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115 選んだ理由

 結局、本の話が長く続いた。ときどきアニメやゲームの話が挟まった。書物の中身は時に違う形で表現されるし、古くからある有名な物語やその登場人物を元に制作された現代の娯楽が多く存在するからだ。私の知らない物語の中で私の知っている人がどんな存在になっているかを家上くんが聞かせてくれた。ついでに家上くんの好みのキャラクターについての情報も少し手に入った。好きなキャラクターたちは女の子だと長髪の人が多いらしい。でも一番好きな子は肩より少し下くらいまでの長さ。

 思い切って、ちなみに現実ではどうなのかと尋ねてみたら、やはり短いよりは長い方が好きとの答えだった。じゃあもう少し長くしようかと思ったのだけれど「樋本さんなら今より短くてもいいよ」と(ユートさんが)言ってきた。どうしようかな。

 和やかに話しているうちに、そこそこ有名な観光地に到着した。ここは水辺。整備された道を地元民が散歩したり走ったりしている。観光客はずっと行った先に多くいると思う。

 景色について話しながら歩いていくとベンチがあったので並んで座った。ここでお昼休憩にする。

 リュックを開けた家上くんはまず水筒を差し出してきた。専用の袋にも水筒本体にも「かがみ」と書かれたシールが貼られている。


「これ樋本さんの分のおにぎり」


 花柄のナフキンに包まれたものを手渡された。布の下はアルミホイルであろう感触。


「こっちがおかず」


 水玉模様の袋を開けると同じ柄のお弁当箱と箸入れが収まっていた。箱は二段で私が普段使っているものとほぼ同じ大きさだ。


「樋本さんがどれくらい食べるかわからなくて、詰められるだけ詰めた」


 ふたを開けてみる。


「うわあ……!」


 おいしそうなのと量に驚いたのとで声が出た。

 二段ともにおかずがぎっしり詰まっている。小ぶりなハンバーグ、茹でた野菜(人参がもみじ)、丸のままだったり切られていたりのミニトマト、小さなカップに入ったグラタン(我が家でも愛用の冷凍食品)、玉子焼き、きんぴらごぼう、タコさんウィンナー(目が付いている)、きゅうりの収まったちくわとチーズの収まったちくわ。

 これとおにぎり……。


「残しちゃうかな……」

「いいよ。俺の夕飯になるから。――果物もあるよ」


 私と家上くんとの間にタッパーが置かれた。


「あ、ありがとう」


 家上くんの膝の上にもお弁当箱が乗っている。容器は私のものより大きいけれどそこまで詰まっているようには見えないから量は同じくらいかな。


「家上くん、たくさん食べるんだね」

「俺の分も今日は多めだよ。よく知らない所を歩くならきっと疲れるだろうと思ってさ」

「そうなの」


 おにぎりの包みを開けてみる。ナフキンの下のアルミホイルの中には大きめのおにぎりが二つあった。


「鮭と梅」

「おにぎり三角にするんだね」

「うん。樋本さんは丸?」

「両方作るよ」


 私たちはいただきますを一緒に言って食べ始めた。

 作る人によって違いが出るであろうもの(ハンバーグとか)がどれも期待を裏切らない味だった。

 あと家上くんは玉子焼きは甘い派であることが判明した。


「どうかな。普段は適当に甘くするだけなんだけど、今日は時間に余裕があったから出汁とか入れてみたんだ」

「すごくおいしいよ」

「良かった」


 家上くんの料理を私が褒めると彼は嬉しそうにしたり照れたりした。

 うふふ。家上くんの作ったお弁当を彼と一緒に食べるという良い体験においしいのが合わさってとても幸せ。

 それはそれとして多かった。おにぎりを一個、おかずを一段と三分の一くらいで終わりとさせてもらった。家上くんもおにぎりを一つ残した。でもうさぎのりんごを二つ食べていた。


「食べる量は普通なんだな。あの空間で役目がある様子だからもしかしたらたくさん食べるかと思ったんだ」


 お弁当箱を片付けながらそう言ったのはユートさんだ。


「アズさんの持ち主になってからちょっとだけ増やしました。アズさんが戦うようなことがあると結構お腹が空きます」

「鍛えているわけではないんだな。まあ、魔力が無いから鍛えたところで……か。とはいえ登下校が結構な運動になっていそうだ。――それで、君はあれの持ち主以外の役目はないのか?」

「ええと、ちょっと役に立つことがある感じで……」


 私の体質か何かのことと、それを利用したことの話をした。これらのことも秘密にしてもらう約束で。


「ぐったりしていたのはそのせいか」

「違うんです……あれは本当にただ服掴んでるだけで全然疲れることじゃなくて……あの後に避難訓練ってことで飛び降りたからなんです……」

「避難訓練か。そうか。……懐かしいな。高所から飛び降りる訓練は俺もした」


 どこか遠くを、というか思い出の世界を見ていたユートさんだったけれど、ふと何かに気付いた様子で私に目を向けた。


「飛び降りたって、どうやって?」

「総長に抱えてもらって一緒に。いきなりは厳しいからってアズさんに抱えられて隣の建物に飛び移って、それから」

「魔術の使えない君にとってかなりの恐怖体験なのでは?」

「怖かったです。今後のためになることだからって理由を説明されたんですけど、一度は断りました」

「断れたということは君が決めていいことだったんだな。よく飛んだな」

「避難訓練って言われたら、必要なんだろうなって思ったんです」

「すごいな君。度胸あるんだな」


 恋愛に関しては臆病なのに、という心の声が聞こえた気がする。

 私からも質問をさせてもらう。


「今のうちに聞いておきたいんですけど。私を呼び出すのに何であそこを選んだんですか?」

「ああいう所なら安心だと以前から思っていたからだ」


 ……? この人、結構信心深い?


「神社や寺、教会のような所は何かあると思う。何らかの力が働いている気がする。君だって一人きりの時に神社に身を潜めることを選んだわけだし、君の刀はああいう所に置いていかれるのだろう?」


 ああ、そういうことか。ユートさんは「なぜかそう思う」みたいな謎の力の働きを神社とかでも感じていたわけか。

 私が神社に隠れたのは魔獣を見つけた時たまたま神社の前にいたから、だったはずだけれど。あの判断をしたのは、そこに神社があったから? もし民家の前でのことだったら? 熊みたいな怖いものから隠れるのと状況の把握のためにお邪魔させてもらったんじゃないかとは思うけれど……。

 アズさんが次の持ち主を待つ場所については「謎の力が働く」と言うしかない。人が来る場所だからと神社やお寺が選ばれたと考えることはできる。でも持ち主はわざわざ遠くの別に有名でもない地元民しか行かないような神社に向かうことがある。そしてアズさんが持ち主に聞いたところによると、選んでいない。ではどうしてそこなのかと尋ねると竹内さんがそうだったように持ち主も不思議がる。


「君に秘密を打ち明けるなら神社か寺がいいと思った。君と晶が一緒にいることをあいつらに知られることのないように遠くに行くことにした。君の負担を少なくするためにこちら方面で考えて、こうしてデートをしやすいようにと、あそこを選んだ」

「そうだったんですね」


 次の質問に移る。


「あの手紙に書いてあった絵というか字のことなんですけど」

「読めたか?」

「アズさんが気付いてくれました。あれって、ドレミみたいなものですよね?」

「聞きたいのは選曲の理由かな」

「はい」

「晶の字の意味を調べたことはあるか?」


 そんなことを聞いてくるってことは星関係あるんだ。


「ありません。漢字の意味を調べたらがっかりするのが出てきちゃうかもって教わってるんです。何が出てきても好きな気持ちが変わることはないですけどわざわざ悪いことを知る必要はないので」

「君の名前がひらがななのはそれが理由か?」

「それもありますけど、意味を限定しないようにっていうのが大きいです」

「そうか。――晶の字は、三つの星を表した象形文字で、『星』と同じだという説があるらしい」


 へえ! 帰ったら辞書引いてみよう!

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