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107 幼い頃から

「戦いへの備えをさせなかったことについては、長年何もなかったから油断していたというのと、強くなることで生じる問題があったことが原因だ。彼にはこちらで出会った妻との間に子供が三人できて、その全員を鍛えたわけだが、強くなるにつれて三人とも親には予想しづらかった苦しみを味わうようになった。魔力を使っている時と使っていない時の違いが大きすぎて力加減を間違えたり頻繁に転んだりするような身体の不調と、学校などで全力を出すわけにはいかずに不満を溜めたり周囲との違いを感じて魔力のある自分は異物だと悩んだりする心の不調に陥った」

(そういえば昔、苦労してる子がいるって話を聞いたような……)

「あの、それ、家上くんは」


 それに他の仮面の人たちや、新崎さんはどうなんだろう。


「本格的に鍛錬するようになった去年、魔力を使っている時に少し動きがおかしくなることがあったが今はなんともない。どうやらある程度成長してから鍛えるようにすると苦労が少なくなるようだ」

「じゃあ家上くんのおじいさんたちは小さいうちから魔術教わるとかしてたんですか」

「ああ。祖父は七歳の時にはスズメバチを巣ごと氷漬けにして駆除するくらいのことはできたそうだ」

「すごっ」


 強い。魔術すごい。


(そりゃすげえ)


 向こうの世界でデイテミエスさんが見せてくれたあれ以上のことができる七歳。すごい。アズさんも感心しているからきっと向こうの世界の基準でも。


「皆さん今はどうしてるんですか? やっぱり年齢的に戦うのは難しいんでしょうか」


 デイテミエスさんやメイさんたちの定年は六十歳だと聞いている。でもそこまで勤める人は少なくて、五十歳を過ぎるとどんどん辞めていくらしい。なぜなら自分が弱くなったと度々実感するようになるから。でも魔獣の群れと戦う人でも回復とか強化が主な役割だと貴重だし魔術の効果が落ちても仲間の足を引っ張るということもほぼないから定年までいくことが多い。


「一番目は普通に生活する分には健康だが戦う人としては衰えた。二番目は残念ながら病死した。三番目はそこまで老人というわけでもないが元から戦力としてあまり期待できる人ではない。とはいえ一番目も三番目も状況によっては戦いに参加することもあるだろうな。こちらの人間を基準にすれば二人とも剣道の強い人だから」

(魔獣がめちゃくちゃ多いようなことがあれば出てくるかもな)


 その時どうするんだろう。ご老人でもあの格好するのかなあ……?

 おじいさんたちのことを知れば当然その下の世代のことも気になる。だから聞いてみる。


「鍛えるのやめたのはお孫さんたちからですか?」

「少し違う。孫たちは戦い方はろくに知らないが魔術を使えるようにはなっている。緊急時に備えてのこととして教えられたんだ。彼らは魔力と魔術をいざという時のとっておきと認識したようで、そのおかげか心の不調は深刻にはならなかったらしい。曾孫たちも同じようになる予定だったが、剣を狙われるようになって四月から晶のいとこ一人が戦い方まで勉強中だ。……君の次の疑問は、魔術を教わったはずの親戚連中は今何をしているのか、だな?」

「はい」


 曾孫さんたちに関しては未成年が多いんだろうなとは思うし、みんなが魔獣の群れと戦える程に強くなれるわけではないと知ってはいるけれど。


「弱い、仕事をしている、遠くで生活している、事情を知らない、のどれかまたは複数だ。元王子の孫は六人いるが、それなりに戦える見込みがあるのは晶の母とその弟といとこの一人だけ」


 魔力があるのはお母さんの方か。


「全員現状を把握しているが、晶が『心配しないで、任せて』と伝えてある。だから、あの街から離れた所に住んでいる母の弟といとこは来ないし、母は仕事を優先している」

「じゃあやっぱり、仮面の人たちが若い人ばっかりなのって、魔獣とかが来た時に学校終わって自由なことが多いからですか?」

「そうだ。そして曾孫たちについてだが、晶と兄といとこの中学生を除いて小学生以下で戦わせるわけにはいかないし、鍛えようのない子もいる」

「もしかして魔力無くなっちゃったんですか」

「そのとおりだ。君たちの組織にもああいうのがいるんだな?」

「はい。でも、ひいおじいさんおばあさんが向こうの人で魔力がもう無いって人はもしかしたらいないかもしれません」

「そうなのか。元王子と一緒に来た人の家には孫の時点で無い子が生まれたところもあるが」

「それって」


 駒岡さんたちのことかと聞こうとして、駒岡さんは少し違うんじゃないかと思った。だから違う名前を出す。


「涼木さんたちのことですか?」

「そうだ」


 ユートさんは頷いた後、ちょっと考える様子を見せた。


「あの国の住民は魔力が無くなりやすいのかもしれないな」

(ありえるな)


 確かにありそう。よそとの交流の少ない島国の人だし、魔術で他人に良いことができる人は生まれにくいということからわかるように魔力関係の受け継がれにくいものはあるみたいだし。

 ユートさんが話を家上くんとひいおじいさんのことに戻した。


「晶は言われたとおり素振りを日課にした。といっても園児の頃はおもちゃの剣やらバットやらをぶんぶん振るだけだったが。そんなものでも半年継続したことで曾祖父は『これなら大丈夫だ』なんて思って気が抜けたらしい。そのことを日記に書いて一ヶ月で亡くなった。彼は一度も故郷に帰らなかった。二人目の子供が生まれたあたりで帰る気をなくしていたようだ」

(早いな。亡命した人間の気持ち他に知らないけど)


 元々命を狙われる生活をしていて、別の土地に行って安全に生活できるようになった上に子供ができたらそうもなるかなあ。でも私なら、逃げてから何年か経って自分のことを忘れられていそうとか思えば少し見に行きたいという気持ちになりそう。


「曾祖父の死後、晶はとっておきとしての魔術を覚えた他は、鍛えることといえば素振りだけで去年まで過ごした。剣道は中学の体育で少しやっただけだし、運動系の部活に入ることもなかった。それに剣のことどころか向こうの世界に関連することをほとんど知らないでいた。なぜ自分には魔力があるのかは知っていたが原因である曾祖父が元王子だとか、曾祖父が『友達』と言っていた中には実は『部下、従者』がいたとか、そういう細かいことは何も教えられていなかった。全てを知る祖父は晶が大人になってから伝えれば良いだろうと考えていたそうだ。晶が大人になる前に自分が死んだとしても父が遺していった資料があるからまあなんとかなるだろうと思っていた。だから晶にとって剣は長らくただの家宝くらいの認識だった」

(剣のことが伏せられただけだったら、早いうちに剣はとんでもないものだって気付いたかもしれないな。なんたって王子、それも国王になる予定だったやつが持ってきたものなんだから)

(そうですね)


 兵器の一部だなんてことはさすがに思わないだろうけれど、相当に大事なものではないかと考えても全然おかしくないと思う。それに親や兄でなく四歳の自分に託されたという点も合わせたらより深刻に考えるようになるかも。


「そういえば、どうして家上くんが剣を持つのが一番いいことだったんですか?」

「曾祖父から見て総合的に一番強くなれるのが晶だったんだ。鍛えれば立派に戦えて、他人を強化する魔術はかなりの効果が期待できた」

「そのとおりでした?」

「まだわからない。が、間違ってはいないと思う。強化の魔術の効果は相当なものだ」


 家上くんの顔が少し変わった。嫌そうで苦しそう。きっとユートさんが家上くんのご先祖様に強化された人たちに負けてしまったからだ。


「ひいおじいさんはどうして剣を持ってきたんですか?」

「悪用するやつがいると思ったからだ。と晶宛ての手紙にはあるが、実のところは晶と同じで自分が管理しなければという気持ちの強さのせいではないかと思う」

(やっぱりそれか)

「家上くん、剣の力の影響受けてるんですか?」

「俺はそう思っているんだが、なにぶん幼い頃から剣があるから比較しようがない。家宝と思っているし、ずっと持っていて普通に責任感が増しただけなのかもしれない」

「じゃあユートさんはどうですか?」


 ユートさんはちょっとだけ困ったような顔をした。


「……捨てたくはない、と思う」


 家上くん程ではないけれど剣に執着する気持ちはある、というところかな?

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