろって思うんじゃないか?)

(そうですね。本当は熱出してて来てないとかだとしても、そんなこと考えないでどこかに隠れてるって考えると思います。でもあの人と私たちって、いないとおかしい度全然違いますよね)


 特に私なんていつもの地域でなければいなくても全然おかしくないと考えられるはず。私が未成年で高校生、つまりはいろいろと制限のある身だということは迷惑な人たちだってわかっているだろうから。


(それはそう。無駄に警戒した説が当たってるとして、そんなの今回だけだな。なんにしても、次来た時はこれまで以上に気を付けような)

(はい)

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