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100 どんな気持ちなのか

 私も新崎さんも電車に乗っている間は読書をした。

 電車を降りて、駅を出てから私とアズさんは家上くんたちについての話を始めた。


(駒岡さんたちにとって家上くんは特別に魅力的……なんでしょうか……)

(今日のあれを見るにたぶんそう。でも学校じゃ集まった時になんとなく中心になってるって感じでしかないよな)

(はい。中心ですけど、立場が上ってわけじゃないと思います。三年生二人が普通に上で、二年生たちはみんな対等……対等なんですけど変なこと言って締め上げられてる家上くんは一人で下にいるとも言えて、後輩さんは家上くんに敬意を払ってる感はありますけど、あれは他の上級生に対しても変わりません。文化祭の準備の時にはむしろ見下してるような言い方をしてました。だから、学校での家上くんは『言うこと聞きなさい』って言われる方に見えます。駒岡さんがあんな言い方されて従うなんてびっくりです)

(そうだよな。半年くらいしか見てないオレですらあれは意外だった)


 ここに来てまさかの別人なんてことは……ないよね……? 体格や声があの人たちだし。


(魔術で強引に従わせる、魅了して結果的に従わせるってこともある。強化と合わせて何かしら使ってるかもな)

(魔術ってほんとにいろいろできますね……)


 他人に影響を与える魔術の中には、人を自分の都合の良いようにできるものがあると聞いている。ぼんやりさせたり興奮させたり。ごまかす時の「あの手この手」の一つとして使われている。

 ちょっとやそっとでは効かなかったり頑張っても効果がすぐに切れたりして自分の望むようにするのには苦労するけれど、対象が魔力の無いこの世界の人の場合、結構強いことをしても魔力に干渉して魔術に気付かれる(そして拒絶されたりやり返されたりする)ということがないのが良いらしい。

 大変だけれど役に立つ魔術だから、道具や設備を使って大規模に展開されることがある。例えば瀬田さんの会社は建物を外から見て推測できる広さよりかなり狭いけれど、会社を訪問する人がそれを気にすることは滅多にない。魔術でそうしている。変じゃないかと今までに指摘した人は全員立石さんたちの同類だったそうだ。

 もしかすると誰かがあの空間に入ったりあれから出たりするところを見てもあまり気にせず忘れるのは、似たような力が働くからかもしれない。


(主が魔法って聞いて思い浮かべることは大体できるかもな。ほうきとかじゅうたん使って空飛ぶやつもどこかにいるかもしれないぞ)


 いるなら見てみたいなあ。どんな風に感じるんだろう。人が飛ぶのを見た時みたいに「何あれ?」って思うのかな。人と物を一緒に見るからすごい機械を見た時みたいに「わー、すごい!」って思うのかな。


(銀髪が強化しかしてないっていうなら……魔力使う使わないの切り替えができるやつらだから、状況によって気持ちが結構変わるのかもな)

(それはありそうですね)


 普段よりずっと高く飛び上がれるようになったりよく見えるようになったりするから、魔力を使っている時とそうでない時の違いはかなり大きいと思う。そこに平穏と危険という違いが加わって、さらに魔力を使っている時は仮面で顔を隠しているわけだから、家上くんと銀髪家上くんはもう別人みたいに思えるかも。


(あと、あの中にいる時は家上くんが変なこと言わないから良く見えるっていうのもあるかもしれませんよね……)

(そうだな。……日頃の失言だの何だのがなきゃまじでハーレムでも築いちまってるかもしれないな)

(変なことはわざとやってるわけですから、はるちゃんの推測どおり駒岡さんたちに好かれたくないって思ってるんでしょうか)

(うーん。そこまで行かないで“付き合う気がない”って程度かもなあ。好かれてる方が魔術の効果が落ちにくいもんだから。主だって、何かしてて応援してくれるのが友達とそうじゃない同級生だったら、友達の応援の方が頑張れるだろ?)

(はい)


 私が走っていて、はるちゃんか吉田くん辺りの人が応援してくれるとして。どっちも嬉しいけれど、より応えようという気持ちになるのははるちゃんが応援してくれた場合だ。

 友達でない同級生の場合、頑張れないどころかやる気が下がることもあると思う。蓮くんに頑張れと言われたら、黙っててよって思いそう。


(そういえばアンレールの王様はどうだったんですか?)


 セラルードさんも強化されることがあったんだろうか。


(……わからない。思い出せないっていうか思い出さないようにしてる。オレを作ったやつらが、王様のことは思い出すなって言ってた。オレもそうするのがいいと思う。オレは刀で、魔力の無い人の持ち物だから。自分は騎士だって意識はあってもいいけど、仕えてる人が他にいるのは良くないだろ。セラルードの結婚相手のことがわからないのも、もしかしたら、年齢の関係の他に、大事な人を憶えてるのがよくないってこともあると思う……)


 むむ、軽い気持ちで聞いたら深刻そうな問題が絡んでた。


(でも、前の持ち主のことしっかり憶えてるからって支障はないですよね。それに友達だって、友達であるからには大事だったはずです)


 人にとって大事になりやすい存在といえばあと親や兄弟があるけれど情報が少ないから私にはわからない。


(王様のこと思い出しても大丈夫じゃないですか? 後々王様になる王子様のことだって最近思い出しましたけどなんともない、ですよね?)


 王子様のことは“愉快な”という気持ちに関係することまで思い出したわけだけれど……。


(うん、まあ、それはそう。あの人生全部憶えてたとしても、刀やってる方がずっと長いからな。今さら王様思い出したところでどうかなるってことはないな。でもやっぱり、積極的に思いだそうとするもんじゃないって感じだ)


 私はアズさんの思い出話が好きだから王様のことも聞けたら嬉しいけれど……私の方でもあんまり王様の話は振らないのがいいのかな。


☆★☆


 夜。

 お風呂に浸かっていて、今日聞いたことを改めて思い出した。

 王様の家上くんかあ…………何も知らずに平凡に生きてていきなり王様任されたタイプが似合うな、うん。でも普通に王子様だったのが王様になったタイプもいい。王子様の家上くんはロマンの塊。あと、庶民なんだけど王様の子供ってことを知ってて計画的に動いて王様になるのもそれはそれで。

 なりたて、なる前……うふふ、想像が膨らむ。

 王様。王子様。ちょっと変えてお殿様。髪型については考えない。若様。あ、若様って呼ばれる家上くんいいな。

 家上くんって白馬似合うかな。白より黒がいいかな? 白馬といえば家上くんはスキーとかスノボとかできるだろうか。魔力がある人ってすっごいジャンプするんだろうな。家上くんが全力でスポーツしたらどうなるんだろう。

 ……あー……王様かあ……釣り合わないなあ……。

 いや家上くんは実際に王様ってわけじゃないけれど。駒岡さんたちにとっての王様っぽい感じだったから、どこかの偉い人の子孫かもしれないって推測した人がいるだけなのだけれど。大事な物を管理できる人だから仲間から優先して守られていると見ることだってできるというか、私は魔術のことを教えてもらわなければそう考えていたはずだし。

 でも、家上くんは指示する立場にいるし、戦力的にそれなりの脅威になる組織のトップと堂々と話せる。今日は責任ある立場を立派に務めていた。お互いに武器を持っているとはいえ相手方に囲まれた状況であれやこれや言われてよくあの落ち着きを維持していたものだ。警戒と緊張による固さはあったけれど固くなりすぎず、イライラした様子を見せることもなかった。芯のあるしっかりした声で自分の考えを伝えていた。黙ってしまった場面はあったけれど。私みたいな人を“なぜかいない人”にすることまでは考えていなかったのかな……憂鬱になるから考えないようにしていたのかも……。家が学校から遠い同級生の帰宅が遅くなることを心配する家上くんなら、あの空間に入る人に何が起きるかなんて簡単に想像つくはず。

 家上くん、今日はかなり嫌な気分になっただろうなあ。今何してるかなあ。明日に備えてもう寝てるかなあ……。

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