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114/143

114 こんな感じでいいのかな

「ではこれから晶を起こすわけだが、その前に改めて」


 ユートさんは今日これからの家上くんについて私に説明をした。

 私とデートするということはわかっているけれどどうしてそうなったかはわからないし、そしてそれを気にしないという状態になるそうだ。会話の内容によってはユートさんが代わりに話す。


「わかりました」

「よし」


 ユートさんが目を閉じた。


「少し待っていてくれ。晶が起きたら目を開ける」

「はい」


 ……これから家上くんとデート……ときめきとわくわくと緊張が合わさってかなりドキドキしてきた。落ち着かないと。

 ときめきによるドキドキで顔が赤くてぎこちないのはユートさんの要望に沿う形になるかもしれない。でも緊張で話せないというのは良くない。私は家上くんを独り占めできるだけで幸せだけれど、家上くんは違う。適切なやりとりができないというのはストレスになってしまうはずだ。

 大丈夫、大丈夫。私がうまくできるようにユートさんが方向性を示してくれる。

 家上くんの目が閉じられていたのは三十秒程だった。家上くんは目を開けるなり、


「さてと、これからどうしようか」


 まるで今挨拶か何か終えたところという調子でそう言った。ユートさんが言わせたのかも。こんな所に私といることに疑問は無い様子。

 私も同じようにしてみる。


「どこか行きたいとこ、興味あるとこって、ある?」


 うまくできているかな。

 私は、今いるここと関連する神社、この辺りの産業に関連する施設、少し遠いけれど散歩も兼ねて行ったら良いと思う所を候補としてあげていって、途中であることに気が付いた。


「あ、お昼どうする? この辺にあるお店は観光地価格で高めだよ」

「弁当作ってきたんだ」


 家上くんは背負っているリュックを軽く叩いて言った。


「もちろん二人分」


 家上くんが作ったお弁当!?


「麦茶も持ってきたから、のどかわいたら言って。あったかいやつだけど」

「あ、ありがとう。……お弁当、どうやって作ったの?」


 もしかしてユートさんかなと思って聞いてみた。


「今と同じ感じで。誰と食べるかも何で作るのかも特に考えないで」

「そっか……」


 今日のデートがうまくいけば、いつかは……私のために、っていうの期待できるかな。


「それで、どうする? 行きたい所はある?」

「えーっと……実はさ、小学生の時にここに家族で来たんだ。樋本さんが言った所はどこも見たはずなんだけど、神社のことはろくに憶えてないから行きたい。あと、樋本さんと一緒に景色のいい所を散歩して、弁当食べるの良さそうだなって思う」

「じゃあそうしよっか。行く前にここもうちょっと見てく? お守りでも買ってく? あ、夢ならお守りあったら変か……」

「んー……。樋本さん、ここのお守り持ってる?」

「うん。白いの持ってる」


 私は鞄からお守りを取り出して家上くんに見せた。


「これ五百円。普段は学校に持ってく鞄に入れっぱなしなんだけど、今日は持ってきたよ。……何で呼び出されたのかわからなくて怖かったので」

「……すまなかった」


 後で理由を聞かせてもらいますからね。


「せっかく来たんだし、お守り買ってくよ」


 お守り程度の物ならどこかにしまっておけば大丈夫、ということなのかな。


「じゃあ戻ろう」


 私たちは人が多くいる所に戻った。

 団体客が来ていて授与所の前は混んでいて、私は少し離れた位置で家上くんが買い物をしてくるのを待った。

 家上くんはお守りを買うついでにおみくじを引いてきた。


「お待たせ」


 お守りの入った小さな紙袋には「白」の文字。


「樋本さんとお揃いにした」

「そう」


 ユートさんの判断かな。そうだとしても嬉しいな。


「で、こっちは……」


 家上くんがおみくじを開いた。


「中吉だ」

「なかなかいいね」

「そうだな」


 家上くんは内容を読み上げていく。全体的な運勢としては「つらいこともあるが乗り越えればとても良いことがある」らしい。

「『養蚕。吉』。吉って言われたってなあ」

「さようでございますか、って感じだよね」

「だよなー。――『抱人。大事にせよ』か……」

「ふーん」


 駒岡さんたちのこと考えてるんだろうなあ……。

 おみくじがなくたって家上くんは大事にする。で、こうしておみくじに出ちゃったからには意識してもっと。今日のことは夢扱いになるけれどそれでも。


「『縁談。しばし待て』って、あるわけねえ」


 あるかもしれないよ。「結婚を前提にお付き合いしてください」みたいなのがさ。


「『学業。続けよ』。まあ、やめろなんて書かないよな」

「そうだよね」


 家上くんはおみくじを読み終えると畳んで、お守りと一緒にリュックにしまった。

 境内にあるものを一通り見て、それから私たちは次の場所に向かうことにした。


「えっと、この道をまっすぐ行けばいいのか?」

「案内するよ」

「ありがとう。樋本さんってこの辺りに詳しい?」

「そういうわけじゃないよ。何度か来たことがあるってだけで、太い道しかわかんない」


 次に行く所も神社だ。

 そこに着くまでの間、私は神様やお祭りの話をした。家上くんは興味を持って聞いてくれた。

 目的地でも鳥居の前で写真を撮っている人たちがいた。小学生の兄弟とその両親。子供たちとお母さんの姿をお父さんが撮って、それが済んだらお母さんとお父さんが交代して。


「家上くんちも、あんな感じだった?」

「うん。ああだったと思う」


 私たちは撮影の邪魔をしないようにちょっと待ってから鳥居をくぐった。

 境内を見回して家上くんが言う。


「向こうと同格、なんだよな?」

「そういうことになってるけど、いろいろと向こうの方が大きいよ。ここに来たことあっても憶えてないのもしょうがないと思う」


 ここは人が少なめなので私たちは建物などをじっくりと見た。

 次の観光地に向かう前にちょっと寄り道して、駅で紹介されていた岩を見にいった。昔の人の手によっていろいろと彫られた物体で、全国的にも有名らしいけれど全国放送の番組で見た記憶がない。


「すごいデカかった気がするんだけど、俺がチビだったってことかな。いや、今の俺にとってもデカいことはデカいんだけど」

「そういうことってあるよね。私はこれ、もっと怖いっていうか近付きづらいものに思えてたな」

「ここに来るまでに狭い道通るから、小学生の樋本さんにはドキドキするものだったのかもな。橋渡るし、異界感って言ったらいいかな、そういうのある気がするんだ」

「そうだったのかも」


 楽しいな。二人で歩いて、何かを見て、話をして。家上くんはどうかな。表情は明るい。

 ここに来た時は運良く二人きりだったけれど人がぞろぞろとやってきたので私たちは場所を明け渡した。

 広い道に戻ってきた。


「ずーっとまっすぐ行くよ」

「わかった」


 特にこれといって見るもののないただの街中を行く。今度は何を話したらいいのかと考えていたら家上くんが本の話をし始めた。最初は私が教えた小説のことで、次に家上くんが自分で選んだ作品のことになった。


「……何かをネタにしてるってことはわかったんだけど何だかわからなくて、戸田に話してみたらあれはこういうことだっていろいろ教えてくれたんだ。あいつにあんだけ児童文学の知識があるとは思わなかった」

「もしかして図書委員やってるのって読書好きだからなのかな」

「そうなんだよ。それでさ、そういえば何かあった気がするなって家の本棚見てみたらあいつが教えてくれた本があれもこれもあってさ。母さんが実家から持ってきたり兄さんと俺のために買ったやつなんだ。兄さんは小学生のうちにいろいろ読んだみたいだけど、俺は今になってやっと読んでるんだ。なんか読んだことあるなあってやつもあったけど」

「何か気に入った?」

「うん」


 家上くんの言った題名は私も読んだことのあるものだった。でも内容はほとんど憶えていなくてそのことを言ったら家上くんが教えてくれた。それから話題は外国で書かれた物語のことになった。

 ああ、幸せだ。三分の一はユートさんとのことだけれどそんな感じはほとんどない。家上くんの私を見る目に年上感はないし、私の話(本を読んで何を思ったかなど)を聞いて「乙女」とか「かわいい」とか言わない(嘆くべき?)。文化祭の準備期間と同じように、私は楽しいと思ったもの、面白いと思ったもの、好きなものの話を家上くんと続けられている。

 人目は気になるものだけれど知り合いのいない街中だから学校にいる時ほど抑える必要がないしユートさんの要望もあるから、今の私の顔には気分が結構出ていると思う。家上くんにはどう見えているだろう。恋心に気付いてもらうのは難しくても、家上くんと一緒だから機嫌が良いんだっていうのは伝わるといいな。

 家上くんはどんな気持ちでいるのかな。顔と声は楽しそう。だめな状態ならユートさんが話題変えたり私の発言を誘導したりするはずだから、今のところは本のことを話し続けていてもいいようだけれど……。

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